表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
全力女王!~気高き幼女は死神に見捨てられたのか?~  作者: XI


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

114/575

第114話 間食をやめられない妻。

       ◆◆◆


 かなり痩せた男とかなり太った女が、玉座の間に現れた。

 見た感じ、揃ってまだ三十路くらいだろうと思われる。

 二人してお辞儀をすると、スフィーダのゆるしに従って椅子に腰掛けた。


 早速スフィーダ、「まずは名前を聞かせてもらってもよいか?」と訊ねた。


「私はチャック、妻はサラと申します」

「ほぉほぉ。夫婦なのじゃな」


 まあ、はなからそんなふうに映っていたのだが。


「して、何用じゃ?」

「用事といいますか、スフィーダ様にお会いしたかったのでございます。謁見の機会など、そうそうないことでしょうから」

「会いに来てくれてありがとうと言っておくのじゃ」


 とんでもありませんと言うと、チャックはサラのほうに顔を向けた。

 すると彼女はそっぽを向いた。


 夫から顔を背ける。

 そこにある意図はなんだろう。


「お会いしたかったというのは本当です。でも、もう一つ、理由がありまして……」

「それはなんじゃ?」

「申し上げていいですか?」

「よいぞ。なんでもどんと来いなのじゃ」

「ではその……妻が太るのが止まらないんです……」

「その旨、相談したいと?」

「いけませんか?」

「そんなことはないぞ。でき得る限り、力になろう」

「ありがとうございます」


 スフィーダとチャックがそんな会話をしている最中も、サラはそっぽを向いたままである。

 悪びれる様子はまるでない。


「なぜ歯止めがきかないのじゃ?」

「恐らくですけれど、間食をやめられないせいかと……」

「それは確かに太る要因になってしまいそうじゃのぅ」


 ここに来て、初めてサラが口を利いた。

 彼女は「うるさいよ、アンタ」と言い、「こんなこと、スフィーダ様に関係ないじゃないか」と続けた。

 強気だ。

 非常に気が強い女だ。


「じゃが、そんな生活を続けていては、いつか体を壊してしまうぞ? 食事は三食に留めるのが理想的じゃ」

「そんなの嫌です」

「なぜじゃ?」


 サラがようやくスフィーダのほうを向いた。


「お菓子がおいしいからに決まっているじゃありませんか」

「し、しかしじゃな」

「満足いくまでお菓子を食べられれば、早死にしたっていいんです」

「そんなことになってしまったら、夫が不幸になるだけではないか。チャック、そうじゃろう?」

「はい。なんだかんだ言っても、大切な妻ですので……」

「サラよ、夫はここまで言ってくれておるぞ? それでもやめられぬのか?」

「スフィーダ様もしつこいですね」

「しつこくもなる」

「もう放っておいてください」

「相談された以上は、話をよい方向に持っていきたいのじゃ。わかってくれぬか?」

「無理です」

「む、むぅ、取りつく島がないとはこのことじゃな。ならば、もはや仕方あるまい」

「なにが仕方ないっていうんですか? お菓子を食べ続けてもいいとおっしゃっるんですか?」

「そんなわけないじゃろうが。のぅ、チャックよ」

「は、はい」

「率直に申すぞ。どれだけ大切に思っていても、サラとは別れるべきじゃ」


 するとサラは眉間にしわを寄せて「はあ?」と発した。

 チャックはチャックでびっくりしたような顔。


「そなたは男前じゃ。その気になれば、新しい妻などすぐに見つかることじゃろう」

「で、ですが、私にそのつもりは――」

「いいや。離婚したほうがよい。サラはわがまますぎる」

「ちょ、ちょっと待ってくださいよ」


 サラが会話に入ってきた。


「そんなことされたら、私、困りますよ」

「どう困るのじゃ?」

「私は旦那に養われて当然なんです。夫婦なんですから」

「それはあまりに乱暴で無責任な物言いじゃ。夫に与えてもらうばかりで、そなたはなにも与えておらんではないか」

「どうしてスフィーダ様にそこまで言われなくちゃならないんですか」

「言いたくもなる。チャックがあまりにも不憫に思えるからの」

「不憫?」

「そう。不憫じゃ」

「わ、わかりましたよ。やめますよ。すぐには無理かもしれないけど……」

「おぉっ。折れてくれるのか?」

「だって、しょうがないじゃないですか。結婚した手前、私は不憫だとは思いませんけれど……」


 そしたら、チャックは「本当かい?」とサラに問い掛けた。


「まあ、それこそなんだかんだ言っても、私だってアンタのこと、嫌いじゃないからね」

「そうか。そうかい……」


 チャックは右腕を目に当て、感涙だろう、泣き始めた。

 サラはそんな夫の頭をぱしっと叩くと、「……悪かったよ」と述べた。

 なんとも美しい夫婦愛ではないか。

 悪妻など、世の中にはそうそういないのだろう。


「スフィーダ様に好き勝手言われて、私、悔しいです」

「その悔しさをバネにして、ダイエットをがんばるのじゃ」

「はいはい、わかりましたよ。ホント、仕方ないなあ」

「そなたは痩せたら美人じゃと思うぞ?」

「おべっかは結構です」


 サラは礼をせず、チャックは深々と礼をしてから立ち去った。


 ヨシュアが言う。


「二人に子はいないのでございましょうね」

「うむ。おったら早死にしてもいいなどとは、口が裂けても言えんじゃろうからの」

「今後、しっかりとした幸福を掴めるとよいですね」

「まったくじゃ」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