表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
死神腕の少年剣士  作者: 風炉の丘
【2】尊きは安らかなる日常
16/27

2-2 飛び出したるは炎の龍

 なんだかんだとこぼしながらも、自分のおにぎりを残さず平らげたエンジャは、そのままシエスタと洒落込む。

 一方シロガネは、食後も飽きることなく、街並みを眺めていた。

 はてさて、どうやって切り出したものか…


「先輩、飽きませんね。そんなに好きなんスか?」

「うん。大好きだ」

 エンジャには見飽きるほどの情景だが、それでも褒められて悪い気はしない。

「エンジャって、この街で生まれたんだよね」

「そうッスよ。生まれも育ちも下町育ちッス。冒険者になってからも、本拠地にしてましたしね。粋がって、名を売ろうと躍起になって、生意気にも冒険者パーティーのリーダーなんぞやってましたよ。若気の至りってヤツです」


 ふと、若かりし日々に思いを馳せる。それはエンジャにとって栄光の日々であり、同時に忌まわしい黒歴史でもあった。

 下町で生まれ、8歳の頃から炎使いとして覚醒した彼は、手の付けられない悪ガキだった。

 良くも悪くも正義感が強く、沸点が低いためすぐに頭に血が上る。素行の悪い冒険者を見かけては喧嘩を売り、火炎で制裁した。冒険者達はその子を邪悪なる炎、"炎邪"と呼び、恐れる。彼もその二つ名を気に入り、"エンジャ"と名乗るようになった。

 そんなエンジャを心配してか、教会の神父は「その力は神からのギフト。正しき事に使いなさい」と諭す。しかし幼いエンジャには難しすぎてよく分からない。

 いつものように憂さ晴らしをしようと、素行の悪そうな冒険者を捜していると、見るからに弱そうな冒険者チームに声をかけられた。

「うちのパーティーに入らないか?」

 まさかのスカウトだった。エンジャはジョークのつもりで「リーダーだったらやってやる」と返した。二つ返事で承諾されてしまった。こうして、冒険者エンジャと、エンジャがリーダーを勤める冒険者チーム"エンジャーズ"が誕生した。

 "エンジャーズ"は正に破竹の勢いだった。冒険者ギルドの高難易度ミッションを次々とクリアしていき、一気にスターダムへとのし上がった。下町の悪ガキは、シロガネと同じくらいの年には"下町の英雄"と呼ばれるようになった。

 しかし、それも長くは続かなかった。突然の大活躍で、目が飛び出す程の報奨金を手に入れたチームは、金銭配分で大いに揉め、仲違いを始めてしまう。ウンザリしたエンジャはチームの解散を宣言して離脱。世界を巡る放浪の旅に出るのだった。

 1年後、帰国したエンジャは、冒険者として復帰。はみ出し者ばかりを集めて"エンジャーズ"を再結成する。

 この時からエンジャは明快な目標を持って行動している。それは、貴族になる事。自分が死ぬまでに何処まで上に行けるか、チャレンジしてみたくなったのだ。そのための"エンジャーズ"再結成だった。

 今現在、"エンジャーズ"を永久解散し、王宮戦士として下積みを続けているが、エンジャにしてみれば、これも貴族を目指すための過程に過ぎないのだ。


「ねえ、シロガネ先輩…。"正しき事"ってなんスかねぇ」

「……何の事?」

「オレが先輩よりも小さなガキだった頃に、神父さんからそう言われたんスよ。オレの炎の力は神様からの贈り物なんだから、正しい事に使わなきゃダメだよって。まあ、あの頃のオレは、せっかくの力を喧嘩ごときに使ってましたからねぇ。説教したくなるのも無理ありませんわ」

「悪いやつをやっつけて、可愛そうな子を助ければ良いんじゃないの?」

「まあ、そうなんですが……。善悪の区別ってのがね、また難しいんですわ。世の中には、可哀想な被害者のフリをした加害者なんてヤツもいますからね」

「えっ! そうなの!?」

「それに、オレ達の力は強すぎますからね。迂闊に使えばオーバーキル。簡単に大量虐殺っスよ。悪人を倒すつもりが、善人まで巻き込みかねないわけッス」

「うん。そうだね。すごくわかるよ」

「結局、未だに"正しき事"ってヤツが分からないんですが、一つ気付いたんですよ。能力を支配すれば"正しき事"に近づけるんじゃないかって」

「……どういうこと?」

「能力を暴走させず、常に制御下に置く。うっかりミスを減らして精度を上げる…ってとこですかね」

「それは……隊長やラズじいちゃんから、よく聞かされてるよ」

「ははっ♪ そうッスね。オレ達にとっちゃ基本中の基本ッスもんね♪ 面倒くさいけど♪ ですが、極めればこんな事だって出来るんですぜ」

 そう言うと、エンジャは頭上に指を立てる。すると指先から炎の紐が伸びていき、東洋風な龍へと姿を変えた。炎の龍は、指の動きに合わせて空中を飛んで回る。

 それはエンジャが放浪の旅をしていた時、日銭を稼ぐために身に付けた大道芸。子供だましのちんけな技だ。

 恥ずかしくてずっと封印していたが、ラズ老師からは「ハグレモノ退治を怠けた代わりじゃ」と言われ、ライオ隊長からは「だったら便所掃除は勘弁してやる」と笑われ、二人からシロガネに披露する事を強要されたのだった。

 実は、シロガネは最近、能力制御に行き詰まってか、訓練を怠けていた。そこでエンジャの芸を見せて、シロガネにやる気を取り戻させようという事なのだが、こんなものを見せたところで、どうなるものでも…


「すっっっっっっっげぇ〜〜〜〜〜〜!!!!!」


 我らがシロガネ先輩は、目を丸くして驚いていた。

 食い付いてる! メッチャ食い付いているよっ!

「それ! どうやってやるの!?」

「え!? い、いや、単なる炎操作の応用ですが、これは炎使いでないと出来ませんぜ?」

「そ、そうか…。そうだよね……」

「ですがシロガネ先輩だってスゲェ力を持ってるんだ。修行を積んで加減を制御出来れば、もっとスゲェ先輩だけのオリジナル技が開発できますって」

「そ、そうだよね! ボクにだって、出来るよね!」

 いつもクールで悲しげなシロガネが、これまで見た事の無いような笑顔を見せる。

 エンジャは若干退いてしまったが、同時に安堵もした。

 恐るべき死神も年相応に笑えるのだと、心から安堵した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