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冬の童話祭 下

作者: 穏田

 夏の女王はコートの襟を立てて、カシミヤのマフラーを隙間のないように何重にも首に巻いた。夏の女王らしく情熱的な深紅のドレスを、これまた赤いコートとマフラーで覆っていた。手元には鮮やかに染められた赤い羊皮の手袋をはめている。織り込まれた宝石が彼女が身動きするたびにキラキラと瞬いた。

「本当はグアナコのマフラーがよかったわ」

 でも、ワガママなんて言ってられないものね、と夏の女王はうんざりしたように言った。滑らかに氷道を走る氷の馬車の中で、その身を縮ませていた。季節になれば、溌剌と一日中歌い踊るようには到底見えない。本来の彼女からは想像もできないような姿で、ひたすら体を温めようと腕を擦っていた。

 夏の女王・サマーは、心底冬の女王に呆れていたし、腹も立てていた。本来ならばまだ、彼女は遠い遠い南の島で1年の半分以上をバカンスと称して過ごしている予定であった。それを邪魔された上に、国中が何やらよく分からないことになっている。暦を見れば、とっくに春が訪れている時期だ。延々と続く城への道も、美しい花の街道となっているはずだった。花は好きだ。春の花は楚々としていて、自分としてはもうちょっと鮮やかに色づいても好みだと思ったが、花が一輪も咲いていてない冬の道よりマシだ。色という色を失って、全て白と灰色に支配された国は、間違いなく自分の祖国ではあったが全く好みではなかった。

 今すぐにでも、この氷を溶かして自分好みの景色に変えてやりたいところだ。しかし、冬の女王の力は果てしない。彼女は自分を含めた4人の女王の中で1番強力な魔力を有していたし、それが覆ることはこの二千年の内で一度もなかった。馬車の中の温度にしても、いくら夏の女王が念じたところで暖かくなるどころかますます冷気を増したように感じる。友だちである太陽さえも冬の女王を恐れて雲に隠れてしまっていた。

 バカンス中のサマーに助けを求めてきたのは、春の女王だった。

 連日連夜のダンスパーティーに疲れて、砂浜に横になって寝ていたとき、ふわりとかたわらに現れた彼女は一国の女王とは思えないほど憔悴しきっていた。思わず飛び起きると春の女王・スプリングは、それでも「ごきげんよう」と優雅に微笑んだ。「わたし、もうどうしたらいいか分からなくて。ウィンターったら、何がそんなに気に入らないのかしら」

「スプリング! どうしてここに? もうとっくに塔に籠もっている頃でしょう?」

 特徴的な癖っ毛を手で梳きながら、スプリングは困ったように眉を下げた。サマーは困惑していた。まさか彼女が役目を途中で放棄したとは思えない。しかし春の女王がここにいるということは、何らかの異常事態が起きていることは間違いないだろう。

 季節が隣同士だからか、彼女たちは非情に仲が良い。お互いがバカンスに入っている間は幾度となく相手を訪ねては、取り留めない話に花を咲かせていた。いつもふわふわと笑っている春の女王に珍しく疲労の色が見える。くりっとした大きい瞳が今にも泣き出しそうなことに気付いて、サマーは嫌な予感がした。

 涙を溜めたまま、何も言い出さないスプリングに詰め寄る。

「いったい、何があったの?」

「落ち着いて、サマー。なんてことないの。大したことじゃないのよ……。ただ、冬が終わらないだけ」

 ウィンターを責めないであげてねというスプリングの言葉など右の耳から左の耳に流れていく。

 素早く立ち上がって、付かず離れずバナナの葉で風を送っていた侍女と、同じく葉で日陰をつくっていた侍女、そうしてバカンス中の目付役を呼び集めた。慌てるかたわらの女王には構わず、サマーは指示を飛ばす。

