17.月夜の麗人
ちょっぴり話が進みます。
幸羽はまた夢を見ていた。 気づいた時には、いつもの草むらの中に居た。
異世界に来ても見る夢は同じなんだなと妙な感心をして、そういえば前回はいつもと違った夢だったのを思い出した。
(あの日は確か…… )
その日幸羽は、どこからか漂ってきた香りに誘われて、いつもは行けない広い場所に出た。
そこには大きな木が立っていた。 銀色の幹に緑ではなく青い葉が茂り枝をまるで屋根のように広げている。
その葉は風もないのに揺れていて、月の光にきらきらと輝いていた。 どうやら良い香りはそこから漂って来ていたのだ。
幸羽が木のほうに近寄っていくと、木陰に豪華な絨毯がしかれていて、女の人が椅子に座っていた。
その人が幸羽に気づき手招きをする。 近づいて幸羽は息を呑んだ。
つややかな銀色の髪はゆるく結われて腰まで流れ、ほっそりした身体に真紅の衣装をまとっている。
年は20代後半といったところだろうか。 透き通った湖のような青い瞳が細められ、やさしい笑みを浮かべている。
まるで身体から淡い光が出ているように感じられた。
幸羽が見知らぬ美女に見とれていると、むこうも幸羽を見つめて吐息をついた。
「あなた、なんて綺麗な魂をお持ちなのでしょう。あなたは…… どちらの…… 」
美女は幸羽をじっと見つめると、眉を寄せた。
「 まあ、何か手違いあったのかしら…… あなたは乙女ではないようですね」
(はい? 乙女? ああ、すみません、もう乙女と言う年じゃないですね) 幸羽は心の中でつぶやく。
その女はみぞおちに手を当て少しうつむいた。
「そう、あなたも気に入ったのですね。ですがこの方は…… 」
しばし考え込むように沈黙していたが、何かを決めたようにうなずいた。
「そうですね、ここに来られたという事はこの方にも資格があるのでしょう。
なにより この様な魂を持つ者は、他にはいないでしょう。この方にお願いしましょう。
あなたに私の宝を託すことにしました。 …… をお願いいたします」
(えっ、何のこと?私が何ですって?) わけの判らない幸羽にその女性は微笑む。
「月が満ち、定められた時に、またここでお会いいたしましょう」
その声を最後に幸羽の意識は途絶えたのだった。
「それから、なんかわけ判らないうちに男湯に突入だったのよね。 何で今まで忘れていたんだろう。
でも、いつもそうか。私、夢なんて覚えていないものね」
草むらの中でしばらく考え込んでいた幸羽は、気を取り直して移動することにした。東屋のある広場へでると、一息入れようと階段にこしかける。今夜は満月で水盤にも丸い月が映っていた。
満月に来たのは初めてかもしれないな、と思いながら幸羽が何気なく周りに目をやると、 前回は細い獣道だった場所に今夜はちゃんと人の通れる道ができていた。
「あれ、今日は道が広がってる。なんで?」
気が付けば例の良い香りも辺りにたちこめていた。
幸羽はその道を進んで行った。そして前回と同じ木のある広場にたどり着いた。
不思議な木は満月のせいか、以前よりも一層輝いていた。きらめく葉の間から光の粒が周囲に飛散していた。
そして、木の下には、あの美しい人が座っていた。
(あの人だ) そう思った途端、幸羽の身体はひとりでに歩みを進めて女性の前へと進み出た。
(何? 勝手に動いている? ) 幸羽は内心あせったが、直ぐにまた女性に見とれてしまう。
(今日も、綺麗!) 嬉しそうに微笑まれて思わず赤くなる。
「よく来てくれました。 約束通り、あなたに私の宝を預けます。どうか、慈しんでくださいませね」
そう言うと大事そうに両手を幸羽に差し出した。
広げた手の中には青白い光を放つビー玉くらいの玉があった。
(へっ、何これ? ) 幸羽が手の中の玉を怖々見つめていると、不意にその玉が浮かび上がると幸羽の方に飛んできてぶつかる寸前に消えた。
(えっ、今の何? なんか飛んできた? )
驚いている幸羽を尻目に女性は笑い声を立てる。
「まぁ、ホホホホ、なんてせっかちなんでしょう。余程あなたを気に入ったのですね。困った方。
このように元気が良いと、あなたは大変かもしれませんね。
ですが、本当に大切な方なのです。 どうか、くれぐれもよろしくお願いいたします」
女性は少し寂しそうな表情になる。
「また会える日を心待ちにしておりますよ」
そして、幸羽の意識は唐突に途切れた。
次の朝幸羽はなかなか起きることができなかった。
ほかの住人が朝食を食べ終わっても起きてこなかったので、富貴恵が起こしにきた。
まだ眠い目をこすりながら食堂に来た幸羽に歩が声をかける。
「今日はオソヨウだね」
「なんだか今朝は眠くて… 夢見が悪かったのかしら?」
食事を運んできてくれた富貴恵に礼を言って箸をつける。
「へえ、怖い夢でも見たのかい?」
「うーん、よく覚えてません。なんか見たはずなんだけど…… 」 幸羽が首をかしげる。
「はは、それなのに寝不足なのか」
「だって私夢なんて見ても、いつも朝には忘れてるんです。つまらないわ」
不満げ言う幸羽を歩と富貴恵が笑った。
本日も読んでくださった気の長い皆さまに感謝します。




