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死神腕の少年剣士  作者: 風炉の丘
【1】ハグレモノ案件
5/27

1-5 探索

 行方不明の兄妹… 8歳の妹… 掃除屋… ハグレモノ… 捕食… 覚悟…

 覚悟? 覚悟ってなんだ? 覚悟ってなんだよ!

 突然、シロガネの脳裏に幼い笑顔が蘇る。

「にぃに♪」と妹が可愛らしく微笑む。

 ボクは何でここにいる? ボクは何を待っている?

 行かなくちゃ… 行かなくちゃ 行かなくちゃ!

「おい! どうしたシロガネ! まだ動く時じゃないぞ。そこに座っとれ」

「ボクは……にぃにだから。助けなきゃいけないんだよ。護らなきゃいけないんだよ」

「シロガネお前……、まさかの妹属性持ちかっ」

「うっせー」

「ちなみにワシの好みはおねシュタじゃ」

「聞いてないっ!」

「焦る気持ちは分かるぞ、シロガネ。妹属性ならなおのことじゃ。じゃが今は耐えろ! ドローンの報告を待て!」

「そもそもじいちゃんは何を待ってるの? ドロドロとかいうヤツは、何を調べてるのさ!」

「決まっとる。巣穴じゃ!」

「は? 巣穴? "掃除屋"の?」

「今、"掃除屋"は雑木林を完全に支配しておる。じゃがな、地上のザコをいくら倒しても意味が無いんじゃ。また何匹でも増え続けるからの。女王を倒さねばどうにもならん。そのために巣穴を探させているんじゃ」

 ああ……マジかよ……。シロガネは頭を抱える。

 ラズ老師が偉大なる大魔道士であることは、疑いのない事実だ。長年に渡って得た膨大な知識の前では、若造に過ぎないシロガネに敵うはずもない。

 しかし、百聞は一見に如かず。本やネットで得た知識では、実体験には到底及ばない。それをシロガネははっきりと理解した。

「おい! 待てシロガネ! まだ早い!」

「いいや! 遅すぎる! じいちゃん達に拾われる前、ボクがどこに住んでたか、じいちゃんなら覚えてるよね?」

「え? あ、そ、そういえば……!」

「巣穴くらい、ボクがすぐに見つけてやる!」

 シロガネは大岩を飛び降りると、丘を駆け下り、雑木林へと走り出す。

 最悪の事態なんて知るかっ! 覚悟なんて関係あるか! 待ってろよ! にぃにが、にぃにが絶対に助けてやる!


 雑木林に飛び込んだシロガネは、開けた道を10メートルほど進むと、目を閉じて耳を澄ます。

 聞こえるのは風の音。風でざわめく草木の音。それだけだった。

 鳥のさえずりも、小動物の鳴き声や、草を掻き分ける音も聞こえない。まるで林全体が死んでいるようだ。

 だけど、この林のどこかに"掃除屋"がいる。動きを止めて、息を潜め、気配を殺して、こちらの様子をうかがっている。

 どこだ? どこだ? どこにいる?

「シロガネ」

「うわっ! びっくりした! びっくりした!」

 シロガネが振り返ると、光る球体が浮遊していた。

「ワシの声が聞こえるか?」

「え? じいちゃん? じゃあこれがドロドロ?」

「ドローンじゃ! まあこの際名前はええわい。探索中の一機をお前との連絡用に回した。用があったらコイツに話しかけてくれ」

「うん、わかった。じゃあ、とりあえずさ…」

「お、なんじゃ?」

「静かにしてくれる?」

「はい…」

 さて、

 おびき寄せるだけなら簡単だ。自分の手なり腕なりを切ればいい。血の臭いを嗅ぎつけて、一斉に襲いかかってくるだろう。

 しかし、出血すれば居場所を特定される。隠れられなくなる。巣穴を見つけてからならまだ良いが、このタイミングでの出血は避けたい。

 どうする? どうする? どうすればいい?

 こうなったらやけだ!

「やってやる! やってやるぞ! うおおおおおお!!」

 突然シロガネは、グレートソードを振り回した。

 木を両断し、草むらを払い切り、岩を真っ二つにする。

 まるで癇癪持ちの八つ当たりだ。振り回す切っ先は、周囲を切り刻み、飛び散った花びらや草葉が風に飛ばされてゆく。

 やがて……

 メギャッ

 嫌な感触が切っ先から伝わり、青い液体が飛び散る。見つけた! "掃除屋"だ!

 擬態や迷彩の能力は無いのに、"掃除屋"は気配を完全に殺して潜んでいた。まるで忍者だ。

 巨大なアリは、腹の傷から青い血を流しながら、必死に動こうとしていた。


 ギチッ!!


 雑木林に異音が響く。まるで巨大な一つの生命体が目を覚ましたようだった。

 シロガネはグレートソードを道に突き立てると、急いで近くの巨木に登る。

「じいちゃん! あの、怪我をした"掃除屋"を見てて!」

「お、おう!」

 シロガネはドローンに指示を出した後、自身は周囲を警戒する。地面よりはマシだが、巨木も安全とは言えなかった。枝のどこかに"掃除屋"がいて、襲ってくるかもしれない。

 案の定"掃除屋"がいた。ギチギチと関節を響かせながら、幹を真っ直ぐ下りてくる。しかし、シロガネには目もくれない。

 一目散に怪我をした仲間の元へと向かっていた。

「なるほど! そういうことか! 分かったぞシロガネ!」

「分かったって…何が?」

「お前の目論みじゃ! これが巣穴を探す作戦なんじゃな!」

「うん。そうだよ。当たり」

「敵を殺しても一匹減るだけ。しかし、敢えて殺さなければ、仲間を助けるために一緒に撤退する。つまり二匹から三匹が戦場からいなくなる。そして撤退してゆく奴らを追い掛ければ、自然と巣穴へ辿り着くというわけか。最小限の攻撃で最大限の効果を発揮させる、見事な作戦じゃな!」

「へ〜。そうなんだ」

「………違うのん?」

「仲間を助けるためってのは間違いないよ。広い意味ではね」

 集まった"掃除屋"達は、まるで会話をするかのように、たがいに触角で触れあうと、数匹が怪我した"掃除屋"に襲いかかる。

 怪我した"掃除屋"は、あっという間にバラバラにされ、どこかへと運ばれていくのだった。

「げぇ。怪我した役立たずは餌かよ! 共食いかよ! キモイのぉ」

「だって貴重なお肉よ。仲間だからって食べないわけ無いじゃん。

 それよりじいちゃん! あいつらを追い掛けて! 巣穴に案内してくれるよ!」

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