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死神腕の少年剣士  作者: 風炉の丘
【1】ハグレモノ案件
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1-14 ささやかな報酬

 死屍累々の中から生き残った幼虫が飛び出してきた。必死に逃げようともがくが、それも長くは続かない。断末魔のような声を上げ、そして動かなくなった。

「今ので…最後だよね」

「ああ、終わりじゃな。生体反応はお前だけじゃ」

 室内や洞窟のような密閉空間では、死神からは決して逃げられない。シロガネがただそこにいるだけで、ジワジワと命が削られていくのだ。討ち漏らしがあっても、呼吸すべき空気が死んでいる。

「ちょいと良い話をしてやろう」

「…なに?」

「雑木林の動物がいたじゃろ? 貯蔵室で麻痺毒にやられて寝かされてたヤツ。回復と毒消しの併用で助けてやったぞ」

「ホント!?」

「流石に全部とはいかんかったが、九割方は助かった。これで雑木林も蘇るじゃろ」

「ありがとう、じいちゃん♪」

 救える命がまだあったのだ。シロガネの顔に、僅かだが輝きが戻る。

「ほら、とっとと巣穴から出て来んか。とっくに日は暮れておるぞ」

「了解♪」

 シロガネは全速力で巣穴を駆け上る。

 

 外はすでに真っ暗で、巣穴との区別が付かないが、満天に輝く星々がシロガネを迎えてくれた。

 辺りを見回すと、ラズ老師しか見あたらない。

「他の面々はとっくの昔に撤収しとる。村の酒場で祝杯を上げているところじゃ。

 任務は成功。全員救出無事生還。おまけに退治した"掃除屋"は最高の食材と来た。盛り上がらないはずが無かろうよ。強いてあげるなら、一番の功労者がいないのが、みんなの心残りだったみたいじゃぞ」

「一番の功労者って誰?」

「お前じゃよお前」

「えっ!? ボク?」

「妹ちゃんを見事助けて見せたではないか。紛れもなく一番の功労者よ」

「そう…。それで、あの後どうなったの?」

「妹ちゃんは兄くんと再会できて安心したのか、疲れて眠ってしまったな。兄くんは今頃、ご両親と家族会議じゃ。結論が出るのには、朝までかかるかもしれん」

「そうだ。あのおじさんは? えっと、名前は確か……」

「セ・レナーデ氏は、公安に連れて行かれちゃいました~~~♪ ガングワルドで言うところの"事案"ってヤツじゃな」

「え? ええっ!? ええええっ!!!  あのおじさん悪人だったの!?」

「そうかもしれんし、そうでないかもしれん」

「それってどういうこと!?」

「セ・レナーデ氏の発現にはいくつか不自然な点があっての。それを確かめるための強制的任意同行じゃ。ただの変質者ならそれなりの賞罰で済むが、もしあやつが人狩りなら、十中八九死刑じゃな。逆に、根っからの善人と判明した場合は、"お礼"という名の盛大なもてなしと、"説得"という名の美女の接待が待っておる。なんと言ってもこの国は、慢性的な婿不足じゃからの。ここが天国となるか、地獄となるかは、セ・レナーデ氏の素行次第というわけじゃな」

「そ、そうなんだ……どっちにしても大変だね」

「それとな、シロガネ」

「ん? 何?」

「もしかして、あやつらがハグレモノと呼ばれておるからって、仲間意識とか持ってたりせぬか?」

「え? どうだろ…」

「ワシから言わせればな、あやつらはハグレモノなどではない。侵略者じゃ。あやつらに滅ぼされた村が、その後どうなったか知っておるか?」

「……どうなったの?」

「その国は村の復興に回す予算が無くて、しばらく放置しておった。数年後に調査団を組織して"掃除屋"討伐に向かったんじゃがな。森に飲まれておったよ。どうやら"掃除屋"には森林の成長を促進させる能力があるらしい」

「"深キ深キ森"の一部になったってこと?」

「こうなるともう、敵は"掃除屋"だけではなくなる。じゃが調査団の団長は、愚かにも森に火を放った。その結果、森の怒りを買ってな。狂戦士と化した森の魔獣達が人間の領域までやって来て暴れ回り、その国は民と領土の半分を失ったって話じゃ。

 人間は森の領域に入り込み、開墾して畑を作り、領土を広げようとする。やり過ぎると森の怒りを買う。

 "掃除屋"も人間の領域に入り込み、巣作りを通して森を広げようとしておるわけじゃ。

 言うなればこれは、人類と森の陣取り合戦よ。"掃除屋"は一攫千金を夢見る森の尖兵じゃな。

 はたしてそれがハグレモノかの? ワシには山賊の類としか思えぬ。駆逐して当然よ」

「……そう…だね」

 確かにその通りだと思った。それでも、心が晴れるわけではないが。


「さて、せっかく日が暮れたところじゃし、今宵は飛んで帰るとするかの」

「え!? いいの?」

「もちろんじゃとも。ささやかながらワシからのご褒美じゃよ。あっと、忘れ物はするなよ。ココロナにドヤされるぞ」

「そうだった」と思い出し、シロガネは慌ててグレートソードの折れた切っ先を回収した。この剣、直るだろうか?

 戻るとラズ老師は、背中に魔法翼"イカロスノツバサ"を発現させて待っていた。2人は互いの左手首をしっかりと握る。

「離すでないぞ?」

「分かってるよ!」

 たとえ落下しても死神腕のおかげで超回復するが、死ぬほど痛い事に変わりはない。流石のシロガネもそれは勘弁願いたかった。

「そりゃ!」

 その一言で、魔法の翼は大きく羽ばたき、2人はふわりと浮かび上がる。次の羽ばたきで、一気に大空へと飛び上がった。

 大空には夜の闇が広がり、無数の星々がきらめいていた。まるで宝石箱をひっくり返したようだ。

 大地を見下ろすと、シロガネの大好きな光景が目に入る。シロガネの帰る場所、王都"ノイバラ"の全景だ。数々の灯火が街を照らし、"ノイバラ"を地上の闇に浮かび上がらせている。


 その姿は正に、素朴で可愛い野茨の花だった。

 

第一章 ハグレモノ案件・完

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