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夢の中から落っこちて・・・   作者: 東山紗知子
三章
32/45

32.予兆 2

何だか主人公が寝てばかりいる話になってしまったような……

 昨夜早寝したのにもかかわらず、幸羽は寝過ごしてしまった。 朝から身体が怠いし眠い。


「何だろう。暑くて、よく眠れなかったのかな。それとも寝すぎかな? 」 重い気がする肩を回しながら食堂へ行くと、皆はもう食べ終わる所だった。


 寝坊を揶揄われながら朝食を食べて、いつもと変わりない一日が始まった。

 幸羽の主な日課は富貴恵の手伝いと、太郎の相手をする事だ。 そこに時々、半日ほどの外出が加わる。


「そろそろ、仕事先を探さなくちゃね」 就活したいのだが、まだ戸籍等の手続に手間取っている。

 龍国の大使館である「神龍寺家」の後見が付く事は決定しているのだが、幸羽の国籍を不明ということにした為、出生地を何処にするか等の駆け引きが行われているそうだ。

 この機に乗じて龍宮とのつながりが欲しい国は多いらしい。


 私の見た目は大和人なのだから、それでいいじゃない。 書類上の国籍なんてどこでもいいし、大体そんなの大ウソだって分かりきったことなのに。

 何でもいいから、早く身分証明書が欲しいと幸羽は思っていた。




 その日も暮れて

「ああー、疲れた。久しぶりに根詰めちまったぜ。腕がパンパンだ」 朗が仕事場から戻ってきた。


「お疲れ様」 汗を拭きながら居間に座った朗に、幸羽が冷えた麦茶を差し出す。


 隣では、先に戻っていた良太が、投げ出した足をさすっている。


「オレも今日はスゲー忙しかった。夏賀かがシーズンだから、こっちは足がパンパンだよ」 良太のバイト先はデパートの配送センターなのだ。 


 お中元のように、こちらでも夏季休暇に入る際に夏賀かがと呼ばれる贈り物をするらしい。 また、新年になってから贈る冬賀とうがというものもあるそうだ。


「良太君たら、昨日の今日なのに、無理しないでね」 


「大丈夫だよ。朝起きたらなんともなかったし、今も普通に怠いだけだよ」 

眉をひそめた幸羽に大袈裟だと良太が笑う。

 そして、麦茶を二杯飲み干した朗と連れ立ってお風呂に行ってしまった。


「全く、薬屋の薬を逃れたばっかりなのに、しょうがないね」 

 そんな風に言う歩に、薬屋の薬は災難か何かの様な扱いなのかと、幸羽は呆れた。

 薬屋が聞いたなら、また怒るに違いない。



 二人がお風呂から上がってくると、食事になった。いつものように絶品の料理を食べながら、幸羽は体に違和感を感じていた。妙に背中がスース―する。


 夜になって気温が下がったのかな。今夜はぐっすり眠れるかもしれない。

 そんな風に思っていると、太郎が餡みつを持ってやって来た。


「あら、いいわね、太郎ちゃん。デザートは餡みつね」 太郎がコックリ頷いた。


 食事が終わって皆が居間に移動する。


「毎日暑くてイヤになるよ。倉庫のクーラーは効きが悪いしさ」 良太が餡みつを口に運びながら、愚痴をこぼしている。

 そして男たちはいつものように酒盛りだ。今夜は冷酒がメインのようだ。


「ああ、いい風が入って来るな」 朗が目を細める。


 開け放した掃き出し窓の外は石造りのデッキになっている。日中はそこに打ち水をして涼をとるのだが、今は自然に夜風が入って来ていた。


「オレ、温泉のお陰で、やっと疲れがとれたよ。 考えてみれば、ここは贅沢だよな」


「今更何言ってんの良太」 「飯もうまいし天国だろうが」


 幸羽は、太郎とデザートを楽しんでいたが、何となく体が変な感じは続いていた。 夜風も涼しいどころか寒いくらいだ。指先が冷たくなった気がする。


 冷たい物食べて冷えたかしら? もしかして風邪の引き始め? 

