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月兎大亡命  作者: タナカ
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決裂の会談 上

遅筆です

 魔理沙は悪党を懲らしめるべくほうきにまたがって切り開かれた道を飛ぶ。攻撃しては避けられを一晩中続けていた彼女はさっさと兎を狩って暖かい布団に入りたいと思っていた。


「博麗神社の方向へ逃げたな。あそこなら“アイツ”が手伝ってくれそうで好都合だぜ」


 意外と距離を取られており、半分見失った状態だったがそのまま道を飛び続ける。すると目の前に鈴仙に似た服装の人物が現れた。その時、魔理沙はどこかの妖怪兎だと思っていた。


 通り過ぎる際にちらりとその兎の顔を見ようとする。そうほんの一瞬だけのはずがそれと互いに目が合ってしまったのだ。その瞳はまるで子供が籠の虫を観察するかのように見つめていた。


 兎を通り過ぎた後に魔理沙は二の腕に不思議な感覚を覚え、腕を確認しようとするが強烈な眠気に襲われて箒から落ちて地面に突っ伏してしまう。


「まだ彼女に知られるときではない。お前はまだ動かなくていい」


 魔理沙の視界は段々と暗くなっていき最終的に真っ暗になり、同時に意識も闇に溶けた。


***


 二日前、知り合った仲間を助けて月でも地上でも逃亡者になった秋翠。追いかけてきていた白黒の少女はもう見えない。自分の腕を引っ張って走る彗青は何をしてあの少女をあそこまで怒らせたのか気になり、訊いてみた。


「あの人に何をしたの?」


「あー、元はデブリではぐれた時なんだけど……」


 彼女らは幻想郷に来る前にスペースデブリに遭遇し、その際に散り散りになった。他の玉兎達は軌道修正に成功したのだが、彗青だけ上手くいかず予定コースから少し外れてしまった。


 辛うじて幻想郷にたどり着いたものの落下地点はバラの上で彼女は針山地獄にもがき苦しんだのだ。


「それで怒ってそのバラを燃やしたの」


 秋翠は「そうなんだ……」と素っ気ない返答をする。スペースデブリのせいだから仕方ないとも言えるが、ちゃんと着地する場所を考えない彼女の自業自得とも言える。


「それでこれからどうするの?」


 彗青はそう言われあたりを見まわした。長い石段が一番に目に入る。頂上には赤い鳥居が建っている。その他には風に吹かれて心地良い音を立てる木々しかない。


「この階段の上に行こう。何かあるかもしれない」


 彗青は鳥居を指差して石段を登り始めた。その軽快な足取りを見て秋翠は心配でならなかった。彼女はこのままあの少女から逃げ続ける生活を送るのだろうか。


「あれ緋燕じゃない?」


 彗青が指さす方向へ視線を移すとそこには空を飛んでいる人の様な黒い影。それには兎の耳のようなシルエットが確認できた。秋翠が目を凝らして黒い影を見つめる。するとそれは一つだけではないことに気づいた。


「誰かと一緒にいる? 」


 秋翠がそう言うので彗青は「ちょっと見てくる」と言い残し影へと向かって飛ぶ。秋翠は引き留める間もなく石段に置いて行かれた。


「後先考えずに行動するなぁ……」


 秋翠は独り言を呟いて竜胆色の玉兎を待つ。疲れて石段に座って今までのことを思い返す。あの時、彗青を助けずに無視をしていればこんな面倒ごとに付き合わずに済んだのではないか。そう思い、自分も後先考えていないではないかとため息をこぼした。


「ごめん、待たせちゃって」


 秋翠が物思いにふけっているうちに彗青が兎を二人引き連れて戻ってきた。一人は飛燕だとわかったがもう一人が誰だかわからなかった。


 さらさらな薄紫色の長い髪。全てを吸い込み、狂わせそうな深紅の瞳。彼女も玉兎兵のブレザーを着ていた。


 彗青が「鈴仙、この子が私を助けてくれた秋翠だよ」と秋翠の肩を軽く叩いて紹介する。鈴仙が紹介された玉兎の方を見た瞬間、爽やかな表情が一変する。それに気づいた秋翠は慌てて乱れた服装を直す。そして気を取り直し、勢い良くビシッと敬礼をして一声。


