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夢の中から落っこちて・・・   作者: 東山紗知子
三章
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44.閑話 緑館の人々4

暑いですね。何時から日本の夏は猛暑になったんでしょうか? 

「ふう、いいお湯だったわね、太郎ちゃん」

 まだ生乾きのおかっぱ頭を撫でるとコクリと頷く。


 修行休みの今日は早々と夕食前に入浴したのだ。 部屋に上がろうとしていると帰ってきた朗が玄関の方からやって来た。


「なんだ、お前らもう風呂に入ったのか?」


「お帰りなさい。そうなの、今日はお休みだからゆっくり入ったのよね」

 太郎が何故か自慢げな顔でアヒルもどきのおもちゃを見せる。


「うん、その顔は何だよ? 俺は女湯にも、おもちゃなんかにも興味はねえぞ」


「やだ、太郎ちゃんたら」

 階段の下で立ち話をしていると、同じ様にお風呂道具を抱えた良太が下りてきた。


「あっ、お帰り朗さん」


「おう、良太はこれから風呂か? 」


「そうだけど、幸羽さん達は上がったんだ。

 今更だけどオレ、家守りが風呂に入るって初めて知ったよ。家守り自体太郎が初めてだけどさ」


「そういやそうだな。お前が来るまで太郎が風呂に入ったことなんて無かったな」


「あら、そうなんですか。ていうか何で入れてあげなかったんですか? 立派なお風呂場に温泉まで湧いてるのに! 」


「んなこと言ったって、時々出てきて菓子食うか悪戯するかして消えちまうんだぜ。 どうしろって言うんだ。

 懐いて言う事聞くのは富貴恵さんと蒼聖だけだしよ」


「そうそう、こんなに出っぱなし?になったのは幸羽さん来てからだもんな。風呂どころかずっと同じ格好してたから、オレ着替えたりしないもんだと思ってた」

 パジャマ姿の太郎を見て良太が頷いている。


「そうだったの? 今はお風呂好きみたいだけどね」

 首を傾げると、太郎もそれをまねた様に首を傾けた。




 暫くして幸羽が夕食の配膳を手伝っていると、

「うわぁ、何だこれ! 」

良太のものらしい悲鳴?が聞こえた。何だろうと思っているとバタバタと近づいてくる足音がした。


「太郎!」 呼びながら食堂に入ってきた良太に目を丸くする。


「どうしたの、良太君? 太郎ちゃんなら、そこに…… あら、何処に行ったのかしら」

 さっきまで幸羽の周りをうろちょろしていた太郎がいなくなっていた。


「なんだ、またやらかしたか? 」

 首にかけたタオルで風呂上がりの頭をぬぐいながら朗が苦笑いする。


「さては逃げたな。もうしょうがないなぁ。ミアさんは今夜は遅いのかな……」

 ため息をついてブツブツ言いう良太に


「ミアさんならお得意様達と、泊りがけの女子会だって言ってたから帰りは明日の晩よ」

太郎の悪戯なら富貴恵さんだろうに、なんでミアさん? 怪訝に思う。


「なんだよ女子会って、女の集会? はあー、それじゃ明日まで無理か。

 でもなー、そうだ、幸羽さんにお願いあるんだけど…… 」





「た、確かにこれは目の毒ね」 良太の部屋の箪笥の引き出しを見て、瞬きをする。


中には幸羽ですらギョッとしそうな、セクシーというかアダルトなランジェリーが詰まっていた。間違いなくミアのものだろう。


「だろう? オレ、ビックリしたよ。ミアさんが留守なら取りあえず中身を出してもらおうと思ってさ。 ちょっと富貴恵さんに頼むのもなぁって思って、幸羽さんには悪いけど」



「ううん、別にこれ位いいのよ。 だけど、太郎ちゃんいつの間にこんなお仕事(・・したのかな。ずっと私の側にいたのに…… うわぁ、これって穿く意味あるのかしら? 」

 思わず広げて見せた殆ど紐でできたTバックショーツに良太が赤面して手を顔の前に手を振る。


「いや、見せなくていいから。勘弁してくれよ! 」

 明後日の方を見ている良太にセクハラだったかと幸羽は反省した。





 夕食になっても太郎は出てこなかった。叱られると思っているんだろうか。良太の箪笥の話から太郎のいたずらの話になる。


「そうそう、仕事・・が早いんだよね。ちょっと目を離したすきにそろえた原稿をバラバラにしたり、靴ひも抜いたりとかね」

 歩は困ったような顔をしながらも笑っている。


「オレも、靴下の片方だけ別の引き出しに入れられるよ。今回のはちょっと焦ったけど太郎だからなぁ」


「お前らはまだいい方だろ。俺なんか押入れの戸は開かなくなるは、夜中に布団は仕舞われるはで大変なんだぞ」


 朝起きると枕だけして畳の上に寝ているのだそうだ。そして布団はきちんと畳まれて押入れに入っているのだとか。

 流石に冬場にはやらないようだが、いっそベッドにしたらどうかと進めてみる。 マット一体型のものなら掛物を取られても少しはマシではないだろうか。


「いや、ダメだろ。ベッドごと移動させるな」


 大物家具も動かせるなんて、意外と力持ち? 寝袋にしないとダメ?

 幸羽はちょっとした物しか知らなかったが 太郎はなかなか手強い悪戯っ子らしい。


「でも、前よりも随分と少なくなったよね」


「幸羽ちゃんがよく相手をしてくれるから、寂しくならないんでしょう」

 微笑む富貴恵がお茶を運んできた。


「なんだ、まさかアイツ構ってほしくて悪戯すんのか? 留守番させられた犬かよ。いや、どっちかって言うと太郎は猫だな」


イヤそうに眉間に皺を寄せる朗に歩が頷いている。

「ああ、いるよね。ご主人さまの靴におしっこしちゃうような仔」


座敷童は家の守り神のようなものだと云うけど、こっちの家守りはペットなのか。


「太郎ちゃんは可愛いから、私はどっちでもいいけど」

 つぶやいて、今夜は隠れているつもりらしい太郎を思った。


続きが書けない、困ったときの閑話です。 またしばらくお休みかもしれません。



読んで下さった方に感謝します。

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