「国に戻るわ」

「待って、待ってよサマー。落ち着いてよ。あの子にだって事情があるはずよ。掟を破った理由が、必ず」

 夏の女王は奥歯を噛みしめ、キッと振り向いた。

「どんな理由があろうとも、冬が永遠に続いていい理由にはならないわ。だって国民は冬だけでは生きられないのよ? 春に種を蒔いて、夏に遊んで、秋に収穫して、冬に耐えるだけの蓄えを貯めなければいけない。季節はもう春。冬が一体何を生むっていうの? 人は食べる物がなければ死ぬわ。私たち女王には、国民を守る義務がある」

 そう言って、周囲の反論も聞かずに国へと戻る準備を整えてしまった。あなたはここで少し休むようにと、半ば強引に、スプリングは南国の自分の仮住まいに置いていくとお付きの者に告げる。それに対してホッとしたように息を吐いたのはスプリングの従者だった。長旅で疲れていたのだろう。サマーはますます深い溜め息を吐いた。

 スプリングは国王と国民を置いていったのだ。国の危機から逃げた。その罪は重い。だが、今はそれを追及している時間はないし、罰を下すのもサマーの役目ではない。そういうことは国王の役目だ。サマーはすべきことはスプリングに代わって、事態の収拾に当たることのみ。そして、季節を順当に巡らせる。夏の女王は熱血ではあるけれど、それなりに冷静さも持ち合わせていた。

 馬車を走らせて3日。ようやく国境を跨いだときにはもう夜も遅く、国境警備の兵士たちは寒さと緊張で身を縮ませながら夏の女王を迎えた。周辺の国々では花が咲き誇り、活気があった。しかし国境を越えた途端、冷気にまとわりつかれて、遂にはずっと走らせていた馬が死んだ。すぐに代わりの馬を用意しようとした従者は、1番近くに見えた民家に辿り着く前に、氷道に足を滑らせて頭を打って絶命した。

 それから1日半。従者やお付きの者たちは次々と様々な理由で命を落としていった。これはおかしい。さすがに初めは偶然かと思っていたサマーも薄ら寒いものを感じ始めている。ここまで狙ったかのように人が死んでたまるものか。いくら冬に触れる機会が少なかったとはいえ、足を滑らせて死んだ人間がたった1日ほどで、どれだけいるだろうか。凍った川に落ちた侍女にいたっては、その体にまるで重しが巻きついているかのように沈んでいった。それもこれも、冬の女王のせいなのだろうか。

 サマーは冬の女王に会ったことはない。秋の女王には何年か前にパーティで話したことがあるが、そのパーティにさえ冬の女王は姿を見せなかった。誰も、彼女の顔を知らないのではないか。そう思って王様に詰め寄ったこともあるが、年老いた王は口の中でもごもごと口籠もるだけで、何も教えてはくれなかった。

 まるで、冬の女王というより、死の女王だ。このままではお城に着く前に彼女自身も冬に殺されてしまうかもしれない。嫌な予感がして、サマーはぐっと奥歯を噛みしめた。4人の女王のうち、唯一冬の女王になんとか対応できるのが彼女なのだ。春の女王は魔力が弱い。秋の女王は他人を傷つける魔法が使えない。豊作を祈って富を与えることはできるが、それ以外はからっきしだ。となると、消去法で夏の女王が冬に次ぐ魔力の持ち主ということになる。そうは言っても、サマーとて人と争うことは苦手だ。沸騰しやすい性格ではあるが、危害を与えるなんて生まれてこの方、考えたことはあっても実行に移したことはない。なにより、冬の女王と夏の女王では経験が違う。年齢が一回りどころか孫と名乗ってもおかしくないくらい離れている。

 魔女だ。そう噂する者もいた。姿も見せず、おそらく王ですら、その存在に触れることを恐れているかのように思える。冬の女王だけ、他の女王と比べて警備の数が異常に多いのだ。何か大きな秘密が冬の女王にはあるに違いない。口さががない者たちの噂話を思い出して、馬鹿なことをと頭を振った。そんなものに惑わされてはいけない。どれが本当かを早々に決めつけていては、真実が分からなくなってしまう。

