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夢の中から落っこちて・・・   作者: 東山紗知子
三章
34/45

34. 蒼聖と術医

ダンディなおじ様は好きですか? 私は 紳士>チョイ悪 です

「それじゃあ俺たちがアイツから生命力を横取りしたってってのか? 」 


「簡単に言えば、そうなるね」 不機嫌そうに眉間にしわを寄せた朗に蒼聖は頷く。


「まいったね」 「どうしよう、オレもそうなんだろ? 」

 歩はため息をつき、良太は肩を落としている。幸羽の不調の原因が自分達にあると言われたのだから平静ではいられないのだろう。


「だけど、君たちには責はないよ。どちらかと言えば幸羽君が、イヤ違うな、おそらく彼女の意思とは関係なく提供されているから、君たちは単に流れて来た力を受け取っただけだ。

 生物として不足したものを補充しようとする無意識の行為だから仕方ない」 蒼聖が説明しても、皆の表情は晴れない。


「生命力を奪う奴等の話は聞いたことあるが、くれてやる奴の話なんて初めて聞くぜ」 朗がぼやきながらスキンヘッドをつるりと撫でる。


「けど、この間まで何ともなかったんだよ。何で、そんな急にそんなことになったスか」 良太が納得できない様子で、問うような眼差しを向けた。



「はっきりとした原因は、私には解らない。専門じゃないしね。 明日には百城先生が戻るから診てもらうつもりだ。 私に解る範囲で言えば、幸羽君の無自覚な力の流出によって、彼女の生命力は現在枯渇状態にある。

 そして、それは周囲の状況によって誘発される可能性が高いだろう。 実際、君たちが近寄って来た時に、一気に流出したからね。 少し前、私と太郎が側にいた時点では、特に異常はなかった」


術者である自分や家守りの太郎は、影響を及ぼさないようだと告げると良太が顔を顰める。


「それじゃ、やっぱりオレたちの所為じゃんか。 なんでだよ、オレが疲れてたから? でも、それはしょうがないよ…… 」

 良太が小声でつぶやく。目の前で倒れられたのが、かなりショックだったようだ。


「そんなに気にしなくていいよ、良太。 休養すれば生命力は回復するから、取り敢えず彼女の事は心配しなくていい。 だけど、暫く皆は彼女に近づかないようにして欲しい」


冷静に説明をしている蒼聖だが、自分が側に居ながら、幸羽の体調の悪化を防げなかった事を悔いていた。


あんなに保有量が減っていたんだ、もっと気を配るべきだった。 あそこまで枯渇させてしまったのは、対処が遅れた私の責任だ。 それにしても、彼女の生命力の動きは不自然すぎる。

 蒼聖は深く息を吐くと目を閉じて考え込んだ。





 次の日、蒼聖は懇意にしている百城の医院を訪ねていた。 百城は医療専門の術者である術医をしており、師匠亡き後、蒼聖が相談できる数少ない者の一人だった。


「出張から戻られたばかりなのに、押しかけてしまって済みません」


 夜中に帰宅したばかりの百城を、直前の連絡だけで訪ねた事を謝罪すると医師は鷹揚に首を振る。 自分より百歳以上年上のはずだが、疲れた様子もなく、ゆったりとした笑みを浮かべて話の先を促す。


「いや、気にせんでもいい。 君がワザワザ来るんだから大事だろう。 あの娘の事か? 何があった」


 流石は話が早いなと思いながら蒼聖は、一連の出来事と幸羽の症状について話し、自分の視た映像情報を提供した。

 始めはただ興味深そうに聞いていたが、話が進むにつれて百城が真剣な医者の顔になる。 力の流失によって、幸羽の生命力が枯渇している告げると、信じ難いように首を振る。


「考えられないな。 本当に「力」なのか。 あの娘は術者ではなかろう。例え無自覚な行為だとしても、体外に滲み出るというならともかく、流失だと。そもそも保有量が…… ああ、そうか、それで倒れているんだったな。うーむ…… 」


 眉間に皺を寄せた百城は、蒼聖に答えるというよりは、半分自問自答しながら唸る。


「ええ、確かに癒し系の力でした。 ですが彼女は術者の素養はないし、元の世界には術自体存在しなかったようです。つい最近まで問題なかったので、あちらの人間の特有の現象とは、考え難いですね」


