1.水島直子――オンナ
全ては神の趣味による無意味
ドロリとした経血を見る度に、自分がヒトという生き物のメスであることを自覚する。
一定のサイクルを保ちながら、体は繁殖の体勢を整えている。今回も徒労に終わらせてしまい、申し訳ない気分になる。宿るであろう命のために体の内側で構えられていた血肉が排出される感覚にはいつまで経っても慣れないし、意思の力でコントロールできるものではない。出しても良いかと問うてもくれない。
脚を伝う血をシャワーで流して、中断していた剃毛を再開する。先週会ったとき、彼に毛の処理の甘さを指摘された。舐めたときに毛があると萎える。気怠そうに言われたときに、彼は私を個人ではなく女としてしか見ていないことに気づいた。それでも、私は彼のために肌の手入れをしている。何故、そういうことを平気で言ってしまえる彼に、滑らかな肌を提供しようと努めているのか。
二日目だし、これじゃあ明日はできないかもしれないな。
思うと同時に心臓が収縮する。猛烈に、熱烈に、どうしようもなく叫び出したい気持ちに襲われる。言語化するなら、寂しい、とか、悲しい、になるのだろうか。感情はいつだって言葉を追い越して、手の届かないところまで走り抜けていく。
彼に求められるのは"私"ではなく、私の"女"の部分。胸があって、アレがある、毛があると萎える、その程度にしか思われないもの。
大切にしてほしい。"女"ではなく"私"を見てほしい。曇った鏡に水をかけ、そこに映る女の裸を見て、絶叫する。毛があろうが、萎えようが、これはあんたのための体じゃ無いんだ。十代の頃よりも洗練され、二十代前半よりも柔らかさを増した三十歳目前の体を抱きしめ、濡れた床の上で踞る。
愛されたい。
愛されたい。
愛されたい。
愛されたい。
アレから血の塊が吐き出される。不快な温度に唇を噛みながら、シャワーの蛇口に手を掛けた。