 馬車がゆっくりと速度を落としていく。完全に止まってから、従者が馬車の扉を開ける。差し出された手を取った。

「お足元に、お気をつけください」

 囁くように、低い声で従者が忠告する。その目はサマーがしっかりと地に足をつくまで見届けた。侍女が女王の後ろにつく。

「お気をつけくださいませ」

 何を?と問うまでもない。人が何人も死んでいる。過敏になっているのだ。

「女王様に何かあったら、このマリー、償いきれません」

 ふっくらとした侍女は細い目の奥に覚悟を隠し持っている。いつもはにこやかに見える表情がまるで笑っていないことを見て取って、サマーは急に弱気になってしまった。

「マリー、やめてよ。こわいこと言わないで」

「失礼いたしました。しかし、ご用心くださいませ。何が起こるともわかりません。異常です。城の内部に、良くないものが紛れ込んでいます」

「良くないもの?」

 マリーはそれ以上は言わず、黙り込んでしまった。そうなるとサマーは前を見るしかなくなる。お城はいつもと同じように見える。マリーにはどう見えているのだろうか。聞いても答えてくれなさそうだ。

 サマーは、しずしずとお城へと足を進める。城番たちはサマーを認めると門を開けた。

 王は、どこにいるのだろう。

 執務室を目指していく。異常事態なのだ。きっと、大臣たちも王も、そこにいるだろう。

「セッテ?」

 執務室のドアを開ける。そこには予想に反して1人しかいなかった。

 セッテが振り返る。女王と見ると穏やかな笑みで迎えた。

 年老いた執務官は全てを知っているようだった。

「久しぶりね、セッテ」

「お久しぶりです。ドーナはいかがでしたか」

「最高だったわ。暑過ぎるくらい」

 セッテに椅子を示すと、恐縮したように恐る恐る座った。腰の悪い老人に立ち話は酷だろう。

「お休みのところ、お呼びたてして申し訳ございません」

「あら、優しいのね」

 スプリングを庇っての発言だろう。そういうところにそつがなくて、サマーは彼を買っている。セッテがスプリングにサマーを呼び戻すよう依頼したということで話をまとめたいのだろう。丸く収まる良い口実だ。

「王はどこ?」

「塔です。塔にこもっています」

「王が? まさか」

 ありえない。《女王の塔》は不可侵だ。女王以外、立ち入ることは許されない。それは王とて同じこと。足を踏み入れたら最後、塔にかけられた魔術が発動して焼き尽くされると、サマーは幼い頃から何度も言い聞かされている。マリーはサマーに嘘だけはつかないのだ。

「そんなお伽話を信じているのですか? 塔に魔術などかけられない。あそこは神聖な土地なのです。いかなるものもあるがままに置かれる」

「マリーが私を騙したとでも?」

 セッテは相変わらず朗らかに笑っていた。「いいえ、夏の女王。とんでもない。マリーは主に忠実な女だ。あなたに嘘をつくくらいなら舌を噛んで死ぬだろう」

「そうでしょう。当たり前よ」

「しかし女王。マリーが知らない真実もあるのですよ」

 微笑むその表情からは読み取れない底知れなさが彼にはあった。執務官は首を振る。

 大人はすべからく秘密を持っているものだ。サマーはそれを無理矢理に暴こうとは思わない。彼女も大人だ。弁えている。自分が知ることのできる範囲でいいのだ。

「どうしたら冬は終わるの?」

 夏の女王が知りたいのは、それだけだ。その先の真実など、彼女にとっては何の意味もなく知識にもならない。彼女は季節を巡らす女王の1人だ。自身の役目を全うするまでである。

