2.落ちたところは…
気がつくと、りんごも落ちる例の力によって幸羽は落下していた。
(えっ、私もしかして落ちてる? なんで?)
本能的に湧きあがった恐怖で背筋に冷たいものが走る。
「うそっー」 幸羽は思わず叫んだ。
「危ない、よけろ!」 「うぉお!なんだ?」 「ぎゃっ」
人の声が聞こえた、とほぼ同時に、ばしゃんと激しい水しぶきの音が響いた。そして幸羽は水いやお湯の中にいた。
ゲホゲホと咳き込みながら、お湯の中から幸羽が顔を上げると、そこには男が4人全裸で立っていた。
驚きのあまりフリーズする。 立ち込める湯気と独特の臭いに
(ああ、温泉。 そっか、ここ男湯なのね )
と頭の隅で納得したのだが、それを最後に幸羽の思考はブラックアウトしてしまった。
いきなり天井から降ってきて、意識を飛ばしてしまった幸羽を、傍にいたスキンヘッドのマッチョな男があわてて抱きとめた。
またお湯の中に沈むところだったのだ。
「おいおい寝たまま風呂に入ると死んじまうぜ!」 くったりとした幸羽をほかの3人も覗き込む。
「どこの子だろうね? 人間だよね」 茶髪の高校生くらいの男子が首をかしげる。
「それよりなんで上から降って来たんすかね? 蒼さん?」
同じ年くらいのやんちゃそうな顔の子が銀色の長い髪をした男に問いかける。
蒼とよばれた男は形のいい眉を少し寄せて幸羽を見た。
「人には違いはないが、それしては変わった気配がするな。 たぶん、この館の結界に引き寄せられたんだろうが… 」
一旦言葉を切って幸羽の上に手をかざし何やらつぶやく。
「どうやらこの娘は、こちらの世界の者じゃないな。 別の世界の残滓がある。
おそらく近くに異空孔が通じてそこから転移して来たのだろう。
異空孔が開いた割には磁場の乱れが少なかったようだが… 私も気づかなかった位だ。
まあ、この館の中だからね、外からの影響は小さかったのかも知れないな」
男は手をかざしたまま幸羽の体の上に滑らせる。
「それにしても、よくも五体満足で辿りついたものだ。 うん、 中身も問題ないな。 この娘は他所からの迷い人で間違いないだろう」
「迷い人? てことは、この嬢ちゃん… 」
スキンヘッドの男が気の毒そうに腕の中の幸羽を見下ろす。
「ああ、ちょっと可哀想なことになりそうだね」そう言って小さく吐息をついた。
短くなってしまったので、後でもう一話投稿します。