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第七話

 結局、私は彼らに選択を迫られた。実質、選択肢は無かったのだけど。

 一つ目は、彼らに与して、事情は全部説明して貰えるものの、完全に彼らに協力することを求められた。事情次第ではアリだと思うのだけど、先に教えて貰える筈もなく。

 二つ目は、今後は何も追及せず、質問もしないことを要求された。でも、そんなことをするつもりは私に無い。どちらにしても、香織に対しては当面秘密を貫き通すことを迫られた。

 三つ目の選択肢は、彼らは口にはしなかったけれど、考えたくも無かった。それは、不穏当な内容になることが容易に想像できたから。

 私は、少し考えさせてと回答を待って貰うことにした。秘密については告げないけれど、香織や若菜に何も告げずに決めたくはなかった。

 教室に戻ると、好奇の目に晒されたけれど、私は無視した。そして、私を訝し気に睨む友人二人の下に駆け寄り、

 「後で相談させて欲しい」

 とだけ告げて、自分の席に戻った。


 放課後。結局、あの後小暮君は教室に戻っては来なかった。

 教室から私たち以外居なくなるのを待って、私たちは顔を付き合わせた。

 「私から言えることはあまり多くは無いのだけど、聞いて頂戴」

 色々と質問したがっていた様子に、私は先に宣言した。

 若菜は不満そうに、香織は不安そうにしていたけど、それでも聞いてくれる様だった。

 「私が推察していた事柄は、もう話せない。当たっていたのだけれど、とても話せる内容じゃなくて。小暮君からは、私からズバズバ言い当てられるのが彼の体調を悪くしているらしくて、もう何も推察しないか、それとも彼らに協力するように要求されたの」

 「……要求?」

 不穏当な言葉に、香織が目を細めた。

 「そっ。要求。どちらも呑まなければ、私に不幸が訪れそうなのよね」

 不安そうな香織に、私は笑って見せた。

 「なんなのよ、それ。美弥子はそんなの真に受けたの?」

 若菜が不機嫌そうに零した。

 「いえ、それはどうでもいいのよ。どちらにせよ、私は彼らの要求を呑むことにしたのだから」

 「はあ!?」

 若菜がいきり立つ。

 だけど、私は彼女を無視して話を続けた。

 「推察しないでいることは、私には無理だから。私は小暮君たちに協力することにするわ。──香織のために」

 真っ直ぐ、香織の目を見つめて、そう宣言した。

 香織は不安そうに、話の続きを待っていた。

 「どれくらい先になるか判らないのだけど、春人さんに関わることで、そのうち小暮君から話があるから。彼が、そう宣言したから、それまで待って欲しいの。それを香織がどう思うかは私には判らないけれど、おそらく香織の期待に沿うものであると思うの」

 香織を安心させたくて、つい余計なことまで言ってしまう。だけど、これくらいはいいかな。

 香織は俯いて、頷いてくれた。

 だけど、若菜は納得出来ないらしくて。私の腕を掴むと、強引に若菜の方に向き直させられた。

 「美弥子、どうしちゃったの? 小暮君に何か弱みでも握られてるの? それとも、小暮君に惚れて彼の言う事を鵜呑みにしてるの?」

 香織のために、という私の発言が信じられないのか、それとも私らしくないと思っているのか。

 「違うわ。今の状況だけを伝えると、……正しく理解して貰えそうに無いから」

 香織を不安にするから、とはとても言えない。それでは言わなくても不安にさせてしまう。

 「美弥子は私らの友達じゃ無かったのかよ!?」

 「友達だから、今は言えないのよ。今これを言うくらいなら、私はあなたたちと友達でいることを止めるわ」

 売り言葉に買い言葉、でも無いのだけれど。

 「ああ、そうかよ! じゃあ、その小暮君からの話とやらがあるまでは、美弥子とは絶交させて貰うから!」

 若菜は、渋る香織を引っ張って、教室から出て行った。

 何れにしても。私は香織と距離を置く必要性を感じていたから、これでいいのだろう。傍にいたら、具体的には判らなくても、私が察している事柄がどういう類のものか感づかれてしまう危惧もあったし、いつまでも秘密にしておける自信も無かった。


 呆然と教室に残っていると。小暮君が戻ってきた。

 彼は私の様子を見て、気まずそうに俯いた。

 「あなたの側に与することにしたわ。そのおかげで、香織たちからは絶交されてしまったけれど」

 自重気味に笑う私に、彼は何か言おうとして、躊躇う様子を見せた。

 「当面は、これでいいのよ。一緒にいたら、私は彼女に何か言ってしまいそうだもの」

 「……すまない」

 彼はまた俯いてしまった。

 「謝らなくていいのよ。香織に、そのうち小暮君から話があるから、って宣言したから。あなたはそれに向けてがんばってくれれば、それでいいのよ」


 ***


 ずっと仲良くしてきた香織と若菜から距離を置く様になって。私は教室で気まずい思いをしていた。

 先日のこともあって、小暮君に近付くのも憚られて。私は一人浮いた存在になっていた。


 放課後になると、私は小暮君と涼香さんに連れられて、彼らの属しているものについて、色々と教えて貰った。彼らの一族が、生業としてきた事柄を。現在でも一部の人には力があり、稀にだけどそういう仕事を引き受けているらしかった。

 そして。

 その代償が、今が状況なのだ。

 小暮君の話によれば、春人さんは、香織を守ることで一族に降りかかる厄災を全て断ち切ろうとして、香織の呪いを自ら受け止めることにしたらしい。そしてそのことが、涼香さんは不満らしくて。小暮君も、当時は不満に思っていたのだけど、今ではそれを理解しているらしい。そこに至るまでに、どんな思いが交錯して来たのか、私には知る由も無かった。


 ***


 春人さんに会わせて貰った。といっても、彼はずっと意識が無い状態だったのだけど。かなり重篤な状況らしい。

 彼は医療機器に囲まれていて。その部屋全体に何やら儀式的装飾が施されていた。

 「……最後には、俺が引き受けている呪いも全て彼に返して。その後、彼自身を封印するんだ……」

 呪いの種類や力によっては、相殺したり退けたりも出来るらしいのだけど、彼らの一族を襲っている呪いにはその方法は使えないらしくて。その呪いだけを封じることも出来ず、どうしても拠り代が必要になるのだとか。

 「ねぇ……。本当に、香織には何も知らせないの……?」

 私はぽつりと疑問を漏らした。

 「言える訳が――」

 小暮君は言い掛けて。私を見て、言葉を詰まらせていた。私が涙を流していたことが意外だったのか。

 「だって……香織はこんなにも愛されていることを、未だに知らずにいるのよ……?」

 私の言葉に、小暮君は俯いて、右手で胸を掻き毟るような仕草をした。また、彼を動揺させてしまったのだろうか。

 「君は……それも理解してくれているんだね」

 彼の目から、涙が溢れていた。

 「俺以外、誰もそのことを判ってくれないんだよ。一族の為に協力はしてくれているけど……誰も香織と春人さんのことを祝福してくれないんだ……」

 彼は、それがとても悔しそうで。

 これまでずっと堪えて来たのだろう。彼は私にしがみ付いて、声を押し殺しながら泣き出してしまった。

 部屋の外から、涼香さんは複雑そうにその様子を見ていた。


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