 幸羽の身体組成は、こちらの人間とほぼ変わりない。精々、国籍が違う程度の差らしい。 だから、彼女個人の不具合なのだろうと蒼聖は推測していた。


 生命力は全ての生き物が持っているエネルギーだが、それを変換して「力」と呼ばれる方向性のあるエネルギーとして利用できるのは極一部であり、術者はそこに含まれる。

 また、種族による適性の差があり、体内保有量も関係するため人間の術者は少ないのだ。


「これは…… どういう事だ? 」  提供した映像を見て百城は目を眇める。 蒼聖も気になっていたが、幸羽の生命力の流れが不自然に集中している場所があるのだ。


そして、幸羽が倒れたあの時、そこから力が流出しているのを蒼聖は視ていた。そのため対処が遅れてしまったのだ。


「なぜ、いつまでもこの状態なんだ。もう何もなかろうに…… いや、そうでもないか」 独り言のような呟きに相槌をうつ。


「ええ、おそらく、ソレが原因ではないかと」


「 カリスか…… 」


「ご存知でしたか。 私は今回、初めて知りましたよ」


「まあ、一応名前だけはな。 私も龍宮の養母ルダ・マームを診るのは初めてだから知識だけだ。 しかし「カリス」にその様な働きがあるなど、何処にも記されていないぞ」


 幸羽の主治医になるに当たり百城の下には龍宮の養母ルダ・マームに関する文献が集められた。 しかし、それらのほとんどは養母の側付きの覚書のような物で、身体に関する記述は病気に罹った時の症状程度しかなかった。 寿命の短い人間の代替わりの際、失われた記録も多いらしい。


 そもそも、何百年かに一人か二人選ばれるだけで存在数が少ないのだ。

 龍宮側も役目を終えた養母を後見して生涯援助はしても、実際の世話は養母のいる国に任せていため情報は少ないそうだ。 「玉」が無事に育ちさえすれば、その後は大して関心がないのだろう。



カリスが怪しいとしても、取り出す訳ににもいかないな。 だが要するにあの娘の生命力の枯渇を防げば良いのだろう? ならば、体内保有量を増やすしかあるまい。 アレの作用を制御できればいいが、どうなるかわからんのだから」



「やはり、それしかないですか」 蒼聖はため息をついた。

 

「やっと最近外に出られるようになったばかりなんだが…… 」


 今のままなら、他人との接触で力の流失が誘発される以上、ソレを避けるためまた館に閉じこもる事になるだろう。


 人が生まれ持った生命力を増やすには所謂、修行をするしかない。 術者を目指す者は、それを何年もかけて行うのだ。


 一般人の平均的な保有量しか持たない幸羽が、術者と同程度の量まで増やすのは並大抵のことではない。

災難続きの幸羽に憐憫を覚える。 そして自分の力不足を不甲斐なく思う。


「あの娘に頑張ってもらうしかないが、鍛えるにしても師匠のアテはあるか?

 君にはそんな暇はあるまい。最初の手ほどき位なら私が請け負ってもいいが、どうする? 」


 使役している者が運んできた珈琲を飲みながら百城が尋ねる。 何かスパイスが加えてあるのか、珈琲豆だけではない甘い香りが部屋の中に漂う。


勧められて一口含めば香りに違わずほんのり甘く体を緩ませた。 百城によれば疲労回復効果があるそうだ。


「それについては、少し考えがあります」


「ほう」 大元に責任を取ってもらえるように交渉するつもりだと言えば、術医は二三度頷いた。


「あの娘の災難の元凶だからな。龍宮も無下にはしないだろう。名案だな」 


「ええ、一般人を巻き込んだんですから、それなりの便宜は図らせますよ」


 後遺症もいいとこなのだから。 当然の保障だ。


常になく心情がうかがえるような 蒼聖の言葉に、百城は目を見張ると面白そうに微笑んだ。










百城は亡くなった蒼聖の師匠の友人です。もちろん人外設定です。


ストックが切れてしまいました。来週も投稿できるといいのですが……


本日も読んで下さって有り難う御座います。 

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