 幸羽が考えていると、それは突然来た。 まるでスイッチが切れるように目の前が暗くなる。


「オイ、どうした? 」  「幸羽ちゃん! 」 声が遠くに聞こえる。


ああ、眠い。そう思ったのを最後に幸羽の意識は途絶えた。







気が付くと朝だった。 いつものように幸羽は自分の部屋にいた。


「あれ、私…… 」 記憶が跳んでいる。 確か餡みつを食べていたような覚えがあるのだが……


 暫く記憶を探ってみたが、それ以上思い出せないため、幸羽は起き出して身支度をした。 今日は体調も悪くないようだ。



「あっ、おはよう。体は平気?  いきなり倒れるんだもの心配したよ」


「そうだよ。オレ、凄くビックリしたんだ」 口々に言われて幸羽は申し訳なさに俯く。


「ご、ごめんなさい。なんか、すごく眠かったみたいで…… 」 自分でも恥ずかしい、たぶん原因らしきことを赤くなりながら説明した。


「なんだお前、ホントにただ寝てただけなのかよ。 人騒がせなヤツだな」 

呆れた声を出す朗にますます恐縮する。

 しかし、幸羽にも何があったのか解らないので弁解の仕様がない。 ただ眠かったことしか覚えていないのだ。


 歩たちが言うには、太郎とデザートを食べていた幸羽が、急に意識を失くして倒れたので大騒ぎになった。 だが、よく見れば幸羽は眠っているようだし、他に明らかな異常も見当たらなかったので、そのまま部屋に運んだのだそうだ。


「今思えば、昨日は朝から怠かったんですよね。ちょっと夏バテ気味だったのかもしれない」 心当たりはそれ位だ。そう言えば皆納得顔だ。


「俺も、つい忘れちゃうけど、幸羽ちゃんは、こっちの夏は初めてだもんな。 元の所とはやっぱり違うだろうし、体調崩してもおかしくないよね」


「そう言えばそうだな。 ずっと前から居たような気がしてたが、移って来てまだ半年もたってねぇな」


「色々、あったもんな」 うんうんと皆に頷かれて幸羽は苦笑した。


 好きでやってる訳じゃないんだけど。 あれ、もしかして私って巻き込まれ体質ってヤツなの? 

 幸羽は、傍から見れば今更な事実に気づいて、口元に両手を当てて目を見張った。 そのまましばらく固まっていたが、深いため息をついて肩を落とす。 

 

 これからは面倒事に近づかないように気を付けよう。幸羽は密かに決意した。

 しかし、自分の意志で避けられるものなら、そもそも「巻き込まれ」たりしないことには、幸羽は気が付かなかった。



 朝食を食べ終わった良太と朗が、サッサと立ち上がり、富貴江から弁当を受け取って仕事に出かけた。 普段はもっとゆっくりしている朗だが、ここ数日は朝早くから仕事場に行き一日中籠もっている。 どうやら制作が大詰めらしい。 



 残されて、独りだけモソモソ食べている幸羽の隣で歩がお茶を啜っている。

 何だかいつもと感じが違うのに気づいて、その顔をよく見ると薄っすらと隈ができていた。


「歩さんもお疲れですか? 」 


「ああ、うん。 締め切りが近いんだけど、ちょっと煮詰まっちゃってね。徹夜した割には進まなくて参っちゃうよ」

 歩は絵も文章も自作なので、大変なのだろう。


「さて、ご飯も食べたし、やらないと終わんないし、やらなきゃね」


 気乗りしない様子で歩が腰を上げるの見ていた幸羽は、急にめまいを感じた。持っていた茶碗と箸を置き、目を閉じて手で顔を覆う。


「どうかしたの?」 気づかわしげな声に何とか答える。


「ちょっと気分が悪くて…… 貧血かしら 」 テーブルに片肘をついて額を押さえる。何だか吐き気もして、まるで車酔いしたみたいだ。


「大丈夫? 休んだ方がいいわ」 食事の途中だったが、富貴恵に付き添われて幸羽は部屋に戻った。  


 ベッドに横になると気分の悪さも治まってきた。

 そして、ホッとして気が抜けた途端に湧きあがって来た睡魔に身を委ねた。





今月は何とか週一くらいに投稿できると思います。このペースで行けるといいのですが。


投稿した話の誤字などをチョコチョコ直していますが、内容は変わってません。

見直していてコレ、ハイファンタジーのジャンルでいいのだろうかと、考えたりしています。

今更ですが……


本日も読んで下さって有り難う御座います。

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