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月兎大亡命  作者: タナカ
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はたらくイーグルラヴィ

 イーグルラヴィという特殊部隊があるなら他にも色んな部隊があったら面白そう!と思って色々妄想した結果がこの『月兎大亡命』なんです

 地上というものは楽しいものばかりの楽園だと柚葉色のイーグルラヴィ、秋翠しゅうすいは思っていが、現実は全く違うものだった。毎日毎日、生きるために働かなくてはならない。そうしなければ死ぬのみという厳しい世界。怠け者の彼女にとっては辛いものだった。だが時の流れを感じられない月の都よりはマシだと考えていた。

 

 人里の隅っこで経営している二つの団子屋。その傍の長椅子に秋翠は横になって寝息を立てていた。


「ちょっと何してるの!」


 頭に兎の耳がある浅葱色の髪の少女、清蘭に扇子で頭を叩かれる秋翠。重い瞼を開けて長椅子から起き上がると香ばしい匂いが鼻を通り、食欲を掻き立てる。


「本当に寝てばっかだなぁ秋翠は」


 すぐそばにいる橘色の髪の少女、鈴瑚が笑いながら喋る。彼女にも兎の耳がある。


秋翠が「ちょっとした休憩だよ、休憩」とのろのろとした動きで掛け布団の代わりにしていたブレザーをはおりながら言う。ほとんどの玉兎がネクタイをちゃんとつけてブレザーのボタンもちゃんとしめているのに対して彼女はネクタイをつけず、ボタンも全てつけてない。


「ホントにそんなんだから“サボり”ってみんなから言われるんだよ」


 秋翠はイーグルラヴィでは特殊工作員という役職だが、現地部隊ではないため出動することが皆無に等しい。また訓練にも必ずと言っていいほど来ないためサボりと呼ばれているのだ。


「まぁここではサボれないからね。というわけで客引きよろしく」


 鈴瑚はぼんやりと夢と現を彷徨っているている少女に向かってウィンクを飛ばした。


「じゃあ行って来る」


 秋翠は“仕事”をするためまだ慣れない地上人の里へ行く。ぼさぼさの髪を揺らし、里を行き交う人々に「団子は要らないか? 安くて美味しいよ」と声をかけてまわる。一見すると退屈そうな仕事に見えるが、彼女はこれを有意義だと思えた。時間を浪費して過ごす故郷くになんかとは比べ物にならないほど生活に充実感を持つことができたからだ。


 気づけば時間は過ぎ、空が赤く染まっていた。盛況の人里も閑散として夢の跡だけが残る。


「今日も負けたー」


 清蘭は長椅子に倒れ込んで空を見上げた。鈴瑚は「まだまだだね」と鼻を鳴らしながら言う。彼女達は団子の売り上げを競い合っているが殆ど鈴瑚の一人勝ちで、勝負になっていないところがある。それを打破するためにハンデで清蘭は兎の手を借りているのだ。


「清蘭はもっと味付けを良くした方がいい」


 秋翠が月のような色の団子をかじる。それにつられた鈴瑚も、もぐもぐと口を動かす少女の手から団子を一つ手に取ってパクリと口に放り込む。そして何かを納得したのか頷きながらごくりとそれを喉へ通す。


「結構気を使ってるつもりではいるんだけど」


 清蘭は起き上がって秋翠へ自分はなすべきことはなしたと言わんばかりの視線を向ける。


「鈴瑚のやつ食べたことないの?」


 そう訊くと清蘭は「自分の力で勝ちたいから食べたことない」と答えた。


「清蘭、餅つきはうまいんだからもっと……」


 ドカンという激しい爆音が秋翠の言葉を遮った。それはすぐ近くで聞こえ、モクモクと立つ煙に何かが焼ける匂いも続いてやって来た。


「な、何?」


 清蘭が頭を抱えて防御体勢を取る中、秋翠は次第に成長する煙を珍しそうに見ていた。そんな中、鈴瑚は「また誰か暴れてるんでしょ」と肩をすくめて軽く流す。立ち並ぶ家屋の中からは沢山の不安を募らす声が飛び交っていた。


「こんなことが頻ぱんにあるの?」


「里の近くではそんなにないよ。ただそれ以外の場所では結構見るね」


「地上人はみんな血気盛んだから落ち着かないよ」


 三人はそろそろ撤退しようと支度を始めるが何者かの叫び声で手が止ってしまった。


「誰か助けてぇ~」


 竜胆色の髪の少女が白い兎の耳を揺らしながら、こちらに向かって走ってきていた。彼女の服装は玉兎兵が着用するブレザーを纏っていた。秋翠はその少女に見覚えがあった。


「あー!! 憔悴しょうすい! 助けて!」


 走ってくる少女は彗青だった。しかも秋翠の名前を間違えて覚えている。


「いや、秋翠です」


 名前を間違えられて訂正するが彗青にそんなことを気にしている暇などなかった。彼女から少し後ろに箒に乗っている白黒を基調とした服装の少女が物凄い形相で追いかけているのだ。


清蘭は「なんかヤバそう……」と言った後にそそくさと荷物をまとめて飛び去っていく。対して鈴瑚はどっしりと構えており、これからのいく先を眺めていようとしている。細かい状況を知らない秋翠はとにかく仲間を救うため、能力を使う。


「悪いけど魔女にはノロマでいてもらう」


 そう呟いた瞬間、白黒の移動速度が途端に遅くなり、彗青に逃げる時間を与える。息を切らしながら秋翠に近寄って礼を言う彗青。すると白黒が「何をする!」とのろのろと腕を振り上げて怒鳴り散らした。


「何があったの?」


 秋翠がいつも通りの眠そうな瞳で見つめる。そんな緊張感の無い彼女とは違い彗青は汗を


「話は後! 逃げよう!」


 秋翠は彗青にブレザーの袖を握られ、引っ張られる形でその場を後にする。引っ張る力が強いのか腕に痛みがほとばしった。だがそれをいちいち声に出して表現する時間など秋翠には与えられなかった。


「あいつらは何なんだ?」


 能力という足枷が外れて元の移動速度に戻った魔理沙はすぐそばにいた鈴瑚に問いかけた。彼女は一睡もしていないのか目が少し虚ろだった。だが気迫は衰える様子を見せず、鈴瑚を気圧させた。


「月の都から離反した兎さ。魔理沙は秋翠の能力で移動速度だけを遅くさせられたんだよ」


 鈴瑚は秋翠や彗青について全てを話しはしなかった。どっちに非があるか彼女は知らないが仲間をある程度守るのは当然だと思っていたからだ。


「手こずらせやがるぜ」


 魔理沙は舌を鳴らしてすぐさま秋翠達が逃げた方向へ飛んで行った。その先は博麗神社へと続く道であった。


「ということはあれが鈴仙に濡れ衣を着せた奴か……」


 鈴瑚は空に登った白い衛星を眺めた。あそこで何があったのか考えながら彼女は青蘭の作った団子を口に放り込んだ。


 ここ一か月、くしゃみがひどくてストックしていたティッシュが一瞬で消えてしまいました……この季節に花粉症っておかしいのですか?

 余談ですが緋燕の二つ名の『珊瑚珠色のファルコンラヴィ』のファルコンはアポロ15号の月着陸船の名前から取っています

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