14.緑館の秘密
やっとプロローグ的なところまでたどり着きました
「それにしてもこっちには、座敷童子が実在するんですね。 あっ、私の国ではそういう存在を座敷童と呼んでるんですけど、たぶん同じですよね」 幸羽が感心したように言う。
「なんだ、もしかしておまえのいた世界にはいないのか?」
「昔話に出て来るくらいで、いないのが常識ですね。少なくとも私は会ったことがないです。
それに私が知る限り向こうの世界には人間以外はいなかったです」
「そうか。 つい、ここと同じように考えてしまうけど、違っている所もあるんだものね」 歩が考えるようにいう。
「だけどさ、オレだって、ここに来るまで単なる伝説だって思ってたよ。 まさか、この目で見るとは思わなかった」 良太も口を挟む。
「まぁな、最近はちゃんとした建て方をしねぇから数は減ってるしな。 そんでも、あっち側の国ではまだ結構お仲間はいるらしいぜ 」
「建て方が関係あるんですか?」
「そりゃそうさ、人の子だってやることやらねぇと生まれねぇだろう。 家守りは家と一緒に生まれるんだ。 建てる時にそれなりの手順がいるんだよ」
「へー、オレ初めて聞いた」 「そうなんですか」 良太と幸羽が二人で目を丸くする。
そんなやり取りを黙って聞いていた蒼聖が口を開く。
「それじゃあ、この際だから少し話をするよ、幸羽君。 実はこの館には太郎のように人ではないものが他にも大勢いる。 君の目には見えないものの方が多いから、気づかなかっただろう。
もちろん、君に危害を加えるような輩はいないよ。それは安心していい。」 蒼聖の話に幸羽は首をかしげる。
「えーと、と言う事は、こっちの世界では人間以外の方たちが、普通に人と一緒に生活しているんですか?」
「ごく限られた者達だけだよ。 三百年ほど前に人間対それ以外の種族の間で争いがあって多くの犠牲者が出たんだ。
それで終戦後は人間と、それ以外の者達は離れて暮らしている。 これは情報制限されているから一般には周知されていない話だ。
境界館は彼らの国からくる者を入国審査する施設で検疫所も兼ねている。 離れにいるのはそういう客だ。
そういう事だから、君は離れには近づかないようにね」
「 はい、でもそんな秘密を私が聞いていいんですか」
「ここに住むんだから知って置かないといけないだろう?」 神妙な顔の幸羽に蒼聖は微笑んだ。
「長く居れば、他所とはいろいろ変わったことがあんだよ。いちいち、びっくりされても困るしな。
第一、お前も異世界人なんだろう? 十分変わってるから、お仲間だよ」 朗が笑う。
「あっ、そうでしたね」 幸羽があっさり納得する。
「でも幸羽君、このことはむやみに口外しないように。 一般の人は君の世界の人と同様に彼らのことを実在しないと思っているからね。 おそらく、言っても信じる者は少ないだろうけれど。 何しろ人間は人種の壁さえ無くせない心の狭い生き物だから、彼らのことを知ったら大騒ぎになるのは目に見えているからね」
蒼聖の言葉に皆が苦笑した。
「ここは富貴恵さんが家主だから特別だ。 磁場も安定していて住み心地もいいから、お客さんとは別に、この家には太郎のようにずっと住んでいる者たちも多いんだ」
「富貴恵さんは山神様の娘なんだよ。 お姫様なのに世話好き、料理好きで誰かに料理を食べさせたくて、ここの家主をしてるんだ。
だから富貴恵さんに仕えている者も住みこんでいるし、お仲間も泊まりにくるんだ」
歩の言葉に思わず富貴恵を見ると、にっこりと微笑んでいた。
「まあ、これからはなんか気になったら、その都度聞けばいいさ」
うなずく幸羽を、他の皆が伺うように見ているのに幸羽は気づいていなかった。
幸羽がこの状況を受け入れられるか内心危惧していたのだ。
そこへタマがやって来た
「ニャーン」 幸羽の手に頭をこすりつける。
「おや、タマも紹介して欲しいらしい」
「もしかして、この子も変わった猫ちゃんなんですか?」
「タマは長く生きてね、もう少しで猫又になれるという時に、事故で命を落としたんだ。 だから、そのまま残って足りない分の修行をここでしている。生きているときの何倍か掛かるけれど、やり直すよりは早いからね」
「そうなの。残念だったわね。修行がんばってね」 幸羽が猫を撫でながら、話しかけると猫はのどを鳴らした。
「後どれぐらいかかるんですか?」
「たぶん、もうじき終わると思うよ」
「へぇ、そしたら、今度はちゃんと死ぬのかな」 良太が首をひねる。
「そうなるね。 生まれ変わって、次は初めから猫又で生まれると思うよ」 蒼聖の言葉に幸羽が目を見張る。
「猫又! すてき! タマちゃん、生まれ変わったら絶対私にも会いに来てね。 猫又の子猫!見てみたい」
嬉しそうにタマに話しかける幸羽を見て、皆が安堵の息をつく。
「わざわざ猫又に会いたいだなんて。幸羽ちゃんは変わってるね。 普通、怖がらない?」
「全くだ。 一昨日、ひっくり返ったにしては随分落ちついちまったな、おまえ」
呆れた様に苦笑され幸羽は不思議そうな顔をする。
「あら、だって来てしまったものは仕方ないし、帰える方法がないなら居るしかないでしょう?
幸い、ここに置いてもらえるみたいなので取り敢えず、まぁ、いいかと思って」
「お前、ホントにお気楽な性格だな。」
「なんか、よく言われます。 そんなことないのに…… 」
不満げに答える幸羽を、皆がまた笑った。
幸羽は、またショックで倒れるのではないかと皆が心配していたことなど、まるで気づいていなかった。
(座敷童子に、猫又! なんかファンタジーな世界だわ。 他にはどんな人?達がいるのかしら? 何でもありそうだけど驚くだけ無駄よね。 異世界なんだから! どうせなら色んな人?に会ってみたいな せっかくだしね)
などと考えていたことを知ったら、ここの住人も幸羽の友人たちと同様に深いため息をついただろう。
夜更けの男湯で話し声がしていた。
「取り敢えず、あいつは何とかここを受け入れたみたいだな」
「うーん、見た目にはね」
「なんだよ。なんかまだ問題あるか?」 朗が怪訝な顔をする。
「まだ、夢見ている気分なのかもしれないよ。 だって、あっさりしすぎているもの。 あの娘、家族のこととか、あっちの事は何も言わないだろう? まあ、こっちも聞いてないけどさ。
それにしたって、普通もう少し気にするものだろう?」 歩が難しい顔をする。
「現実感が薄いのかもしれないな。 悪いが、しばらく彼女の様子に気をつけてくれないか? 私は仕事が入ってしまったから。 落ち着くまで側にいる積もりだったんだが、そうもいかなくなった」
蒼聖がため息をつく。
「わかってるよ。なんか危なっかしい娘だからな」
「それとなく、情報収集もしておくよ」 朗と歩が頷いた。
「頼むよ。それとまだ外へは出さないでくれ。 まだ存在が安定していないからね」
三人の男が密談をしているころ、幸羽はぐっすり眠っていた。
いつの間にか足元にはタマが丸くなっていた。
ひと段落したので後はポツポツ続けたいと思います。
ここまで読んでくださってありがとうございます。




