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死神腕の少年剣士  作者: 風炉の丘
【1】ハグレモノ案件
9/27

1-9 闇の中

「くはぁ! はぁっ はぁっ ここは……どこ…?」

 超重力から解放され、呼吸を取り戻したシロガネは、激しく息を吸いながら周囲を見回す。

 暗くて広い空間。生臭い獣の臭い。空気の流れは無い。地肌が冷たい。見上げると、ひび割れた天上から僅かに光が射し、時々土や小石が落ちてくる。

 耳を澄ますと僅かな呼吸音。周囲に何かいる? 幸い、右腕はグレートソードを握ったままだ。いつでも反撃できるよう用心する。

 しばらくして暗闇に目が慣れてくると、周囲に何かが横たわっているのが分かる。これは…獣か?

 ウサギやネズミ、カラスや野鳥、キツネやシカ、オオカミやクマ。

 雑木林に住む、ありとあらゆる動物が横たわっていた。触れてみると僅かに暖かく、小さく呼吸していた。

 辛うじて生きているが、いくら触っても嫌がる様子気配もない。

 …まさか痺れ毒? "掃除屋"の生き餌? ここは"掃除屋"の巣の食料貯蔵部屋か!


 つまりは、こう言う事なのだ。

1)シロガネの足下には"掃除屋"の巣が広がっており、ちょうど真下に食糧貯蔵部屋が作られていた。

2)しかも地上の近くに作られていたため、巣の他と比べて天井が低かった。

3)そこでシロガネは重力魔法の捕縛技を喰らう。

4)しかし、シロガネはいつまでも気絶しないので、"掃除屋"の増援が次々と到着。

5)シロガネの体重はついに二百倍に達し、地面が耐えきれずついに崩落。

6)シロガネは天井を破って貯蔵部屋へ転落。天井の穴は岩や土が木の根に引っかかり、美味い具合に塞がる。

7)突然得物を見失い、地上の"掃除屋"は大パニック。それはもう大騒ぎさ!


 しかしシロガネには、何が起きたのかなんてどうでも良かった。些細な問題だった。

 とにかく辿り着いたのだ。目的地に!

 雑木林の動物が保存食として沢山蓄えられているのだ。まだ希望はある。

 妹ちゃんは、兄妹はきっと生きている! 探せ! 探せ! 人影を!

 何処だ! 何処だ!! 何処だ!!

 いた!

 毛皮とは違うシルエットが二つ。しかも大人と子供のように大きさが違う。

 シロガネは無我夢中で駆け寄った。

 横たわる小さな影。それは紛れもなく女の子だった。間違いない。妹ちゃんだ!

 女の子は大きな影に寄り添うように横たわっていた。きっとこっちがお兄さんなんだな。


 ……だれだこいつは!


 性別は男で間違いない。だがしかし、この子の兄にしては年を食いすぎている。

 どう見ても40代以上のおっさんだ。しかも服装からして村人じゃない。外国人? 旅行者? それとも冒険者か?

 シロガネは頭を抱えた。完全に想定外だ。困った。どうしよう。

 ラズ老師に指示を求めたかったが、肝心な時にマジックドローンいない。

 妹ちゃんを助けるのは当然として、このおっさんはどうする? そして兄くんはどこだ?


 こういう時のために、王宮戦士は超万能回復薬を持っている。その名は"御神酒"と書いて"ソーマ"と読む。

 今回は二人の兄妹が行方不明との事で、"御神酒ソーマ"も二本用意していた。

 ここで使えば二人は助かる。だけどその場合、兄くんはどうする?

 極端な話をする。兄くんが肉団子にされ喰われたとしよう。"掃除屋"は鮮度を大切にするから、肉団子にする直前まで生き餌を生かしておく可能性がある。

 もし肉団子にされ、更に喰われた後だとしても、すぐに肉片を取り戻し、"御神酒ソーマ"をかければ、可能な限り肉体が修復され、命を取り戻せるかもしれないのだ。

 それほどまでに効果は凄まじい。正に超万能回復薬である。

 やはりダメだ。兄くんがここにいないと確定しない限り、このおっさんに"御神酒ソーマ"は使えない。


 ラズ老師であれば、おっさんに飲ませるよう指示しただろう。妹ちゃんは身体が小さい。大人なら運び出すのは簡単だ。妹ちゃんにラズ老師の元に到着するまで我慢してもらえば、兄くんの分は残せる。

 しかしシロガネの頭ではそこまでは考えつかない。もし気付いたとしても妹属性持ちだ。やはり妹ちゃん最優先で使ったに違いない。

 そして正に、妹ちゃんに"御神酒ソーマ"を使おうとしたその時……

「んん…」

 小さく声を上げ、妹ちゃんは目を開けた。

「…だあれ?」

 眠そうに目を擦りながら身体を起こす。

 眠っていた!? 麻痺じゃなくて!? しかも、こんなところで!?

 困惑するシロガネを寝ぼけ眼で見ていた妹ちゃんは、シロガネに向かい姿勢を正して座ると、「こんばんは」と頭を下げる。

「こん…ばんは? ああ、うん。こんばんは」

 昼なのに何故? ああそうか、確かにここは暗い。夜と思うのも無理ないな。シロガネは合点がいく。

 妹ちゃんはシロガネの顔をじっと見つめ、そして不思議そうに聞く。

「にぃにはだあれ?」

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