 そんな彼女にセッテは首を振る。

「いいですか、夏の女王。勘違いしてはいけません。冬の女王に非はないのです。言ってしまえば全ての原因は、あの女にあるのですから」

「あの女?」

「前の冬の女王ですよ。あの女は、この国と自分の役目を放棄したのです。王と国民を裏切り、国を出て行った。いわば極悪人です。それがついこの間、死んだのです。老衰であっけなく死にました。それが全ての始まりです。今の冬の女王は前の冬の女王の血の繋がった弟君――つまり、偽物です」

「に、にせもの?」

 話についていけない。混乱していた。女王とは、女にしかなれないのではないか。女王の偽者? 影武者ということか。そんなこと聞いたことがない。だから、冬の女王は、人前に姿を表さなかったのか。

 本物の冬の女王が死んだということか。ということはつまり、冬の女王は不在のまま、雪が続いているのか。

 サマーはふらふらと執務官の隣の椅子に腰かける。そんなことがあるのだろうか。

 女王が途中で入れ替わるなんてことが。

「王は冬の女王が亡くなられたのはもちろんのこと、現冬の女王が正気を失ってしまったことも大変お嘆きになっています。王と冬の女王――弟君は昔、それは仲が良く、お2人で悪戯ばかりされていました。当時を知る者も、もうわたしくらいしかいません」

「私たちは随分と長い間、偽りの女王と暮らしていたわけね」

 そして、意味もなく冬の女王を恐れていた。

 セッテは言う。

「弟君の魔術を扱う腕は本物です。王様は何も知らない友人にあらゆる知識を与えました。その中でも弟君は魔術に秀でていました。とは言っても、悪戯にばかり使っていましたが」

「その弟君とやらは今どこに?」

「王と同じく塔です。今ちょうど、別れの挨拶をしているのでしょう」

「弟君はどこかへ行ってしまうの?」

「ええ。今生の別れです」

 それを聞いた夏の女王は急いで立ち上がった。「今生の別れ?」

 セッテは薄笑いを浮かべていた。

「だって冬の女王は死んだのですから、同じように偽者も死ななくては」

 夏の女王は執務室を飛び出した。

 ドレスが翻るのも構わずに走る。冬の女王が死ぬ。

 冬の女王が、死ぬ!

 信じられない気持ちだった。本物の冬の女王が死んだと聞いたときより遥かに大きく心臓が脈打っている。偽者の女王か弟君かは知らないが、サマーは走らずにはいられなかった。

 走りづらいヒールが憎らしい。城を出て、塔まで止まらずに走った。

「冬の女王! 女王、ウィンター! 出てこい!」

 かつてこんな乱暴な言葉遣いをしたことがあっただろうか。まだ見ぬ冬の女王。一目会いたいとは思っていた。だが、それだけではない。仮にも長年、自分よりも長く冬の女王として生きてきた男に、そう簡単に死んでもらっては気分が悪かった。

「勝手に死ぬなんて許さない! 聞いてるのか、冬の女王!」

 寒くて思わず鼻水が垂れる。そのくせ頬と心臓は熱を持っていた。

 ウィンターとはまだ会ったことはないけれど、手紙の交換ならしていた。彼女は――彼は優しく、穏やかで、時々大胆で、憧れだった。サマーの憧れの女王だったのだ。だから駆けつけた。この事件を解決するのは私だと意気込んでいたし、その暁には少しは冬の女王との仲も近づいていると思ったのだ。

 次の冬の女王なら、きっとすぐに現れるだろう。思い返してみれば、サマーの時もそうだった。啓示があった。予感があったのだ。前の夏の女王が亡くなったのは、そう、冬だった。凍えるような冬の日に、夏の女王は入れ替わった。そうやって女王は時折代替わりをした。だから冬には格別の思い出があるのだ。冬は特別な季節。死んでもらっては困る。いなくなってもらっては困る。ウィンターがいなくなるなんて、いやだ。

