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第125話 わがままエヴァ、その四。

       ◆◆◆


 カナデ王国には、三千の一般兵と五十の魔法使いを派遣したのだと、ヨシュアから聞かされた。

 スフィーダはそれでは少ないように感じたので、「足りるのか?」と気を揉んだのだが、彼は「問題ありません」との返答を寄越してきた。

 だったら大丈夫なのだろうと、彼女は納得することにした。

 信頼してやまない男の言葉だからこそ、信用するに値するのだ。




       ◆◆◆


 カナデへの支援を開始した矢先のこと。

 昼食を終えた時間帯。


 玉座の間にエヴァ・クレイヴァーが現れた。

 背筋を伸ばし、きちんとした姿勢で、まっすぐに近づいてくる。

 所定の位置で片膝をつき、こうべを垂れる。

 スフィーダのゆるしに従い、顔を上げた。

 眉根を寄せ、唇を噛み、なんだか切羽詰まっているような表情に映る。


 エヴァは開口一番、こう言った。


「ヴィノー閣下、お願いがあります。私をカナデ王国に派遣してください」


 敬語を使うなんて珍しい。

 誰を前にしても、いつも生意気な口を利くというのに。


 ヨシュアが「目的はなんですか?」と問いただすように訊き、それから「ただ暴れたいというのであれば、とてもではありませんが送り出すことはできませんよ」と告げた。


「前に進むべきか、止まるべきか、ずいぶん悩みました。結果、私は前者を選ぶことにしました」

「具体的に、前者とは?」

「戦争に参加していれば、私は今より優れた魔法使いになれるかもしれません」

「魔法は才能です。後天的に達者になるなどということはありません」

「それでも、もっと戦い慣れることはできますよね?」

「その点は否定しませんが」

「とにかく私は試してみたい……試してみたいんです。自分の力に見切りをつけたくないんです」

「ふむ。なるほど」

「お願いします。どうか私のわがままをお聞き入れください」

「言ってみれば、じっとしていられない。そんなところですか?」

「そうです。フェイスを……そしてラニードを倒すためには、強くなるしかないんです」


 決意の感じられる口調でそう述べたエヴァ。


 ヨシュアは顎に右手をやり、考える素振りを見せてから「わかりました。いいでしょう。参戦しなさい」と答えたのだった。


「あ、ありがとうございます!」


 エヴァは興奮したように大きな声を出した。

 その顔は喜びで満ち満ちている。


「最後に、エヴァ・クレイヴァー少佐」

「なんですか?」

「貴女に敬語を使って振る舞われると調子が狂います。普段通りでいなさい」


 立ち上がったエヴァである。

 立礼してから、「ありがとう。閣下」と笑ってみせた。

 皮肉屋の側面を見せることが多い彼女であるが、素直に笑うこともあるのだ。

 笑ったら、かなりかわいいのだ。


 エヴァが去った。


「ヨシュア、おまえはエヴァにも優しくできるのではないか」

「優しかったでしょうか?」

「優しかったぞ」

「嫌いなタイプであることに変わりはないのですが」

「じゃが、たとえばいざとなったときには、助けてやるのじゃろう?」

「助けませんよ。彼女が死んだところで、大した損害はありませんから」

「それ、本気で言っておるのか?」

「ええ。何度だって言います。とにかく嫌いなタイプなんですよ」

「むぅ。おまえらしくもない」

「どうやら私は博愛主義者にはなれないようでございます」


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― 新着の感想 ―
[良い点] エヴァの本気度を感じて、その上で「普段通りで」と言うヨシュアに優しさを感じました。 本気で嫌いなのか、興味深いです。 [一言] 私、ヨシュアの素直じゃないところが好きなんですよね。 ちょっ…
[一言] ヨシュアはなんだかんだで助けるに一票。 ただし、それより明確に重要な案件がある場合は除いて。 あと、助けてもそれをスフィーダのせいにしそうwww
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