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夢の中から落っこちて・・・   作者: 東山紗知子
一章 落ちてきた私
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13.太郎の秘密


 幸羽は誰かに呼ばれた気がして目覚める。 昨日よりは遅い時間だ。 

富貴恵にゆっくり休むように言われたので、朝食の手伝いはしないことになったのだ。

ミアに買って来てもらったジャージ素材のワンピースとスパッツに着替えて食堂へ行く。


良太がすでに食堂に座っていた。


「おはよう良太君」


「おはよっス」 少し眠そうに答える。どうやらテスト勉強に励んだようだ。


「眠そうね。その様子だとテストの点数は期待できそうね」


「ハハハッ、善処します」 


そこへ歩がやって来た。


「おはよう、お二人さん。そうしていると、まさにクラスメイトに見えるよね」


「歩さんには言われたくないと思うよ、幸羽さんも」 良太がニヤニヤしていう。


「どういう意味だい。まったく」 怒った振りをする。


「でも、私の場合はそう言われても仕方ないです。 実際、今は良太君と同い年位ですから」


「へっ、どういう事?」


「どういう理由か知りませんけど、若返っているみたいです。 今の私は高校生…… じゃなくて、中学四年の頃の私です。 身体だけですけど」 幸羽が笑いながら言う。


「へぇー、そうなんだ」 二人とも目を丸くした。


 朝食の席でその話題が出て、他の皆にも不思議そうな顔をされる。


「おかげで、眼鏡いらずになってラッキーでした」


「おまえ意外とお気楽なやつだな」 呆れたように朗が笑う。


「逆じゃなくて、よかったわね。 女は若い方がイキがいいから」 


「ミアさん、魚じゃないんだから」 良太がつっこむ。


「時間の補正が掛かったのですよ。 多分レディのおられた世界とこちらは、時間の流れが異なるのでしょう」 

今日は白いフリフリのシャツに、全面にビーズが付いたジャケットを着た宝石屋が、ねぎの入りの納豆の小鉢を持って訳知り顔でうなずく。 


(この人いつもこんな服装なのかしら。カレーうどんとか食べれるのかな?) 幸羽は疑問に思う。


「ああ、そんなこと蒼さんも言っていたな。 そういや蒼さんは、どうした?」


「呼び出されて、朝早く出かけましたよ」 部屋の隅にいた富貴恵が答える。


「相変わらず、忙しいこった」 皆が同意するようにうなずいた。



 

 後片付けが済み、幸羽は台所のいすに座って、絹サヤの筋を取りながら富貴恵とおしゃべりをしていた。


「太郎ちゃん、今朝もご飯抜きだったけど。お腹空かないのかしら」 幸羽が独り言のように小さくつぶやく。

ふと、視線を感じて振り向くと台所の入り口に太郎がタマを連れて立っていた。


「あら、太郎ちゃんいたのね。ねぇ、あなたお腹空いてない?」 太郎は首をかしげる。


「この子は甘いものが好きなのよ。ご飯を抜いてもおやつは食べているから大丈夫。 ねっ、太郎ちゃん」 富貴恵が微笑みながら棚からカステラを取り出した。


ミルクを添えてテーブルに置く。 幸羽はいすを引き、抱き上げて座らせてやった。


(あれっ、なんか軽い?) 幸羽は内心首をかしげた。


 太郎は一瞬身体をこわばらせたが、すぐに力を抜いた。そして幸羽の隣でカステラを頬張った。 タマもミルクをもらい足元で飲んでいる。

その様子をうれしそうに眺めている幸羽を、富貴恵がこちらも微笑んで見ていた。

 






 蒼聖は他の皆が夕食を食べ終える頃にやっと帰ってきた。 


「ずいぶん遅かったな。急な呼び出しだったんだって?」 


「ああ、どうやら明日からしばらく護衛に駆り出されることになったよ」 席に着いた蒼聖は朗にうなずく。


「へえ、蒼さんがわざわざ出るって事はお偉いさんだね」


「まぁね。 面倒そうな仕事だよ」 蒼聖は嫌そうにつぶやく。


「珍しいっすね。そんな風に言うなんて」


「頭の固い人たちと付き合うのは、肩が凝るんだよ」


「良太も会社勤めをするようになればわかるよ」 歩が笑う。


「それが嫌なら、俺の弟子になるか? 堅苦しさなんて微塵もねえぞ」


「謹んでお断りします。 肩は凝らなくても、筋肉痛には確実になるし」


「半年もすれば慣れるぜ」


「オレには肉体労働は無理! 」 良太にきっぱり断られて朗が頭を掻いた。 



 そこへ富貴恵がデザートに山盛りの大福を運んできた。 幸羽がお茶を入れ配っていると、太郎がやってきた。


「おっ、太郎久し振りだな」 朗にコクリとうなずくと皿から両手に大福を取る。

そしてそのまま居間へと続くガラス戸に向かって走った。

 

「きゃあ、太郎ちゃん!」 幸羽が思わず悲鳴を上げる。


ところが、幸羽が恐怖に固まっている目の前で、太郎はガラス戸をすり抜けて消えていった。


(えっ、今の何? すり抜けた?)


自分の目が信じられないように、幸羽は瞬きをする。


「驚いたか? 太郎は平気なんだよ」 固まったままの幸羽に朗が声をかける。 そして、自分に視線を向けた幸羽にニヤッと笑う。


「太郎は家守いえまもりりだからな」

 

 幸羽が言葉の意味を理解するのに四、五秒かかった。 そして胸に手を当ててほっと安堵の息をついた。


「なんだ、そうなんですか。それじゃ怪我とかしないんですね。もうびっくりしちゃったわ。 ガラスに突っ込んでいくんですもの」 笑顔になった幸羽に意外そうな顔をする。


「それだけかい?」 


「それだけって? 何が?」 今度は幸羽が怪訝そうな顔になる。


「朗は太郎が家守りだって言ったんだよ。 君、家守りって知ってる? 普通の子供じゃないんだよ」 歩が真面目な顔して言う。


「ええっと、たぶん家を守護する何かの事ですよね。 だからガラス戸擦り抜けたんですよね 」

 

それがどうかしたか、とでも言いたげな顔の幸羽に、朗が噴き出した。


「ハハハ、こいつは結構肝が据わっているじゃねえか!」


「本当だよ。オレなんか最初に聞いた時びっくりして飯、喉につまらせたもん」 良太が感心したように見る。


「えっ、ああ、そういう意味ですか。だって今更でしょう。私自身ここじゃ、別世界の人間なんでしょう?

それを思えば少しくらい変わったのが一人や二人いてもおかしくはないでしょう?

ここがオープンしたてのタワーホテルとかだったら、少しそぐわない気がしますけど。」


そんな風に言う幸羽に皆笑顔になる。


「そりゃ、そうだな。」


 居間に笑い声が響いた。



 

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