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死神腕の少年剣士  作者: 風炉の丘
【2】尊きは安らかなる日常
18/27

2-4 儚き夢に希望を乗せて

 シロガネは、父のような農夫になりたかった。畑を耕し、作物を収穫したかった。家畜を飼い、命を育みたかった。

 だけど、死神腕が許さない。決して叶わぬ儚き夢だ。


 屋根の上に戻ったシロガネは、バスケットを側に置き、花を一本左手に取った。

 呼吸を整え、精神統一してから、ふんっと気合いを入れ、左手の花を右手に持ち替える。

 これがシロガネに課せられた修行だった。

 死神腕は、シロガネの意志に呼応してパワーが変化する。力加減の調整が可能なのだ。

 実際、命を吸い取る加減もシロガネの意志で変えられるのだ。能力を完全に押さえ込むのも可能だった。ただし、長くは続けられない。

 そこで、考案された修行がこれだ。

 生命を右手で持ち、命を奪わず耐え続ける。これを繰り返す事で、耐えられる時間を伸ばしていくのだ。

 修行に使う生命に花を選んだのは、"野薔薇ノ王国"の特産品だからだ。周辺国に輸出するほど生産しているため、売り物にならず捨てる花も大量に出る。それを活用しているのだ。

 ちなみに花売り娘が売る花も、出荷場の売れ残りをもらったもので、元手はタダである。

 さて、久々の修行はどのような結果となったのか?


 花は1秒と保たず、干からびてしまった……。


 全然ダメだ〜〜〜〜っ!!!

 以前なら10秒はいけたのに! 修行を怠けたせいでこの体たらくだよっ!!

 もしかしたら死神の力が強くなったのかもしれないが、そんな言い訳は許されない。とにかく今は勘を取り戻そう。

 ふんっ……………んんっ!

 何とか2秒保たせた。繰り返していけばいずれは10秒代に達せられるだろう。

 だけどちょっと一休み。久々だからか、無理矢理押さえ込んでいるせいか、シロガネは早くも疲れてしまった。

 そこにブーンと羽音が聞こえる。

 花の匂いに釣られて、ミツバチが近寄ってきたのだ。

 ミツバチはバスケットの花に止まって花粉を集めると、再びブーンと飛び上がり、シロガネの前を横切る。

 その途端、ミツバチは羽ばたきを止め、シロガネの足下にぽたりと落ちた。ミツバチはすでに死んでいた。

 足下をよく見ると、カやハエやアブなど、様々な虫の死骸が散乱している。みんな死神腕に近づきすぎて、命を吸い取られてしまったのだ。

 このおかげでシロガネは、虫刺されに悩まされた事がない。数少ない死神腕のメリットと言えるだろう。

 さあ、修行再開だ。


 10本目の花でようやく10秒に達したが、疲労困憊だった。シロガネは頭を抱えて考える。

 何故こんなに疲れるのだろう? 以前はこんな事無かったはずなのに。やはり死神腕の力が増しているのだろうか?

 それともやり方を間違えているのだろうか? ムキになるのが間違いなのか? やる気が空回りして、無駄に力んでいるのだろうか? 思い出せ。以前はどうやっていた?

 ふと何かの気配を感じ見上げると、シロガネの前に、美しい羽の蝶々が飛んでいた。やはりバスケットの花の匂いに釣られたのだろうか。

 その美しさに、しばし見とれていたシロガネだったが、ハッと我に返る。まずい! このままじゃ、この子の命も吸い取ってしまう。

「ダメだ! 来ちゃダメだよ!」

 そう言って追い払おうとしたが、手遅れだった。蝶々は死神腕の射程距離に入り、その命を吸われて……

 突然消え失せた。

「え?」

 呆気にとられたシロガネは辺りを見回す。足下を見る。どこにも美しい羽は見あたらなかった。

 シロガネは幻を見ていたのだろうか? それはあり得ない、死神腕には命を吸い取る感覚があったのだ。

 そして死神腕が吸い取るのは命、もしくは生命エネルギーだ。死骸なり塵なりが残るはず。何も残らないなんて事はあり得ないのだ。

 考えられるとしたら……"魔法生物"か?

 "魔法生物"とは、魔道士達が魔法によって生み出す疑似生命体だ。ラズ老師が"ハグレモノ案件"で使っていたマジックドローンがそれにあたる。

 さっきの蝶々が何者かの放った"魔法生物"だとしたら、もしかして…

 シロガネは、監視されている……?

「なぁんだアホらしい。さあ、続き続き」

 シロガネは構わず修行を再開した。死神腕はあまりにも危険な能力で、不安視する者も少なくない。シロガネは監視されて当然なのだ。今に始まった事でもないし、すっかり慣れてしまった。

 強いて問題を挙げるなら、どの組織の監視かってくらいだ。十中八九、公安か魔道士の老師達の仕業だけど、国外勢力のスパイ可能性も無いとは言えない。

 どっちにせよシロガネが気にしてもしょうがない。そんな事より修行しなくちゃ。


 シロガネは、父のような農夫になりたかった。畑を耕し、作物を収穫したかった。家畜を飼い、命を育みたかった。

 だけど、死神腕が許さなかった。決して叶わぬ儚き夢。そんな風に思ってた。

 本当にそうだろうか。エンジャは希望と可能性を見せてくれた。諦めるには早すぎるのではないか。もっと努力すべきではないか。今は進もうガムシャラに。その先に、より深き絶望が待ち構えていたとしても。

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