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夢の中から落っこちて・・・   作者: 東山紗知子
二章 龍宮の養母
21/45

21.あの夜の出来事

短いです。


「朝だよ」 「起きて!」 「起きる時間だよ」

 今日も幸羽は事告げ鳥たちの声で目覚める。個別認識はしない種で名前がないというので色から思いついた名前を付けてやったらなんだか懐かれてしまった。

 ちなみに、青が空、黄色が檸檬レモン、ピンクが秋桜コスモスだ。 見事にバラバラで自分にはネーミングのセンスはないなと、幸羽は思ったが彼らには好評だったようだ。


「龍宮の養母就任おめでとう」 「殿下誕生まであと57日。頑張って!」 

「小魚は骨を丈夫にするよ」 

もう知っているのかと幸羽は苦笑しながら朝の挨拶を返し着替えをする。


「シンちゃんもおはよう」 声をかけ、ちょぴり出てきたお腹を撫でながら不思議な気持ちになる。


(この中に王子様がいるなんて信じられない。 でも夢じゃなかったってことよね。 夢?) 何か心に引っ掛かりを感じて考え込んだ。

 

昨夜も皆にいろいろ聞かれたのだが幸羽には卵を受け取った記憶がないのだ。


(どこでもらっちゃったんだろう…… ) なんだかモヤモヤした気分で一日を過ごしてしまった。




 


 夕方近くに、今後の打ち合わせのため出かけていた蒼聖が帰ってきたので、詳しい話を聞くことになった。


幸羽は今後、龍国の貴族扱いとなり龍宮の後見と褒賞が付き、役目が終わった後も終生衣食住の保障がされること。

本来は産屋を兼ねたお屋敷が準備されるらしいが、今回は出産?するまでこの館内で過ごし、蒼聖が護衛につくこと。 食事など普通に今まで通りの生活で問題ないこと等、説明された。


「うわぁ、すごい待遇だね。なりたがる人が多いわけだ」

歩のつぶやきに幸羽は、そういえば選抜された女性がいたはずだったことを思い出した。


「蒼さん、私、選抜された方たちを差し置いて養母になっちゃったんですけど差支えないですか。 随分待遇が良いみたいだから、その、横取りしたみたいで申し訳ないような…… 」


「問題ないよ、選ぶのは王妃殿下だしね。候補者は何人もいるから、それに選ばれるだけでも名誉になるんだ。 国によっては、そのまま巫女や高位の者の伴侶になるところもあるしね。彼女達だって全員が、自分が龍宮の養母に選ばれると思っているわけじゃないよ」


蒼聖はそうは言うが、華やかな友人たちの側にいた所為で、女のジェラシーは怖いのだと学んできた幸羽はあまり安心できなかった。


「二十人近くいたんだろ」


「そんなに!」 やはりまずいのではないかとうろたえる。


「静寂な満月の夜に、選ばれし乙女たちは期待と不安に胸を高鳴らせて、月を見上げたのでしょうね」

マチルダが歌うように言いながら大げさな身振りをする。

ミュージカルじゃないんだからと、内心でツッコミを入れていた幸羽は唐突に思い出した。



「そういえば夢、私、夢を見たわ。 満月の大きな木の下で…… そう、すごく綺麗な女性がいたの。 宝物を預けるって…… 」 遠くを見つめて記憶をたどる。


「おい、それって…… 」 何か言いかけた朗を制して


「どんな人だった? 髪色は、目の色は? 服装はどんなだった?」


「長い銀の髪をしていて、水色の目をしてたような、赤い衣装を着てた、たぶん」


「おそらく妃殿下に違いないな」 幸羽の答えに蒼聖がうなずいた。


 今代の龍宮の王妃は銀髪で薄い青の目をしているらしい。 あまり高位の貴族の生まれではなかったが王に切望されて王妃になったんだとか。 

人柄もよく今では皆に慕われて、その目の色は『澄んだ湖の青』と呼ばれている。


「龍宮の男たちは代々愛妻家でね、一説には王が自分の子に嫉妬するから養母がいるんだとか」


「なんだそりゃ、心の狭いやつらだな」


「冗談だろうけど、その位仲が良いんだよ。 他所の王家と違って一夫一妻制だしね。君は確かに妃殿下にお会いして玉を受け取ったんだ。

特別な空間に呼ばれたのかもしれないな、そのあたりは龍宮の秘匿事項だろう」


蒼聖の言葉を聞きながら幸羽は首を傾げる。 あの麗人が王妃だというのは納得できるが、卵どころか何かを受け取った覚えはないのだ。


「そんなことはないだろう。玉の光は君には見えなかったかもしれないが、現に、君の体内に納まっているよ」


そう言われて幸羽は、青白く光っていた小さい珠を思い出した 。あれがそうだとして、珠は自分の方へ飛んできたからその時に受け取ったことになるのだろうか。


「受け取ったんじゃなくて、向こうが飛び込んだのかい、それはまた…… 」 蒼聖が苦笑する。


「よほどレディをお気に召したのでしょうね。きっと」


「それか、やんちゃ坊主か、だな」


「そういえば、元気がいいから大変ねって言われました、私」 そういう事だったのかと納得してうなずく。


「そっちのほうかい! こりゃ騒がしくなるね」 そう言いながらも歩が嬉しそうな顔し、皆も笑った。


「生まれたら向こうに引き取られるから、お腹の中じゃ、そう騒ぐこともないだろうけどね」


 幸羽は気になっていたことが思い出せて、すっきりした気分になった。 面倒事はそのままなのだが何とかなるかと思えてきた。

 話も終わり皆が夕食のために移動する。 幸羽は、ふと思いついて蒼聖に尋ねた。


「あの蒼さん、こちらと私のいた世界はつながってないんですよね?  私ここに来る前も木の下で女の人に会う夢を見た気がするんです。 だから卵を渡された時も同じ人だって思ったんだけど…… 

 きっと私の勘違いですよね。向こうに居た時に会える人じゃないんですものね。 でも、ちょっと気になったから」




幸羽が立ち去った後、蒼聖は暫し独り考え込んだ。











読んで下さってありがとうございます。

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