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死神腕の少年剣士  作者: 風炉の丘
【2】尊きは安らかなる日常
21/27

2-7 バイバイ

「あのね、にぃに、姫様ってとってもお優しいの」

 頭が痛い。ズキズキする。でも…

「お部屋も広くて、ベッドはお城みたい…なんだよ」

 身体が寒い。汗が止まらない。それでも…

「それでね、にぃに…、姫様…とってもお優しくて……」

 意識が薄れる。失いそうになる。それでも、離れたくない…


「モナカ…もうお帰り」

 辛そうなモナカに、シロガネは優しく諭す。

「いや! まだ来たばっかりだもん!」

「このままじゃ、モナカが死んじゃうよ」

「いいもん!」

 いっそのこと、シロガネに命を吸われて死ねたら…。それは全てに絶望していたモナカの、密かなる願いだった。

「よくないよ。モナカが死んだら悲しいじゃないか。モナカはボクを独りぼっちにするの?」

 だけどいつも踏み留まる。にぃにが大好きだから。にぃにに笑顔でいてほしいから。

「……ごめんね、にぃに」

 渋々と手をふりほどくモナカは隣に座るが、体調を崩してフラフラだった。しばらくは立ち上がれそうにない。

 風通しの良い場所でも、直接右腕に触れなくても、密着するほど近ければ、ジワジワと影響が出てしまう。体調を崩し、死に近づいてしまう。

 シロガネも、なるべくモナカに影響を与えないよう、右腕を花のバスケットに突っ込んでいたが、残っていた十数本の花々は全て干からびていた。もしモナカがこの花のように干からびてしまったら…。考えるだけでも恐ろしかった。


 しかし困った事になった。立ち上がる元気も無いモナカを、どうやって馬車まで連れて行こう?

 シロガネは立ち上がると、屋根の端から寮の正面玄関を見る。近衛団のビーンスタークは変わらずそこで待機していた。彼を呼んでモナカを連れ帰ってもらうか? しかしビーンスタークはどうやって連れ帰るだろう? 騎士らしくお姫様だっこか? それは……1人の兄として、なんとも面白くない。

 かと言ってシロガネが連れて行くのは危険だ。廊下を通り、玄関に辿り着くまでにモナカの症状が悪化する。

 いやまてよ? ルートならもう一つあるじゃないか。

「モナカ立てる?」

「ごめん、にぃに。まだちょっと無理……」

「じゃあ、ボクに抱きつける?」

「えっ!? いいの? でも……」

「ちょっとの間だけだから大丈夫だよ」

「なんだぁ。ちょっとだけなの?」

「そう。ちょっとだけだから、しっかり抱きついてね。右腕には触っちゃダメだよ」

「うん♪」

 モナカがシロガネの首に腕を回すと、シロガネは左腕をモナカの背に回し、優しく立たせる。

「でもにぃに、これからどうするの?」

「ちょっとだけ、空を飛ぶんだよ」

「え? お空を?」

「怖かったら目をつぶってていいから」

「ええええっ???」

 シロガネは左腕でモナカをしっかり抱えると、そのまま屋根から飛び降りた。

「きゃ〜〜〜〜〜〜!?」

 シロガネは右腕で壁や木を伝い、スピードを殺しながら落下して行き、ビーンスタークのちょうど手前に着地した。

「はい、とうちゃ〜く」

「あはははは♪ もう〜、ビックリしたぁ」

 楽しそうに笑うモナカ。"ケモノビト"には、むしろこれくらい刺激的な方がちょうど良いようだ。


 そんな2人をビーンスタークは、呆れ顔で見つめていた。

「まったく王宮戦士は、粗野で下品極まりないな。階段で下りるという発想はないのかね?」

「ええっと、近衛団の人……。ごめん、なんて名前だっけ?」

「ビーンスタークだ! ジャン=ジャック・ビーンスターク! 何度自己紹介すればいいだ。いい加減覚えてくれないかね、シロガネ殿」

「ごめん。それでさ、ビーン」

「ビーンスタークだ!」

「ええっとビーンスターク、モナカが具合悪いんだ。なるべく馬車を揺らさないようにしてね」

 状況を理解したビーンスタークは、深く大きなため息をつく。

「モナカ嬢! 貴方もタレイア姫様の侍女なのですから、もう少し自重なさい!」

 するとモナカは、ビーンスタークをキッと睨むと、こう言い放った。

「姫様にはちゃんとお許しをいただいております。貴公が口出しする問題ではありませんわ!」

 シロガネは驚いた。ビーンスタークと話すモナカは、まるで別人だ。

 とても大人びていて、貴族か富豪のお嬢様のようだった。

 シロガネが王宮戦士として頑張っているように、モナカも姫様お付きの侍女として頑張っているのだ。

 うかうかしてるとモナカに置いて行かれそうだ。シロガネは、もっと修行を頑張ろうと思った。


「じゃあね、にぃに。また来るね」

「うん。いつでもおいで。…スタークもモナカを護ってね」

「ビーンスタークだっ! 言われるまでもない。モナカ嬢の護衛はタレイア姫様の勅命だからな。この身に代えても果たすさ」

「ありがとう」

「ふん」

「バイバイ、にぃに…」

「バイバイ、モナカ…」

 その言葉を合図に、馬車は走り出す。気がつけば日は西に傾き、空は夕焼けで赤く染まっていた。

 そして尊き日常は、ゆっくりと幕を下ろす。

 そして幕間のひととき。せめて次の一幕が始まるまで、安らかに……


「ああっ、もうっ! シロちゃんったら、また飛び降りたのねっ!!」

「ご、ごめんなさぁい!」


 次の一幕が始まるまで、安らかに。


【2】尊きは安らかなる日々・完

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