第125話 わがままエヴァ、その四。
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カナデ王国には、三千の一般兵と五十の魔法使いを派遣したのだと、ヨシュアから聞かされた。
スフィーダはそれでは少ないように感じたので、「足りるのか?」と気を揉んだのだが、彼は「問題ありません」との返答を寄越してきた。
だったら大丈夫なのだろうと、彼女は納得することにした。
信頼してやまない男の言葉だからこそ、信用するに値するのだ。
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カナデへの支援を開始した矢先のこと。
昼食を終えた時間帯。
玉座の間にエヴァ・クレイヴァーが現れた。
背筋を伸ばし、きちんとした姿勢で、まっすぐに近づいてくる。
所定の位置で片膝をつき、頭を垂れる。
スフィーダのゆるしに従い、顔を上げた。
眉根を寄せ、唇を噛み、なんだか切羽詰まっているような表情に映る。
エヴァは開口一番、こう言った。
「ヴィノー閣下、お願いがあります。私をカナデ王国に派遣してください」
敬語を使うなんて珍しい。
誰を前にしても、いつも生意気な口を利くというのに。
ヨシュアが「目的はなんですか?」と問いただすように訊き、それから「ただ暴れたいというのであれば、とてもではありませんが送り出すことはできませんよ」と告げた。
「前に進むべきか、止まるべきか、ずいぶん悩みました。結果、私は前者を選ぶことにしました」
「具体的に、前者とは?」
「戦争に参加していれば、私は今より優れた魔法使いになれるかもしれません」
「魔法は才能です。後天的に達者になるなどということはありません」
「それでも、もっと戦い慣れることはできますよね?」
「その点は否定しませんが」
「とにかく私は試してみたい……試してみたいんです。自分の力に見切りをつけたくないんです」
「ふむ。なるほど」
「お願いします。どうか私のわがままをお聞き入れください」
「言ってみれば、じっとしていられない。そんなところですか?」
「そうです。フェイスを……そしてラニードを倒すためには、強くなるしかないんです」
決意の感じられる口調でそう述べたエヴァ。
ヨシュアは顎に右手をやり、考える素振りを見せてから「わかりました。いいでしょう。参戦しなさい」と答えたのだった。
「あ、ありがとうございます!」
エヴァは興奮したように大きな声を出した。
その顔は喜びで満ち満ちている。
「最後に、エヴァ・クレイヴァー少佐」
「なんですか?」
「貴女に敬語を使って振る舞われると調子が狂います。普段通りでいなさい」
立ち上がったエヴァである。
立礼してから、「ありがとう。閣下」と笑ってみせた。
皮肉屋の側面を見せることが多い彼女であるが、素直に笑うこともあるのだ。
笑ったら、かなりかわいいのだ。
エヴァが去った。
「ヨシュア、おまえはエヴァにも優しくできるのではないか」
「優しかったでしょうか?」
「優しかったぞ」
「嫌いなタイプであることに変わりはないのですが」
「じゃが、たとえばいざとなったときには、助けてやるのじゃろう?」
「助けませんよ。彼女が死んだところで、大した損害はありませんから」
「それ、本気で言っておるのか?」
「ええ。何度だって言います。とにかく嫌いなタイプなんですよ」
「むぅ。おまえらしくもない」
「どうやら私は博愛主義者にはなれないようでございます」




