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夢の中から落っこちて・・・   作者: 東山紗知子
一章 落ちてきた私
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11.新しい生活 


 幸羽は目が覚めると、周りを見渡してため息をついた。

もしかして一晩寝たら自分の部屋で目覚めるのではないかと、ちょっと期待していたのだ。


 しかし、そこは昨日と同じ和室だった。

(ほんとに違うところに来ちゃったみたい… )


自分の置かれた状況を思い出し、つい暗くなってしまいそうになるのを、幸羽は軽く首を振って振り払った。 

落ち込んでも何もならない。やれることをやろう。 幸羽はきゅっと手を握り締めた。



富貴恵の食事の準備を手伝うため、幸羽は着替えて顔を洗いに洗面所へいった。

そして、昨日は気づかなかった鏡に映る自分に驚く。


朗に中学生  ―  こちらには高校がなく中高、合わせた六年間が中学校と呼ばれていて、そこまでが義務教育だそうだ ― に間違われ、昨夜は良太にも

「年下だと思ってた!」 といわれておかしいと思っていたのだが、そこには確かにそれ位の頃の自分が映っていたのだ。 

高校一年の冬に開けたはずのピアスホールがないので、それ以前なのは間違いない。


「はぁ、なんで?」  幸羽は首を傾げたものの、


(まぁ、いいか。別に困らないし。老けるよりマシよね )と受け入れてしまった。


 普段であればもっと騒ぐところだが、ショック続きで感覚が少し鈍くなっていた。 昨日も鏡を見る機会はあったし風呂まで入って気づかないほど混乱していたのだ。


「あっ、そうか。道理で良く見えると思った。これはラッキーだったかも」 ポンと手を叩く。


 幸羽の視力は大学受験の頃に落ちて、ずっとコンタクトレンズを使用していた。しかし今は裸眼で問題なく見えた。

悪いことばかりじゃないと、気分を少し浮上させて幸羽は階下に下りて行った。




 幸羽が富貴恵を手伝って食卓の準備をしていると、住人が次々やって来た。


「おはよう幸羽ちゃん、もうお手伝いしているの」 歩が目を丸くする。


「ずいぶん殊勝なやつだな。えらいえらい」朗の大きなごつごつした手に頭をなでられて、


(子供じゃないんだけど)と思いながら幸羽は少し赤くなる。


そして、今の自分は良太と変わらない年に見えるのだから仕方ないのかもしれないな、と思い直し苦笑したのだった。

 食器を並べている幸羽の背後に朗が目をやったのでつられて振り向くと、太郎が猫を連れて廊下を歩いていくところだった。


(あれ、ご飯は食べないのかしら?) ちょっと首をかしげた。


「なに?どうかした?」 歩に話しかけられて、幸羽はなんでもないと答えた。


(小さい子は気まぐれだモノね。)


 蒼聖が食堂に来て、働いている幸羽に少し驚いたように眉をあげる。


「お手伝いはいいけれど、無理をしてはいけないよ。君の身体には移動の際に負担がかかっているはずだからね。

それと、しばらく館内から出ないようにね。君の身体がこちらの世界に馴染むまでは外出は控えてほしい」


「でも私、なんともありませんよ。」


「この館内に居るから感じないだけだよ。ここは特別だからね。

言語補正もここの敷地内で働いているから私が良いというまで外には出ないと約束してくれたまえ」 真面目な顔で言われて幸羽は神妙にうなずいた。


「蒼さんは超有名な能力者なんだ。いつも世界中を飛び回っている位なんだから。言う事聞いておいたほうが良いよ」 良太が幸羽に話す。


「有名かどうかは知らないが、一応私は術者だよ」 蒼聖が苦笑して言う。


「良太君、それを言うなら、有能なといったほうがよろしいですよ」 縦ロールの宝石屋が慇懃に一礼してみせる。


「それはどうも」 蒼聖がますます苦笑した。


「まぁそう言う訳で、仕事で不在にする事が多いけど、できる限り相談に乗るから、何でも言ってくれたまえ。」


「はい。有り難う御座います」 幸羽は頭を下げつつ不思議に思う。


(術者って何だろう。 超能力者? もしかして魔術師? まさかね。でも異世界だっていうし )



 すると、ミアが思いついたように言い出す。


「外に出られないんじゃ、あなたも不便よね。 そうだ幸羽、私今日仕事の帰りにあなたの着る物見繕って来るわね。

好みもあるだろうから、一二枚にして置くから、後はカタログで注文してくれる?」


そう言うと部屋の隅に詰まれた通販カタログを指差す。


(こっちにも通販あるんだ…… ) 幸羽は少し驚いてしまう。


「はい、有り難う御座います。あっ、でも私お財布も持たずに来ちゃったのでお金が…… 」 口籠もると、


「私が立て替えておくから心配しなくていいわ。 払えるようになったら返してもらうから、気にしないで」 いつの間にか入り口のそばに座っていた富貴恵が微笑んだ。

 幸羽は申し訳なさそうに頭を下げる。


「そういえば幸羽ちゃん、パジャマで降って来たんだよね」 歩が思い出したように言う。


「その節は皆さんの入浴のお邪魔をして、申し訳ありませんでした」


「あの時は、一目見て気絶されて、俺は身体に自信なくしたぜ」 からかうように言われ幸羽が赤くなる。


「朗、セクハラはやめたまえ」 蒼聖がたしなめる。皆が笑った。


「他に必要なものがあったら、書き出して頂だい。 あっ、そうだ、下着も急ぐわね。 適当に買ってきていい?」 


ミアの言葉にうなずこうとして幸羽は昨夜のミアの下着を思い出した。 ちょっと目のやり場に困るような代物だったのだ。 

ナイスボディのミアなら許されるが、自分がつけるなんて、とんでもなかった。 

幸羽はあわてて言い直す。


「あの、普通のでいいです。色も地味なのにしてください」


「えーっ、赤とか黒とかだめ? パープルは? じゃあ柄ものなら良いでしょう?」


「豹柄もラメ入りも、総レースもいやです」 幸羽の顔が引きつる。


「色が地味なら、デザインが凝った物はいいのかしら?」 ミアが首をかしげる。


「Tバックもシースルーもやめてください。ミアさんのようにスタイル良くないですから!」 


幸羽がやや涙目で懇願していると、周りの男たちがニヤニヤしている。


「朝っぱらから色っぽい話だな」


「もうミア嬢の好みをつかんでおられるとは、レディはなかなかできるお方のようですね」


「だけど、良太君には耳の毒のようだよ」 蒼聖が苦笑し、幸羽が良太を見ると顔が赤い。


「勘弁してくれ」 小さな声で言われて、幸羽も赤くなる。


「ごめんなさい。私もセクハラだったわね」 謝った。


「微妙なお年頃だもんね」 薬屋がボソッとつぶやいた。




 



 

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