7.異世界の成り立ち
「先ずは世界の成り立ちから説明しよう。
世界は空間に無数に存在し世界膜と呼ばれる膜によって包まれている。 世界膜は不定期に膨張と収縮を繰り返している。 世界間には距離があるし、普段は問題は起こらない。
だが膨張した時に近くに同じように膨張した世界膜があると膜同士が、くっついて孔が開くことがある。それが異空孔だ。
そして異空孔が通じると二つの世界間で物質の転移が起きることがある。
君はおそらく、その所為でここに来たのだろう。 ここに来た時の君の状況からほぼ間違いない」
幸羽はSF小説かアニメの設定のような話に目を瞬かせた。
(何を言っているんだろう。 この人、頭大丈夫なのかな? おかしいようには見えないけど…
オタクなの? それとも若い子の患う病気がまだ治まってないのかしら?
こんなに美形なのにお気の毒に… )
そんな失礼なことを思っていた幸羽は蒼聖に問いかけられて我に返った。
「今の説明でわかったかな?」
「えっ、ああ、はい」 あいまいにうなずく。
「急なことで君も戸惑っているだろう。 でも心配は要らないよ。
住む所は富貴恵さんが、好きなだけここに居てくれて良いと言ってくれているし、今後のことは私たちが相談に乗るからね」
優しく微笑まれて、幸羽は変な人扱いしてしまったことを心の中で反省した。
「あ、有り難う御座います。あの、それで私は、いつごろ戻れるんでしょうか?
仕事のこともあるし、ああっ、無断欠勤になっちゃうかな」
考え込み始めた幸羽を蒼聖がなんともいえない表情で見つめる。
「いつかは言わなくてはいけないことだから、隠さずに本当のことを言うよ。
幸羽君、気の毒だが君はもといた場所には、もう戻れない」
「はっ? ええっ」 幸羽は一瞬フリーズした。
「うそでしょう。どうして? だって孔が開いているんでしょう? そこから帰れるんじゃないですか?」
「異空孔が通じているのはごく短い時間だ。そして何時、君のいた世界と再び繋がるのかは予測できない。
隣接している世界でも異空孔が通じる確立は低いんだ。
仮に早い時期に君の世界と再び繋がることになったとしても、二つの世界の時の流れは異なっているから、ずれが生じているだろう。
しかも、その異空孔が不適切な場所にでも開いたら即、命の危険があるよ。
いいかい、君がここに無事でいるのは奇跡といっていい事なんだよ。 そう何度も起こることじゃない。元に戻るのは難しいんだよ」
蒼聖は言い聞かせるように幸羽を見つめて話す。
「そんな、じゃあ私は… もう皆に会えないの。 だって困るわ、亜紀に何も言ってこなかったし仕事の引継ぎだってしてないのに。
うそでしょう? ホントは変な夢なんでしょう?
こんな知らない所で…… 私、これから一人でどうしたら…… 」
青褪めてブツブツ言い始めた幸羽の肩に、蒼聖が手をかける。
「落ち着いて、私たちがいるだろう。 君は一人じゃないよ」
「でも、でも私…… 亜紀、私どうしたらいいの」
パニックになった幸羽は急に目の前が暗くなり、そのまま意識を手放してしまった。
説明回でした。短いのでこの後の話も続けます。