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全力女王!~気高き幼女は死神に見捨てられたのか?~  作者: XI


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第122話 二人のオードリー。

       ◆◆◆


 杖をつきながらの老婆と、腰がしゃんと伸びた老婆。

 ともにはくはつの、二人の老婆。

 所定の位置で揃って立礼すると、彼女らはそれぞれ椅子に座った。


 スフィーダ、玉座を離れ、ぴょんぴょんぴょんと階段をくだる。

 少し歩み、二人に近づく。

 それから名を訊いた。


 杖の老婆はオードリー、ニコニコ笑っている。

 もう一人はむすっとした顔のまま、名乗ろうとしない。

 それってなぜだろう?

 まあ、いい。


 不機嫌そうな老婆のほうが、「おやおや。スフィーダ様は私らの耳が遠かろうと考えてそばまで来てくださったんですね。お優しいことですね」と言ってきて、それはまるで嫌味でものたまうかのような口調だった。


「二人は何用で参ったのじゃ?」

「用なんてありませんよ。娘が勝手に申し込んだんですよ」

「本当に嫌なら来なければよかったじゃろう?」

「そうもいきませんよ。選ばれた以上はお訪ねしないと。御上に背いたらなにをされるかわかったものじゃありませんからね」

「なにもされんと思うが……。まあ、よい。会いに来てくれて嬉しく思う。ありがとうなのじゃ」

「べ、別にスフィーダ様を喜ばせようと思って来たわけじゃないんですからね」


 ツンデレの老婆かと思うと、微笑ましさを覚えるより他なかった。


「もうよいじゃろう? そろそろそなたも名前を教えてくれ」

「……リー」

「ん?」

「……オードリー」

「おぉっ、二人は同じ名前なのか」

「悪いですか?」

「否。むしろ素敵なことではないか。見たところ、親友同士なのじゃろう?」

「そんなふうに見えますか?」

「大いに見えるぞ」

「わ、私は迷惑しているんですからね。こんなのと仲良し扱いされるなんて」

「そなたはどうじゃ? 嬉しいじゃろう? のぅ?」


 スフィーダはもう一人のオードリーに顔を向けた。

 しかし、ニコニコ顔のまま、答えない。

 答えないまま、口の端からよだれを伝わせた。

 それが顎先から垂れ落ちそうになる。


「ああもうっ。やだやだ。汚いわね、アンタは」


 ツンデレのオードリーが慌てた様子でハンカチを使い、よだれを拭った。


「のぅ、オードリー、ひょっとして、こっちのオードリーは……」

「ええ、そうですよ。恍惚のヒトなんですよ」


 恍惚のヒト。

 ぼけてしまっているということだ。


「相当、進んでおるのか?」

「ご覧の通りですよ。だから、連れてくるのは嫌だったんです。いつもっと無礼を働いてしまうかわかりません。実は一刻も早く帰りたいんですから」

「無礼だなどとは思わぬし、時間がゆるす限り、ゆっくり話をしたいのじゃが」

「お断りします。さっさと済ませてください」

「むぅ。わかった。じゃったらなるたけ、手短に」

「そうしてください」

「のぅ」

「はいはい。なんですか?」

「老いは怖いか?」

「それはもう、怖いですよ。私がぼけるようなことがあれば川にでも突き落として殺してほしいって、娘夫婦に言ってあるくらいですよ」

「そ、そうもいかんじゃろう?」

「いいんですよ。醜態を晒すくらいなら、死んだほうがマシですよ」


 また隣の友人の口元を拭うオードリー。

 拭いながら、不意に彼女は涙を浮かべた。


「ああ、ホント、情けない。こんなになってしまって……」


 老いを知らない自分が口にすると、嫌な言い方に聞こえてしまうかもしれない。

 そうとは知りつつもスフィーダ、あえて「それも仕方のないことではないのか?」と訊いた。


「ええ、ええ。そうですよ。仕方のないことですよ。だからってねぇ、私のことまで忘れられてしまうなんてねぇ、そんな殺生な、ねぇ……」

「そうか。もう、そなたのこともわからぬのか……」

「そうですよ。それくらい悪いんです。それでも、きっと陛下から名前を訊いていただけるだろうからって、その受け答えだけはできるようにって練習して、ねぇ……」

「そうか。そこまでしてくれたのか……」

「上手に言えたでしょう? がんばったでしょう?」

「うむ。うむ……」


 目に涙を浮かべながら、スフィーダは恍惚のオードリーの手に手を重ねた。

 骨ばった手だ。

 小さな手だ。


「ほら、アンタ、女王陛下の手だよ? スフィーダ様の手だよ? 触ってもらったんだ。ご加護があるよ。まだまだ長生きできるといいねぇ……」


 聞かされたわけでもないのに、二人のオードリーがともに成長してきた過程が、頭の中に思い浮かぶ。


 幼い頃は、ままごとにでも興じたのではないか。

 手をつないで登校することが日常だったのではないか。

 ときには恋の悩みを打ち明け合ったりしたのではないか。

 恋に破れた相手を慰めたこともあったのではないか。


 互いの結婚を祝い合ったのではないか。

 互いの子の誕生を喜び合ったのではないか。


 けんかもしたかもしれないが、年老いても一緒にいようと誓い合ったのを忘れることなどなかったのではないか。


 なんと言ったらいいのか、わからない。

 だが、なにかを伝えたくてしょうがない。


「我が国に生まれてくれて、ありがとう……」


 それだけ言えた。


 すると、ニコニコ顔のオードリーの左の目尻から、一筋の涙が伝ったのだった。


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