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夢の中から落っこちて・・・   作者: 東山紗知子
三章
41/45

41.温泉の利用法

毎日暑いですね。 温泉の文字を見ると暑さが増す気がします。

夏の温泉もいい物ですけどね…… 。

 幸羽が何か飲もうと居間に降りると、いつものごとく住人達が酒盛りをしている。 この人たちの肝臓は大丈夫なのだろうか。

  休肝日を提案するべきだろうかと幸羽が眉を寄せて考えていると、急に後ろから覆いかぶさってきた者がいる。

  振り返るまでもなく、お酒の臭いに混じった香水の香りと背中に当たる柔らかいもので 直ぐに誰か判った。


  「どうしたんですか? ミアさん」 ほろ酔い加減の色っぽい美女に抱き着かれて、ちょっとドキドキする。


  「んー、だって、幸羽に側にいるとお肌にいいらしいじゃない? せっかくだから肖ろうと思って……  んで、どこから出てるの?」


  「ええ、何の話ですか?」 キョトンと目を見開いた幸羽に朗が口を挟む。


  「俺はそんなこと言ってねぇぞ。ただ幸羽に温泉が湧いたって話しただけだ」


  「ホラ、やっぱりそうじゃない。温泉って言ったら美肌でしょ。 なに、もしかして私にはナイショの話だったの? 」 


  「ええっと、それは…… 」


  酔っていいるせいか胡乱な目つきをしたミアに困った顔をすると、幸羽の代わりに歩が宥める。


  「温泉その物ってわけじゃないよ。そんな事ありえないだろ、半分冗談なんだから。 例の殻の所為で幸羽ちゃんの側にいると同じような効能があるかもって話で、確定してるんじゃないよ」


  「ええー、じゃあ美肌効果はないわけ? むー、残念だわ」 抱き着いていた腕をするりと解く。


  「本物の温泉があるだろうが。それで我慢しとけ」 焼酎の梅干し割が入ったグラスを口に運びながら、朗がめんどくさそうに片手を振る。


  「言われてみればそうね」 あっさり納得して頷いたミアの視線は朗の頭上に向けられていた。


  「お前、どこ見てんだよ! 」 それに気付いて、ムッとしている朗のスキンヘッドは今夜も艶やかだった。


 気にするくらいなら剃らなければいいのにと幸羽は思う。あの頭でいかつい感じが五割増しだ。 いっその事場を和ませるようにアフロとかにしたら…… 

 幸羽の脳内映像は砂嵐になり、恐ろしい思い付きは直ちに却下された。

 幸羽がそんな事を考えているうちにミアは、座ってまた飲み始めた。



  「だけど、修行していけば、もっと能力が上がるんだろう? そのうち美肌効果とやらも出て来るかもね」 干物を片手に歩が飲んでいるのは緑茶割のようだ。


  「そうなんでしょうかね。あまり自分事に思えないんですけど…… 。 何かしてる自覚が全然ないし……  でも折角だから利用できるといいんですけどね。

 勝手に出てるんだし」


  「蒼さんは暫く戻らないし、富貴恵さんに相談してみたら。

 ホラ、百城先生とかにも一度会ってみたらいいよ」


  「ああ、そうですね。お世話になったお礼に行かなくちゃと思ってたんです」



  「あれは、なかなかいい男よ。 とうが立ってるけどまだ生きは良いしね」 カラカラとグラスの中の氷を鳴らしながらミアが嬉しそうに言う。


 どうやら知り合い、それも親しい仲のようだ。

 どんな人なんだろうと、幸羽は術医という未知の職業の人間に思いをはせた。





  「そうねぇ、だったら試しに私の神社じっかにでも行ってみる? 」 


  今朝届けられた今年最後だという枝豆の莢をもぎ取りながら、富貴恵が小首を傾げた。大人の女性の可愛らしいしぐさに幸羽の頬が緩む。



  「そう、家の神社はね、具合の悪い信者さんに御神水を分けてあげているのだけど、その方たちが療養している寮があるのよ。 そこでお手伝いなんてどうかしら?