「ウィンター!」

 喉を枯らして、声を振り絞る。こんな声を出したのは始めてだ。

 泣きたくなる気持ちを抑えて上を見上げる。髪の毛が降ってきた。

 ただの髪の毛ではない。三つ編みだ。

 黒々として、よく手入れされた綺麗な髪の束が塔の上から垂らされた。

「……へ……?」

 サマーは腰を抜かしてしまった。ぺたりと尻餅をついて、髪の束の元、つまりは塔の天辺を見上げた。どうやら天辺の窓辺から降ろされたものらしい。

 何なんだ、これは。口をぽかんと開けていると、上からその髪の束を掴みながら降りてくる人影がいた。若い。男だ。

 男はどんどん滑るように下ってきて、やがてはサマーの目の前に下り立った。

 男の綺麗な黒い両目が不思議そうに彼女を見つめる。すぐに得心したように手を打った。

「きみ、サマーだろう」

 差し出された手を取ると、力強く引き寄せられた。男はにこにこと笑った。

「はじめまして、サマー。さようなら、サマー」

 そんなことを言って男は去ろうとする。放心していたサマーは慌てて離された手を再び握った。

「ウィンター! ウィンターなのね!?」

「きみは聞いていたとおり、元気なんだなあ」

 ついには声に出して笑い出す男を彼女は信じられない気持ちで見つめた。思いの外、ウィンターは若かった。おそらく何かの魔法か、ここでもまた秘密があるのか。自分と同じくらいに見える男は本当にウィンターなのだろうか。セッテは姉の死にショックを受けて正気を失ったと言っていたが、とてもそんなふうには見えない。

「僕はもう、ウィンターじゃないよ」

「ウィンターじゃなければ、あなたの名前は何て言うの? どこへ行くつもりなの?」

 男は困ったような顔をした。「名前はもう捨てたんだ。王のお許しをいただいたから、旅に出ようと思って。本当は姉さんと行きたかったけど、その姉さんが死んだから旅に出られるなんて、皮肉なもんだよね」

 ははは、と彼は笑う。笑い事ではない。どうして彼はこんなに苦しそうに笑うのだろう。

 そう言うと男は更に困った顔をして、それでも答えた。

「そりゃあね、姉さんのことが好きだったし、この国から離れることに少しだけ罪悪感があるんだ。陛下はもう長くないだろう。最期まで見届けてあげたかったなって」

「いればいいじゃない。そう思うのなら、お城に留まればいいでしょう?」

「できないんだよ、サマー。僕は影武者だからね。いないはずの存在なんだ。……そろそろ行かなくちゃ」

「行かないで、ウィンター」

 必死に男の手に縋るも、彼は素気ない。

「逃げなくちゃ。僕の存在を知ってるものは多くはないけど少なくもないし、まだ死にたくない」

 男は優しい手つきでサマーの手を離すと、礼を言う。「ありがとう、夏の女王。君とは一度話してみたいと思ってたんだ」

 そう言うと、どこからともなく現れたユニコーンに跨がる。冬の女王だった男は手を振った。

「僕は意外と強かなんだ」

 優しい笑顔で言うと、男はユニコーンに乗って行ってしまった。

 耳を澄ますと遠くから足音が聞こえる。騎士たちの足音だ。ぎっ、ぎ、と金属が軋む音もする。命が狙われているのは本当だったようだ。塔を見上げると、その天辺に王がいるような、冬の女王を涙ながらに見送っているような気がした。

 夏の女王はコートを翻す。彼女はまだ、ここにいてはいけない存在なのだ。南の国に戻ろう。パーティの続きだ。

 あふれる涙をそのままに、サマーは声を上げて咽び泣いた。

 泣くことのできない不器用な男の代わりに、泣いてやった。彼女の知る冬の女王は、優しく、穏やかで、時々大胆で、強かで、不器用な、男だった。

 彼女はそんな冬の女王に、憧れていた。

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