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全力女王!~気高き幼女は死神に見捨てられたのか?~  作者: XI


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第127話 カール・シュナイダーからのお願い。

       ◆◆◆


 ことのほか細い体躯。

 ご自慢の口ひげ。

 年はそれなりに食っているのが、カール・シュナイダー中将である。


 同じ中将のリンドブルム・ヴァゴはどちらかと言えば気性が荒く、ウィンストン・ローゼンバーグはグイグイと押しが強い。

 カールは大人しい性格だ。

 冷静な人物とも言える。


 そんなカールに、会議室に来てほしいと言われた。

 呼ばれたのはスフィーダとヨシュアだ。


 ヨシュアは上役なのでまだわかる。

 しかし、自分を招くのはどうしてなのか。

 スフィーダ、そのへんを疑問に思いながら、夕方、会議室に入った。


 すでにカールが石製の白い椅子に腰かけていた。

 ヨシュアとスフィーダの顔を見るなり、腰を上げて慇懃にこうべを垂れる。

 彼女は「よいよい。どうか肩の力を抜いてくれ」と笑い、彼に席につくよう促した。

 短い「はっ」という返事が返ってきた。

 非常に生真面目な男なのである。


 スフィーダの向かいにはカール、左隣にはヨシュア。


 カールが「お忙しいところを申し訳ございません」と謝意を述べた。

 だからスフィーダはまた「よいよい」と言って微笑した。


「して、何用じゃ? そなたからの呼び出しなど、珍しいのじゃ。また息子を将軍にしろとか、そんな話か?」

「また? 息子を将軍にしろ? 陛下、どういうことですかな?」

「先日、ウィンストンがテオの奴を連れて、そのようなことを願い出てきたのじゃ」

「そういうことでございましたか。相変わらず、奴は無茶を言いますな。しかし陛下、ウィンストンはけっして悪い男ではないのです。そこのところは、どうかご理解いただきたい」

「わかっておる」


 カールとウィンストンは古くからの知り合いだ。

 士官学校時代からの友人だと聞く。

 のちの中将を二人も輩出したわけだ。

 当たり年と言えるのではないか。


「では、本題を聞かせてほしいのじゃ」

「承知いたしました」


 そう答えると、カールは「ずいぶんと考えましたが、私ももう六十でございます」と切り出した。


「それがどうかしたか?」

「そろそろ退役を考えているのです」


 寂しい意向だ。


 スフィーダは「そうなのか……」と、つぶやき、若干ではあるが俯いた。

 するとカールは「念のため、陛下にもお伝えしたかったのでございます」と言い、「お呼び立てして、申し訳ありません」と続けた。


「そなたの律儀なところ、わしは好きじゃぞ」

「もったいなきお言葉」

「心残りのようなものはないのか?」

「ございません。多大な責任をともなう仕事ではありましたが、中将には中将にしか見えない景色があり、そこに私はやりがいと生きがいを感じておりました。しかし、その役目を、そろそろ後進に譲りたいのでございます」


 ヨシュアが「それは困りますね」と、きっぱり発した。


「カール・シュナイダー中将。貴方を慕い、貴方のもとで戦いたいという兵は多くいます。今、辞めてしまわれると、正直、痛い」

「なに。後釜などすぐに見つかることしょう。組織とはそういうものです」

「貴方の穴は貴方でしか埋まらないと言っています」

「ヴィノー閣下の統率力があれば、なにも問題などないのではありませんかな?」


 スフィーダが「一つ、よいか?」と挙手すると、二人の「どうぞ」が重なった。


「カールよ、そなたがいなくなってしまったら、わしはスゴく悲しい」

「またもや身に余るお言葉ではございますが、感情に振り回されていてはしっかりとした仕事などできませんぞ」

「それでもよい。それでもいてほしいのじゃ」


 カールはやれやれとでも言わんばかりに、首を横に振った。


「ヴィノー閣下は辞めないでほしいとおっしゃる。陛下は悲しいとおっしゃる。お二人は、私になにを見ていらっしゃるのか」


 間髪入れずにスフィーダは「優しさじゃ」と答えた。

 ヨシュアに至っては「父のような包容力です」とまで言った。


「お二人にそのように思われているとは、考えもしませんでしたな」

「もう少しでよい。できる限りのことをやってくれ。ヨシュアにだって手の回らぬことはあるじゃろう。その際は支えてやってほしい。そなたならそれができるはずじゃ。これまでもそうしてきたはずじゃ」


 カールは深い吐息をついた。


「まさに殺し文句ですな。そこまで言われてしまっては、続けるより他ない」

「おぉ。わかってくれたか」

「言いたいことを口に出してしまう同格が二人もいるのです。そのあいだに入って、彼らがしばしば繰り広げるいさかいを収める。それは後輩にはちとキツいことかもしれませんな」

「そうじゃ、そうじゃ。その通りじゃぞ」

「では、今しばらく、お世話になることにいたします」


 スフィーダは笑みを浮かべながら、「世話になるのはこちらのほうじゃ」と伝えた。


「ヴィノー閣下。お気づきですか? ウィンストンは気が小さいところがある一方で、ときどき、閣下に横柄な態度をとることがございましょう?」

「しばしば、嫌われているようには感じますね」

「誤解なさらないでいただきたい」

「誤解?」

「はい。ウィンストンはヴィノー閣下の力量を認めている。それは間違いありません。だからこそ、嫉妬心を覚えているのでございます。それだけのことなのでございます」

「ご心配は無用です。どう思われていようが、私はウィンストン中将を邪険にしたりはしませんから」

「ありがとうございます」

「貴方が礼を述べることでもないと思いますが」


 ヨシュアが腰を上げると、カールも立ち上がった。

 二人はがっちりと握手を交わす。


「なにかの折には指示を出します」

「重用していただけることに感謝を申し上げます」

「時折、丸投げすることもあるかもしれません」

「丸投げですか。しかし、私はそういうのが好きでしてな」

「やはり貴方は立派です。カール・シュナイダー中将」

「貴方ほどでありませんよ、ヨシュア・ヴィノー閣下殿」


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― 新着の感想 ―
[良い点] 三人称で書いていらっしゃることを改めて意識する話でした。 静かなやり取りの中に、カールさんのお人柄が感じられてとても好きな話でした。 [一言] 軍人幹部の三人の関係がよく見えました。 カー…
[良い点] カール・シュナイダーさん、とても人望のある人なのでしょうね。 スフィーダとヨシュアの台詞、そしてカール・シュナイダーさん自身の台詞から、人となりが伝わってきました。 ジワジワと感動しました…
[一言] 前回からの! 軍人の男の友情!!胸熱!!!! カッコイイです!
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