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第12話 痴漢被害に遭った女子。

       ◆◆◆


 近衛兵に挟まれ歩んでくる女は、目元にハンカチを当て、しくしく泣いている。

 見たところ、若い。

 少女を脱したくらいといったところだろう。


 女は泣くことで手一杯なのか、所定の位置に達しても跪くことはしない。


 どうあれ礼を尽くさないわけだ。

 近衛兵がむっと気色ばむ。

 しかし、スフィーダは「よい」と言った。

 二人の兵はただちに女から距離をとり、脇に退いた。

 

「まずは名前を聞かせてもらおうかのぅ」

「……ですか」

「ん?」

「名前なんてどうだっていいじゃないですか!」


 女が顔を上げていきなり大声を出したので、スフィーダ、びっくり。

 思わず身を引き、両手を上げてしまった。


「あ、あいわかった。名前はよしとしよう。で、なにがあったのじゃ? どうして、泣いておるのじゃ?」

「昨日、痴漢に遭ったんです」

「ち、痴漢?」

「夜、街を歩いていたら、いきなり男が現れて、コートの前を開けたんです。そしたら、裸だったんです」


 それは確かに変態の所業であろうが、それでもスフィーダにはその男が痴漢なのかどうかはわからない。

 世事に疎いせいである。


「それが痴漢なのか?」

「痴漢に決まってるじゃないですか!」

「い、いちいち声を荒らげるでない」

「うら若き乙女の前であんなことをするなんて、信じられません!」


 おぉぅ、自らをうら若き乙女と言うのかと、感心したくもなるというものだ。


「じゃが、実害はなかったのじゃろう?」

「ありますよ!」

「あるのか?」

「私、処女なんです」

「む、むぅ、そうなのか。して?」

「とにかくショックを受けてるんです。こんなんじゃあ、とてもじゃないですけれど、男のヒトに抱かれてやろうだなんて思えません」

「抱いて抱かれてだけが、男女の仲ではないじゃろう?」

「セックスは大事なんです!」


 女が言葉を選ぶことなく言ってくるので、スフィーダ、なんだか恥ずかしくなってきた。

 実際、少々、頬が熱い。


「陛下だって処女ですよね?」

「そ、そうじゃが、それがどうかしたか?」

「二千年以上も生きてきて処女とか、むなしくありませんか?」

「む、むなしくはないぞ?」

「嘘です、そんなの」

「い、いや、本当にむなしくはないのじゃぞ?」

「あーあぁ、セックスできない女王陛下って、本当にかわいそー」

「話が逸れておると思うのじゃが……」

「あー、かわいそー、かわいそー、ホントにかわいそー」

「む、むぅ……」


 隣からクスクスと笑うのが聞こえてきた。

 ヨシュアからしたら、面白おかしい事案らしい。


 それにしても、なぜこのような女を謁見者として選んだのか。

 恐らくだが、なんとなく楽しいことになりそうだからとか、そんな理由ではないのか。

 まったく、意地が悪いというかなんというか……。


「そもそも、その痴漢がそんな真似をしたのは、なんの目的があってのことなんじゃろうか」

「決まってるじゃありませんか。その行為で興奮するんです。はあはあするんです」

「や、やはり、はあはあするのか」

「そうです。はあはあするんです」


 スフィーダ、いよいよ、本当に恥ずかしくなってきた。


「で、でじゃ。いったい、そなたはわしになにをしろと言うのじゃ?」

「痴漢を捕まえてください。なんだったら、殺してやってください」

「捕まえるのは警察の仕事じゃろう? というか、殺すというのは、いくらなんでもやりすぎではないか?」

「いいんです。あんな奴、死んだほうがいいんです。ところで、ヴィノー様」

「なんですか?」

「ちょっとこちらにいらしてください」


 ヨシュアは素直に言うことを聞いて、階段を下りた。

 そしたら、女は彼に勢いよく抱きついたのだった。


「抱いてください。私をメチャクチャにしてください。ヴィノー様、いえ、ヨシュア様!」


 とてもではないが、男に抱かれてやろうとは思えないのではなかったのか……。


 まったくもって、本当にとんでもないおなが来たものである……。


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― 新着の感想 ―
[良い点] 痴漢はめちゃ許せんが、 この女はこの女でぶっ飛んでますね。 というかさりげなくスフィーダをディスってるし、 やめてさしあげろ状態ですねw 本当にとんでもない女子(おなご)ですね!
[良い点] スフィーダの元にはいろんな人がくるんですね! そしてヨシュアさんの腹黒さんがまた面白い! [気になる点] 恋愛脳の私としてはフォトンがきになります! また出てきてほしいな〜
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