30.閑話 緑館の人々2
また、本編が進まずに閑話その2ができてしまったので、投稿してみました。
閑話1と同様に主人公からみた人物紹介と、ある日の出来事です。
緑館の住人は不思議な人が多い。様々な事情を持つ人々が種族や出自に拘わらず仲良く暮らしている。
選ばれた者だけの夢の館。只人が滞在できるのは、かなりの幸運。
《太郎》
外見三才位の男児。ほぼ黒に近いこげ茶色のおかっぱ頭でややしもぶくれの顔をしている。
物に宿る精霊に区分される家守りという存在らしい。
家と共に生まれその家を守護するが、住人が気に入らないと追い出すこともある。
そして、怒らせ過ぎると自分が家出してしまう。
家守りが出て行った家は老朽化が進み家主の運気も下がってしまうのだとか。
館の中はでは、ほぼチート。イタズラ好きで、部屋に入り込んで箪笥の中身を入れ替えたり、戸を開かなくしたりしている。
無口であまり表情も変わらないが、蒼聖や富貴恵とは会話ができているようだ。
好物はお菓子全般。 飴玉一つで館内の探し物を見つけてくれる。でも、隠すのも本人だったりする。
《シンちゃん》
龍国の王太子。幸羽の養い児。 本名は不明の為幸羽がつけた呼び名。即位もしくは降嫁や臣下に下るまで、王族の名前は公表されないのだとか。
金髪に龍宮直系の印でもある紺色に近い碧眼。 館の男たちと太郎の影響で、やや乱暴な言葉使いのわんぱく坊主。 筍並みに成長中
好きなものは甘い物と温泉。そして幸羽。生後一月足らずでプロポーズ?した、せっかちなお子様。
《良太》
佐々木 良太。ごく普通の男子学生。唯一の身内の叔父に預けられて館に住んでいる。
小遣い稼ぎのバイトを真面目に頑張っている、皆の弟分。
どんぶり飯を食べる成長期だが、まだ精神も身体も、そして味覚も、お子様寄り。
《歩》
絵本作家。 ペンネームは「のんびり歩」 茶髪の十代に見える三十路半ばの童顔男。
可愛い物、純真なものに憧れ夢の世界を創作しているが実際は、現実主義者。
辛党で酒豪なのだが、見た目で飲酒を断られてしまう気の毒なひと。
「あら、太郎ちゃんどうしたの? ああ、そっか、もうお昼寝の時間ね」 昼食後の洗い物を手伝っていた幸羽を太郎が呼びに来た。
王子が生まれてから、太郎が子守を手伝ってくれていた。 常に側に居て、何かあれば教えてくれる。なので、幸羽が離れるようになってからは、特に大助かりだった。
幸羽は居間に薄い布団を敷くと、すでに眠そうにしている王子を、太郎と一緒に寝かせた。 そして、二人がお気に入りの子守唄を小さな声で歌い始めた。
そこへ、試験期間中の良太が、参考書を抱えて部屋に入ってきた。
「はかどっているかい?」 歩と将棋のようなボードゲームをしていた蒼聖が顔を上げる。
「はぁ、なんか集中できなくって、場所変えようと思って…… 」 ため息をついて、憂鬱そうに頭を掻く。
「場所変えても同じだと思うよ。何か飲み物でも、もらってこようか? 眠そうだし」 こちらも、手詰まりで唸っていた歩が、丁度良いと、笑いながら立ち上がる。
「あっ、オレ自分で行くよ」 「いいから、待ってなよ」 遠慮する良太に、自分も飲みたいからと、手を振って部屋を出て行った。
良太は壁に寄りかかって座ると幸羽たちを眺めた。
「チビ達は昼寝かぁ」 抑揚の少ない優しいメロディ聞きながら、良太は自然に目を閉じた。
歩が戻ってきたのは、丁度、幸羽の子守唄が終わった所だった。
「あれっ」 歩の声に幸羽が振り返ると、座ったまま良太が寝ていた。
「あら、良太君」 幸羽が目を丸くした。 蒼聖が声を潜めて笑っている。
「彼も君の子守唄で眠ってしまったようだよ」 「えっ、本当ですか?」
「さっきまで起きてたのにね。お疲れかな? 」
「さあ、どうだろう。まだ母親が恋しい時期なのだろうしね」 蒼聖は幸羽が用意した座布団を枕に、そっと良太を寝かせる。
良太の両親が亡くなってから、まだ一年半しかたっていないのだ。
「じゃあ、良太君も、夜一緒に寝かしつけた方がいいかしら? 」 真顔で言うと大人二人が苦笑した。
「一応、年頃の男だからね、かえって目が冴えるんじゃないかな」
「えー、良太君がですか?」 「良太でもだよ、幸羽ちゃん」
すっかり無害な弟認定されている良太の、幸せそうな寝顔を三人で見ながらほっこりする。
「だけど、試験勉強はいいのかね?」 歩が、ふと、思い出したように言う。
「一時間して目が覚めなければ起こしてあげようか。後で恨まれても困るしね。でも、今はもう少し良い夢を見させてあげよう」
目を細める蒼聖に幸羽と歩は頷いた。
今日は、読んで下さって有難うございます。




