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第115話 不幸女子から一転。

       ◆◆◆


 二十一歳。

 大学生。

 アパートで一人暮らしをしているというローザは言った。


「困ったことになったんです」


 スフィーダ、「なにがどう困ったのじゃ?」と訊ねた。


「最近、引っ越してきたヒトがいるんです。ほぼ同じタイミングで、両隣に」

「それで?」

「特に向こうから挨拶はなかったんですけれど、私としては仲良くしたいというか、親睦を深めたいなあと考えたので、クリームシチューをおすそわけしに訪ねました。そしたら」

「そしたら?」

「両隣の男性とも、スッゴい二枚目だったんです」

「ほぅほぅ」

「だから、困ってるんです。どっちを選べばいいのかな、って」

「選べる立場なのか?」

「はい。実は二人から告白されちゃったんです。ちなみに、両方の男性とも、私と同い年です」

「恋の話に恵まれてもおかしくはない。そなたは実に愛らしい顔立ちをしておるからの。性格もよさそうじゃ」

「ありがとうございます」

「よいよい。して?」

「一人はスゴく真面目な男性です。もう一人はちょっとチャラいです」


 なるほど。

 見た目に関して言うと、それは確かに両極端と言える。

 特にチャラい男というのは、スフィーダにもそれなりに見当がつくのだ。

 チャラい男は、確かにこの世に多くいるであろうことを彼女は知っている、ガッデム。


「スフィーダ様はどちらの男性にすべきだと思われますか?」

「わしの意見が聞きたくて、今日は訪れたというわけか」

「そうです。二千年の生で得た知見を教えていただきたいです」

「知見といってもじゃな、わしは長くは生きてはおるが、ろくすっぽ恋などしたことはないのじゃぞ?」

「でも、あるにはあるんですよね?」

「まあ、なくはないの。といっても、チャラい男の詳しい生態まではわからん。それこそちょっとばかりの経験則があるというだけじゃ。というか、それ以前にじゃな」

「なんですか?」

「いや。どちらかを選んだ時点で、もう一方との関係は微妙になってしまうのではないのかと思っての」

「その通りなんですけど、ちょっと前に賃貸契約の更新をしてしまったので」

「賃貸契約の更新?」

「今、部屋を出ると、もったいないということです」

「むぅ。なるほどの。どうあれ住み続けるしかないというわけか」

「はい」

「選ぶにあたっては、まあ、案がないこともないぞ? あくまでもわしの個人的な意見じゃがの」

「どうすればいいですか?」

「両方とデートをしてみて、印象がよかったほうにすればよいのじゃ」

「あっ、そうですね。おかしいなあ。どうしてそんな簡単なことが思い浮かばなかったんだろう」

「どう転ぶか、結果を知りたい。また会いに来てもらってもよいか?」

「はい。わかりました」

「頼んだぞ」




       ◆◆◆


 三日後。


 ローザは椅子に座るなり、しくしくと泣き始めたのだった。


「どどっ、どうしたのじゃ?」

「結局のところ、二人ともヤリモクだったんです」

「ヤ、ヤリモク」


 前に誰かがそんな単語を持ち出したなと思い、記憶を探る。

 まもなくして、その意味を思い出した。


 ヤリモク。

 男の目的は濡れ事オンリーだったということだ。


「ま、真面目なほうも、そうじゃったのか?」

「はい。危うく、そういうホテルに連れ込まれそうになりました」

「チャラい男のほうは?」

「デートが終わったあと、私の部屋に押し入ろうとしました」

「そ、それはまた災難じゃったの」

「もう男のヒトのことなんて信じられません」

「じゃが、世の中は広い。いずれはきちんとした男に会えるはずじゃ」

「今の私には、到底、そうは思えません」


 引き続き、ローザはしくしく泣くのである。

 たいへん悲しそうに泣くのである。


 今日も玉座のかたわらに立っているヨシュアが、「ローザさん」と呼んだ。

 まさか声を掛けられるなどとは思っていなかったのだろう、ローザは弾かれたように「は、はい、ヴィノー様。なんですか?」と背を正した。


「貴女があまりに不憫に思えてしょうがありません。私の知り合いでよろしければ紹介しましょう」

「えっ。で、でも、お話しした通り、私はすっかり男性不信に陥っていて……」

「安心してください。本当に誠実な男性としか引き合わせませんから。ある意味、保証書つきです」

「保証書?」

「貴族ですよ」

「え、えーっ!? わ、私、貴族の方とお付き合いさせていただこうだなんて大それた希望は持ってないです。ホント、とんでもありません」

「それでも、会うくらいはしてみませんか?」

「私はまだ学生なんですけど……」

「もし結婚するという運びになれば、大学生活を終えてからでもよいでしょう」

「で、ですけど、やっぱり私は一般人すぎるくらい一般人だから……」

「家柄を気に掛けない貴族も結構います」

「じゃ、じゃあ、えっと……」

「その気になりましたか?」

「はい、少しだけ……。どう考えてもダメ元ですけど、お願いしてもいいですか……?」

「承知しました」




       ◆◆◆


 後日、ローザは再び話をしに訪れた。

 椅子に座るなり、頬を赤らめる。

 彼女いわく、子爵家の男と会っているらしい。


「私は惹かれつつあります。貴族の方って、あんなに素敵な方ばかりなんですか?」

「厳しく選んだつもりです」

「とにかく目から鱗です」

「話がうまくまとまるといいですね」

「嫌われない限りは、うまくいくような気がしています」

「ご両親には話しましたか?」

「はい。とてもびっくりしていました」

「貴女は運がいい。この場を訪れなければ、今の状況はなかったわけですから」


 ローザは「はい。ありがとうございました!」と元気よく言った。


 ヨシュアはこんなふうに、しばしば、いい仕事をするのである。


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