  蒼さんの話じゃ幸羽ちゃんは癒しの力持ち何でしょう? そこにいるだけで周りの人に恩恵があるなら、丁度良いんじゃないかしら」


  八百万のとか云うように、こっちでも神様はあちこちに大勢いるのだそうだ。そして、神様がいらっしゃる所は神社と呼ばれ、その中に神殿と呼ぶ神様たちのお住まいや、信者さんが集まる建物やらがあるのだとか。

 信者というよりファンと呼ぶ方がいいくらいの緩い集まりだそうだ。

 ちなみに、神様目指して修行中の教主を名乗る似非術者(マチルダ談)のいるところは教会らしい。そっちの方がよほど宗教じみているようだ。



  「でも大丈夫ですかね。あまり重症の人に近づくのは……」


 ためらう幸羽に富貴恵はおかしそうに笑う。

  「あらイヤだ、そんな人いませんよ。居たら、もちろん医者を勧めますよ。精々、肩や足腰が痛いとか、食欲がないとか眠れないとか、夫婦げんかしたとか、そんな人達よ」


  「はあ、そうなんですか」 相槌を打ちながら、果たして夫婦げんかに「御神水」とやらは効き目があるのかと疑問に思う。


  「だから、幸羽ちゃんの温泉効果?にぴったりだと思うのだけど、どうかしら…… 」


  仕事内容的には自分でもできそうだし、目的ができてちょっと嬉しい。修行の休みを使っての不定期なものにはなるが幸羽は行ってみることにした。





 さて、富貴恵の神社じっかを訪ねる日になった。どうやって行くのかと思っていたら、富貴恵の部屋に案内される。通された部屋の壁に掛けられた掛け軸の前で富貴恵が何か唱え、柏手を二つ打つと一瞬のうちに見知らぬ場所に立っていた。


  「うわぁ、瞬間移動的な? またファンタジーな…… 」 自分の常識を超える現象に幸羽は乾いた笑いを浮かべて独り言を言う。


 いや、神様のお宅訪問なんだから、これは当たり前なのかもしれない。ここは異世界なのだからと、心の中で自分に言い聞かせる。


 そんな幸羽に富貴恵はいたずらが成功したような満足そうな笑顔を浮かべる。


  「うふふ、驚いたでしょう? 「神渡り門」て云ってね、神社と外を繋ぐものなんですよ。私達、神族がいる場所限定ですけどね。緑館に移った時に父上が開いて下さったんです。便利でしょう? 」


  便利で片づけていいのだろうか、イヤいいんだろう。なんといっても神様の姫君なのだから…… 。 

  幸羽は色んなものを飲み込んで曖昧に頷いた。



  連れていかれた場所は、所謂集会場のような所でお年寄り達が茶飲み話をしていた。 そして、その周りに幼い子供が走り回っている。


  「老人ホーム兼託児所? 」 幸羽の第一印象通りに、此処ではお年寄りが集まっている所に忙しい親が子供を預けて行くのだとか。


  「小さい子って生命力が身体に収まり切れなくって、漏れ出してるでしょう? それがお年寄りには薬になるんですよ。 元気を御裾分けしてもらっているというところかしら。だからお互い様なのよ」 富貴恵の説明になるほどと思う。


 そこにいるだけで効果があるらしいので、幸羽は子守をしつつ茶飲み話の相手をして過ごした。そんな日を数回過ごすうちに変化が見られた。


  膝の痛かった人が夕方には普通に歩いて帰ったり、ぎっくり腰が癖になっているという人も次の日には動けるようになった。

 そして思わぬことに、夜泣きをする赤ちゃんと、五歳児のおねしょがピタリと治まったと感謝された。


  幸羽としては働いた気がしなかったのだが、それなりの効果はあったようだ。



  「こういうのを仕事にしてもいいかも。後は病院の付き添いとかどうかな…… 」 ボランティア感覚でやるのならいいかもしれないと幸羽は思った。



朗は頭皮に不具合があるわけではなくヘアスタイルです。



読んで下さってありがとうございました。

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