42.新たな能力
短いです。すみません、暑いんですもの……
廊下に出ようとしていた幸羽は、突然めまいにも似た浮遊感にふらついた。
居間で寝転んでいた朗が慌てて起き上がり支える。
「オイ、大丈夫か? またアレかよ? 」
心配げな声に答えることなく幸羽は別の事に気を取られていた。
「ええっと、なにこれ 」 そして困惑した声がこぼれた。
秋も深まり、修行と時々神殿でボランティアをする生活にも慣れてきた。 徐々に増えているらしい生命力の所為なのか、その頃から幸羽にまた変な能力?が表れ始めた。
時折頭の中に映像が浮かぶようになったのだ。 何の前触れもなく現れるそれは静止画像で、コマ送りの様に何場面も切る変わることもあれば、一つの場面がズームアップして見えることもあった。
そして温泉効果と同様に本人の意思には関係なく起こるので、鮮明に見える以外は単なる思い付きと変わらなかった。 その内容も夕食の場面だったり、館の皆の様子だったリと他愛のないものだった。
但し、それらは見てから実際に起こったので、どうやら未来を垣間見ていたらしいと分かった。
とは言うものの、見えたものから情報を得たり、複数の場合は前後関係を予測したりするのは幸羽だった。
なので精々次の日の夕食の献立や、太郎が物を隠す場所がわかるなどのささやかな恩恵しかなかった。
「朝は笑われたけど傘持って行って良かったよ。まさかあんな土砂降りの通り雨にぶつかるなんて思わなかったし、買い出しの荷物持ってたから幸羽さんのお陰で助かった。
折り畳みと二本持ってたから友達にも貸したし、ソイツに今度奢ってもらうんだ」
「役に立ってよかったわ。こんな風に何時起こるか分かれば、まだ便利なのにね」
幸羽は使い辛い力、イヤ実際は使っているわけではないのだが、に眉を寄せる。
今回は見えた映像から日時が予測できたので良太に助言できたのだ。
「分かるだけで大したもんじゃない? まあ、見たいものが見えたら、それこそ術者目指さなきゃなんないしね。 だけど、殻とは別口なんでしょ、そのうちできるようになるかもね」
以前に蒼聖が言っていた術者の才能があるというのは冗談ではなかったようで、この役に立つのか微妙な力は幸羽本来のものらしい。
そして殻の方もすでに幸羽の一部なのだが、こちらもコントロール不可で、かけ流し温泉の状態だ。
歩に慰められて、何時の事になるやらと遠い目をすると、良太が目を丸くする。
「おお、すっげー。未来を予知する術者! そうなったら、どっかの教祖様になれるかもな」
「ええー、そんなのイヤよ。お断りです」 顔を顰めた幸羽の頬を膝に居た太郎が宥める様にスリスリしてくる。
「あっ、でも、家守りを守る会なら入会してもいいかも」 眼尻を下げながら、お返しに撫で返していると呆れた様に笑われた。
「なんだよそれ」
「えっ、おかしい? じゃあ、愛でる会? 」
こんなに可愛い子達を保護しなくてどうするの。減っているって言ってたし。
いっその事不動産業かなんか立ち上げる? 建築業の方がいいかしら、だけど私が建てても全部に住めないし…… 。 いい家主さんを探さなきゃなんないわよね。
家守りたちを保護するための方法を本気で考え始める。
他所の子に会ったことないけど、もしかして女の子っぽい子もいるのかしら。
家守りには性別はないらしいが…… 。
「ああ、そうだ。富貴恵さん、オレ明日から学際の準備で夜遅くなるから、たぶん夕飯食べて帰ってくると思う」
幸羽が考え込んでいると、思い出したように良太が富貴恵に声を掛ける。いつものように部屋の隅に居た富貴恵が笑顔でうなづく。
「わかりました。じゃあ、お夜食ですね」
「流石、富貴恵さん。わかってるなぁ」
破願する良太にいったい何食食べる気なんだろうと、成長期男子の食欲に呆れる。 それにしても、こっちにも学際なんてもがあるんだなと幸羽は目を瞬かせた。
年に一度、学習発表と運動会を合わせた様な行事が五日間かけて行われるのだそうだ。 メインイベントは最終日に行われる組対抗の陣取り合戦なんだとか。
「もうそんな時期か」 歩が何だか嬉しそうにしている。
「今年は担任が産休に入っちゃったから、繰り上がった副担のユカリ先生が担当で皆張り切ってるんだよ。 ホラ、妊婦だからオレ達も一応気を使ってたんだ、無事生まれたらしいから良かったけど。
そんなのもあって今年は盛り上がっているんだ。先生も若いから気も合うしさ」
「ああ、あの美人の先生ね」
どうやら歩は顔見知りのようだ。何処でも美人は人気者らしい。どうせ教わるのなら綺麗なお姉さんがいいに決まってる。
そして、ふと先日の予見を思い出した。
「そう云えばこの間、良太君が夜のコンビニの前で誰かと話してるのが見えたわ。ワンシーンだったし、暗かったからどんな人か分からなかったけど」
「へぇ、友達と寄り道でもすんのかな」
「そうかもね。日が短くなってきたから帰り道には気を付けてね」
「やだなー、オレ男だぜ。幸羽さんこそ気を付けた方がいいよ。なっ太郎」
頷いて心配そうに見上げる太郎に胸がキュッとした幸羽は、その頭を何度も撫でた。
そして、幸羽がその予見を思い出したのは数日後だった。
変な趣味はないですが、お家にカワイイ癒しの幼児がいたらいいと思いませんか?
ペットでもモフモフな仔だったら文句なしです。
本日も読んで下さってありがとうございます。




