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あるべき日常

本橋柊真は平凡な日常を望んでいた


いつもと変わらない日常を送ることが


何よりの幸せだと思っていた


だけどそうはいかなかった


望んでいるものこそ手に入らない


つくづく神様は


意地が悪い


そう思わざるをえなかった

昼下がり。

授業終了のチャイムがなると、教室の中は一気に騒がしくなった。

会話の飛び交ういつもの光景。教室にいち早く自分たちのグループをつくる生徒たち弁当を持って教室を出ていく女子生徒たち。昼食を買うべく、購買へと走る男子生徒。

そんな中、いち早く俺のもとに駆け寄ってくる奴が一人。

浅野樹だ。


「しゅーうまっ、一緒に昼飯食おうぜ」


樹は、高2になってから新しくできた友達だ。明るくて親しみやすい奴で、誰に対しても笑顔で声をかける。クラス替えがあったにも関わらず、初日からそうだったしな。そんな奴だから、男女関係なく友達は結構多い。俺も多いほうだと思っているけど、樹には敵わないだろう。あ、あと顔がいい。


「イケメンはいいよな」


「え!それ俺のこt」


「調子に乗るな」


取りあえず、面倒なので遮った。


「それより、昼飯一緒に食べるんだろ。どこで食べるんだ?」


「屋上」


「ん、分かった」

俺は樹の提案を受け入れ、椅子から立ち上がる。

今の季節は春だし、今日は見るからに快晴だ。屋上はきっと心地いいだろう。

俺は「早くいくぞ」と樹を急かし、2人でそそくさと教室を後にした。







「おっ、柊真の弁当、今日もうまそう!」


そういって樹は俺の弁当を覗き込む。


「貰う気満々だろ、お前。絶対あげねぇぞ」


俺は樹の顔を手で押し返した。すると、樹はふてくされたように口を尖らせて言った。


「いいじゃんか。ほぼ毎日パンなんだぜ?俺。少しくらい分けてくれたって・・・・・」


「よくない。というか、そんなふうに言うんだったら、自分で作ればいいだろ?」


俺が樹を改めて見ると、樹は俺の方こそ可笑しなことを言っているかのような顔を向けてきた。

ん?俺間違ったこと言ってないよな。


「何言ってんだよ。俺が作れるわけないじゃん?お前じゃないんだし」


いや意味が分からん。あたかも当然かのように言われても、それが「卵焼きもーらい」


「ん?あっ、おい!!」


「油断してるお前が悪い」


樹はそう言って摘まんだ卵焼きを、口の中へ放り込んだ。


「ん~、うまっ、やっぱり柊真の作ったものはうまいよ」


「おまえなぁ・・・」


俺は呆れて、何とも言えない。他人の弁当をこうもお構いなしに奪うやつがあるか。

だが俺はそこでふと思った。なんで毎日パンなのかとか、そういう踏み込んだ質問を、俺は樹にしたことがない。


「はぁ、ったく・・・・・・・・今度からおかず余分に作っとくから、あんまり偏った食事するなよ?」


焼かなくていい世話なのかもしれない。が、俺は表面上呆れた顔を樹に向けながらそう言った。

そして樹は溜息をつく俺をよそに、顔を輝かせた。


「俺もう、お前が神様に見える・・・!」


調子に乗られるのは困るが、ここまで嬉しそうな顔をされると何とも言えない。ずるい奴だ。


「ばーか。いいから早く食べろ」


「おう!」


いつもとさして変わらない何気ない会話。小さなことでいちいち騒ぎながら過ごす楽しい時間。平穏な日々。

俺はそんなことをしみじみと思いながら、青い空に手を見上げ、太陽に手をかざした。


「もうすぐ夏か」


俺は小さく呟く。


まだ照り付けるほどの太陽でもないのに、汗がにじんできたような気がして、俺は妙な気分になる。


俺はその妙な感覚を紛らわすように、口いっぱいにパンを含んだ樹をこずいて笑った。














「なあ、本橋。今からゲーセン行くんだけどさ、お前も行かない?」


放課後、そういってきたのは、クラスメイトの片桐と真島だった。


「俺さ、今すっげー取りたい奴があるんだ!本橋はユーフォ―キャッチャー得意だったろ?だから俺の代わりにチャレンジしてくんねえかなって」


「そんなに欲しいのか?あ、そっか、真島ってフィギュア集めてるんだっけ」


「おう!」


「ああ、引く程な」


「てめっ」


片桐がわざとらしく肩をすくめると、真島は片桐の脇腹に軽く殴った。相変わらず仲がいい。


「まあまあ。で?真島は一応挑んではみたのか?」


「いんや?」


「いやいや、お前はまず自分で挑戦してみてから人を頼れよ」


俺がわざとらしくため息をつくと、真島は「だって.....」と膨れたような顔をになる。そんな真島に片桐はさらに追いうちをかけるように言った。


「むりむり。こいつセンスなさすぎだから」


「なんでお前がそれを言うんだよ!!」


片桐がバカにしたように笑うものだから、

やっぱり真島は片桐を軽く殴った。

それでも片桐はお構い無しに続ける。


「あれは中学ん時だったかなぁ・・・・・一人で眼底フィギュアに挑みに行ったはいいが、金をつぎ込んだのに取れなくて、帰りの電車代もなく、泣きながら・・・・・」


「言うなぁぁあ!!」


よく見ると真島はもう若干涙目である。


「そうだったのか・・・・まぁ、金をつぎ込んだ挙句に取れないとか可哀そうだしな・・・・」


「本橋まで!?やめろ・・・っ、俺はそんな哀れんだ目でみるんじゃねぇ!」


相変わらず真島はいじりがいのある奴だ。


「まぁでも、そういうことなら・・・・」


ついていくよ、と言おうとした時だった。


「ごめんなー真島、片桐。今日こいつ用事あるんだわ」


「は?」


いきなり現れたのは樹だった。


「え、そうだったのか?」


片桐は首を傾げて俺を見る。


「いや、ちが「そうなんだよ~だから悪いな、2人とも。今日は俺に免じて許してくれよ、な」


なんで樹が答えるんだよ。だが、真島は、


「お前の何に免じるんだよ。まぁ、本橋が無理なら仕方ないな」


「え、ちょ」


真島はなんの疑いもなく納得し、片桐も「そうだな」と相槌をうっている。

俺のことはそっちのけで、どんどん話が進んでいく。


「てなわけで、行くぞ柊真」


「うわっ」


樹はぐいっと俺の手を引いて歩き始めた。俺は慌てて鞄を手に取り樹についていく。


「またな~」


「次はついて来てもらうぞー!」


俺はそのまま強引に手を引かれ、教室を後にした。



読んでくださってありがとうございます!

よければ次回も読んでくださいね!

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