「初めまして、元イーグルラヴィ所属の秋翠と申します」


 いくら地上の玉兎とは言え万が一“例の部隊”の所属であったら何を言われるかわからない。そう秋翠は思い、軍隊式の挨拶をしたのだ。


「別にそんな堅苦しい挨拶なんてしなくていいのよ。ここは月の都じゃないんだし」


 鈴仙が笑みを浮かべる。その瞬間、秋翠はもう自分は軍人ではなく、ただの地上の民になっていたことを思い出した。


「それで鈴仙さんはなぜここに?」


「そうだ! 彗青、あなた庭のバラを燃やしたでしょ?」


 その言葉が放たれた瞬間、彗青は目を見開き、体をビクリと動かした。飛燕は後ろで顔を覆っていた。彗青は「ワタシ、シラナイワ」と鈴仙から視線を外し、片言で喋る。彼女の額からは汗が湧水のようにじわじわと流れていた。


「そういえば白黒の服を着た変な奴に追いかけられてたよね?」


 秋翠が決め手の一言を放つと彗青は彼女の口を塞ぐがもう遅い。鈴仙はその言葉を脳に、行動を目に刻み込んでいた。


「やっぱりあなたが犯人だったのね! 被害者の所に連行するわ!」


 鈴仙が声のトーンを上げて言い、真犯人の腕を掴もうとするが手のひらは何も掴んでいない。彗青は距離を取って「わ、私は行かないから! どうせ行ったって許してくれなさそうだし!」と大声で話す。


 彗青は完全に頭に血が昇っており、隠されていた攻撃的な言動が目立つようになる。その変わりようは普段からは考えられないほどである。緋燕もそのことはよく理解していたが、まさか彼女がここで激昂してしまうだろうとは思いもしなかった。


「緋燕、アレ貸して!」


 彗青が唐突に何かを求めた。緋燕は「アレって何?」と言い、首を傾げた。すると彗青は「ほら、ボロ雑巾にできるやつ」と身振り手振りで伝える。


「あぁ、LMP1のことね」


 緋燕はどこからか白色のコンパクトな短機関銃を取り出し、彗青に投げて渡そうとしていた。


「それを捨てなさい!」


 鈴仙は手を銃の形にして武器を持つ少女へと向けていた。緋燕は武器を足元に落とし、両手を上げて降伏のサインを示す。


「ちょっと緋燕……もう!」


 そう言った後に走って武器を取りに行こうとするが弾がそれをさせまいと足元付近に飛んでくる。彗青は歯ぎしりをし、悔しそうに銃を見つめる。気になったのか秋翠が「なにそれ?」と銃を指差して訊く。すると緋燕は目を宝石のように輝かせた。


「LMP1、こいつの最大の特徴は特殊なレーザーと高い連射……」


「そんなことは後。それよりも彗青、あなたは自分のしたことを償わなくてはいけない」


 場違いな語りを始めた緋燕の言葉を鈴仙が遮りながら、彗青にゆっくりと歩み寄る。途中途中、緋燕の方へ視線を向けたりしてほんの些細ささいな動きにも警戒する。鈴仙との距離が縮もうとするたび彗青は顔を引きつらせ、石段を登って後ずさりする。


 あと1メートルというところで鈴仙が緋燕の方を見たとき、その足元に落とされた白塗りの武器が無いことに気づく。勿論その所持者は手の平を見せ、頭の上に上げている。鈴仙があたりを見まわして「銃は?」と訊いた瞬間、甲高い音が鳴り辺り一帯の鳥が飛び立つ。


「ごめん鈴仙」


 鈴仙は目を見開き、声がした方へと体を向けた。


戦闘の前触れ……嫌な予感がしますね。

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