第100話 ラース、出陣。
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眉目秀麗、ここに極まれり。
薄い装甲の銀色の鎧をまとったラースが、謁見に訪れたのだった。
長く伸びた黒髪を、後ろで束ねている。
本当に、見違えるほどに大きくなった。
しゅっとした、美しい男性に育った。
少年が成長した様子を目の当たりにすると、つい目を細めたくなる。
微笑ましくもあり、頼もしくも映るのだ。
ラースは用意された椅子に座ることはせず、片膝をつき、頭を垂れた。
ここはちゃんとした大人として扱ってやるべきだろうと考え、スフィーダは毅然とした態度で「面を上げよ」と告げた。
ラースは「はっ」と短く発し、改めて顔を見せてくれた。
スフィーダ、にこりと笑う。
ラースもようやく破顔した。
「立つのじゃ、ラースよ」
「いえ。このままで」
「立ち姿を見ていたいのじゃ」
「そういうことであれば」
立ち上がったラース。
絵になる。
本当に、立派になった。
「三日後、出陣いたします」
「聞いておる。ついにこのときが参ったのじゃな」
「はい。必ず、我が国を、ビーンシィを取り戻します。ヴィノー様。こたびは援軍の要請をお受けいただき、ありがとうございます」
ヨシュアが「貴国、ハインドの士気はいかがですか?」と、とても優しい口調で言葉を掛けた。
「非常に高うございます」
「今次作戦における貴方の立場は?」
「小隊長です」
「驚くべき出世です」
「自分でも驚いています」
「言っていいんですよ? 自分には才能があったようだと」
「そうは思いたくありません。日々の鍛錬の成果だと考えたいです」
「そういう返答を期待して伺いました」
「誰よりも先頭に立って戦います」
「あまりムキになってはいけませんよ?」
「はい。まことに恐れ多いことながら」
「なんでしょう?」
「私にとって、ヴィノー様は兄のような存在です」
「そう言っていただけると、悪い気はしませんね」
スフィーダは笑顔で「これ。二人でラブラブするでない」と割り込んだ。
「ラースよ、彼我の戦力については、どう見ておるのじゃ?」
「グスタフは国民皆兵をうたい、大量のニンゲンを徴兵したようです。数だけなら、向こうのほうがずっと多いでしょう」
「数だけなら、か」
「我が軍は筋肉質な態勢をもって、事に臨みます」
突然、大扉が開いた。
謁見中は、他のニンゲンは通さないことになっているはずなのだが……。
乱入してきたのは、エヴァ・クレイヴァーだった。
歩み、近づいてきて、ラースと肩を並べる。
笑顔で「やっほー」と言いつつ、スフィーダに向けて右手を振ってみせた。
スフィーダ、エヴァのことは結構好きだ、特にプリプリのヒップが好きだ。
一度、揉んでやったことがあるのだが、最高の感触だった。
「エヴァよ、戻っておったのか」
「英気を養うためにねぇ」
「英気を養う? ということは」
「ハインドの援軍よぉ。で、アンタ、誰?」
エヴァは腕を組むと、ラースの顔に自らの顔をグイッと近づけた。
少々、たじろいだ彼である。
「ラ、ラース・アルマシー」
「へぇ。アンタが王子様なんだ。唾、つけとこっかな」
「エヴァ・クレイヴァー少佐」
「なによぅ、冗談じゃない。閣下は相も変わらず、お堅いわね」
「さっさと荷物をまとめて現地に向かいなさい。待機していなさい」
「やーよ。今夜、観たいミュージカルがあるから。それが終わったら行ってあげる」
「いい加減、クビにしますよ?」
「だったら、閣下の女にしてよ。そしたら、ずっと遊んで暮らせるでしょ?」
「他をあたりなさい」
「冗談よ。っていうか、冗談に決まってるじゃない。男なんてみんな馬鹿なんだから」
「出ていきなさい。そもそも、どうしてここを訪れたんですか?」
「野暮な質問ですこと。どんな行動にも理由があるとは限らないわよ?」
「もう一度言います。出ていきなさい」
「はーい」
エヴァはお尻を振り振り、去っていった。
「綺麗な女性でしたね」
ラースがそう言った。
それを受けて「オススメはできませんよ」と忠告したヨシュア。
「腕は一級品です。グスタフの魔法使いのレベルがいかほどのものかはわかりかねますが、あるいは彼女一人で抑え込めるかもしれません」
「それほどの使い手なのですか。スゴいですね」
「魔法使いの相手はウチの部隊で一手に引き受けますから、心配しないように」
「はい。重ねて、お礼を申し上げます。ありがとうございます」
スフィーダ、ここで「ラースよ」と名を呼んだ。
「そなたはこの戦が終わったら、どうするのじゃ?」
「軍に残るつもりです」
「統治する側を目指さんのか?」
「それは、母の代で終わりにしようと考えています」
「そうか。まあ、それもよかろう」
「はい」
「早く静かな生活を送れるようになれればよいのぅ」
「そうですね。落ち着いたら」
「落ち着いたら?」
「恋をしてみたいです」
ラースは柔らかに笑んでみせた。




