第124話 十七歳コンビの異動。
◆◆◆
さて、十七歳コンビのご登場だ。
だぼっとした黒い魔法衣姿のピットに、タイトな黒い軍服に身を包んだミカエラである。
二人は赤絨毯の上で片膝をついている。
なんでもヨシュアにお願い事があるらしい。
「首都防衛隊に身を置く必要がなくなりました」
そう切り出したのはミカエラ。
するとヨシュアが「ミカエラ少尉はドル・レッドに、ピット少尉はイーヴルに勝利したからですか?」と訊いた。
「あたし達、本音では、勝ったかどうかは微妙だと考えています。だからって再戦を申し込んだところで、アイツらはもうやり合ってはくれませんよね?」
「でしょうね。ある種の和平交渉がまとまったわけですから」
「だったら、もう戦場に出してもらうしかないかな、って」
「好戦的ですね」
「ダメですか?」
「まあ、なんにでもがっつくのが若者だとは思います」
「カナデに援軍を出すんですよね?」
「ええ」
「じゃあ、そこに加えてください」
ここでピットが「イェンファって、相手としちゃあ、ぬるそうだけどな」と口を挟んだ。
「イェンファにだって魔法使いはいます。そんなふうに舐めてかかるようであれば、到底、送り出すことはできませんね」
「馬鹿が余計なことを言いました。申し訳ありません」
ミカエラはそう言うと、ピットの側頭部をぽかっと叩いた。
「気を抜くようなことは絶対にしません。精一杯、任務に励みます」
「そこまで言うなら、わかりました。部隊に組み入れて差し上げましょう」
「ありがとうございます。辞令はいつになりますか?」
「すぐにでも」
「閣下はスゴいですね。人事権まで掌握してるなんて」
「そういうわけではないのですが」
頭を垂れると、すっくと立ち上がったピットとミカエラ。
立礼を挟み、揃って颯爽と身を翻す。
向こうへと歩いていく姿を見ていると、二人とも、一皮剥けたように感じられた。
「本当に有望な若者達です。彼らの未来は、きっと明るい」
「それでも不安は残る。そんなふうに考えるわしは、極度の心配性なのじゃろうか」
「女王陛下は心配性なくらいがよいのだと思います」
「そういうものか?」
「はい」
◆◆◆
昨日、めでたく辞令が出たらしい。
その礼を伝えたくて、再び訪れたのだとミカエラは言った。
相棒のピットも含め、まったく律儀なことである。
スフィーダが「体調に問題はないか?」と訊くと、ミカエラが「はい。万全です」と答えた。
「早く環境に慣れることが肝要じゃぞ?」
「心得ています。問題なく、あたしはやれます」
「ピットも大丈夫そうか?」
「はいッス。ミカに負けてらんねーッスよ」
片膝をついた姿勢から立ち上がり、立礼した二人。
彼らは「ありがとうございました」と声を揃えると、上体を起こした。
「戦況はいつどう変化するかわかりません。指揮官の命令とあらば、きちんと退くんですよ?」
「俺達が退却せざるを得ない状況になんか、なりっこないッスよ」
今日も後頭部をぽかっと叩かれるピットである。
「ピット、アンタはすぐに要らないこと言っちゃうのをなんとかしな」
「悪かったよ。だからって、いちいちぽかすか叩くなよ」
「愛の鉄槌」
「愛があんのか?」
「嘘。ないよ」
「俺、いつかミカと結婚すんのかなぁ」
「いきなりなに言ってるわけ? ひょっとして死亡フラグ?」
「そんなつもりはねーよ。ま、なにをやるにしたって、なんとかなるだろ」
「発言の根拠が不明」
「お互い、うまくやろうぜって話だよ」
「馬鹿」
「ひでーっ」
「行くよ。あー、早く敵を殴りたい」
右腕をぐるぐる回しながら去りゆくミカエラ。
もう一度立礼を寄越すと、ピットも彼女に続いた。
二人には、どんな苦難も乗り切ってほしい。
スフィーダ、強くそう願った。




