3話
皆さんはもし転生すると何がしたいんですか?
伝説の剣を得て魔王を倒すとか!色んな美少女とハーレムを作るとか!仲間達と色んな冒険をするとか!
良いですね。あはははは、
・・・―――
・・・―――――――――
俺達は今冒険者会館にいる。
本来なら過ごす家を探さなきゃ駄目なんだが、急に順番が変わった。
つまり…、金がない。
幸いにも冒険者会館にはある制度が存在した。その制度は住む所がない冒険者達に冒険者会館が運営する寮を提供し、その冒険者がクエストを達成するとその報酬の一部を冒険者会館に渡す形式だ。
うん、当分はクエストを受けながら生活するしかないな。
「いらっしゃいませ。何の用でしょうか?」
爽やかな笑顔だ。営業用ってことくらい分かっているが…、妙にワクワクする。
「冒険者の登録をしにきました」
「そうですか。登録はお二人様ですよね?」
うん?あ、ルリか。
俺はこの子にルリという名前をつけてくれた。本人も気に入ったし、名前を呼ぶときに嬉しい表情するのが本当に可愛い。そして名前がないとこれからの生活にも不便がある。
そして一緒に冒険者会館で暮らすためにはルリも冒険者登録をする必要があるのだ。でも、この子は俺よりり幼いし…、
「すみません、この子も登録できますか?」
「はい、出来ます。冒険者達の中ではまだ幼いとはいえ、腕が良い上級冒険者達も多くいますから。むしろ大人よりも抜群ですよ~」
うむ、そうか。一応、どんな部分で抜群なのかは気になるが今は無視するとしよう。
でもこの子くらいの子供達が上級か…。冒険者の仕事は普段アリサから聞いたことが全部で、実際に何をするのかは全然知らなかった。でも、小さい子供達も冒険者をするのか?
確かに会館の中を見るとまだ幼い子供達が見えた。あんな子供達がモンスターと戦う。想像がつかない。よし、これからルリちゃんは俺が守る。
「では、こちらへ。冒険者登録のご案内をしますので」
「はい、行こうルリ」
「…うん」
就業人さんに案内されてある部屋に入った。入るときはRPGゲームでよく見られる場所を考えたが、そうでもない。色んな人がいて、その人たちを就業人たちが相手をする。こう見るとなんか区役所みたいだな。
俺達を案内してくれた就業人さんが窓口内の席についた。
「あ、そういえば自己紹介がまだでした。私の名前はハンディ・ルイスペルです。今後ともよろしくお願いします」
へえ、ハンディさんか…、優しい雰囲気とよく似合う名前だ。
金色の短髪も綺麗し。ああ、あのキラキラする目。もしこの場にアリサがあったら良い勝負になったかも。体も良いし、胸も…、胸も…、そして胸も…、いいな!
「あ、あの…、顔が赤いですけど…」
「はあ、はあ、はあ、い、いえ!大丈夫です!いや!大丈夫じゃないです!」
ああ、冒険者になってよかった。
「あは、は…、登録するにはお名前が必要なんですが、お名前を聞いてもよろしいでしょうか?あ、必要なのは冒険者としての名前ですので本命は書かなくても大丈夫です。」
あ、そうなんだ。ならエリシアでいいや。名前作るのも面度だし。
「はい、エリシアです」
「え?」
うん?なんか、ハンディさんの顔が変だけど…、
あ、そうか。一応俺は貴族のなかでも上級貴族であるルアス・ハウンズ・ヘブンハイムの娘、エリシアだ。同じ名前を聞いて驚いたのか。
「えっと、名前が結構…」
「変ですか?」
「い、いえ、なんか、女の子の感じがする名前だったので…」
「はい?」
この世界で俺は女だ。逆に言うと男みたいな名前を使うとそれはそれで問題がある。可愛い美少女の名前がマイクとかスミスだなんて、考えたくもない。
あれ?女の子の感じがする名前だと?それって…、
「そうですね!男が使うにはちょっと変ですよね!おかしいですよね!?」
「あ、あっ、ええっ!?すみません!決してエリシアさんを変な人だと考えたではなく…!」
「あの!俺ってどうですか!?そうだ!外観的じゃなく、性別的で!」
「え…、ええっ!」
そう!体は女でも、心は血気溢れる男!
ある意味強制的に去勢され、日々無念の日常をすごした俺だ!子供の頃からアリサと一緒に風呂に入っても、メイド達の着替える姿を見ても、自分の体に変な事をしても!無くなった下半身さまは反応がない。
だが!男しての心はいつも螺旋銀河を突破している!
「さあ!さあ!早く!ハンディさん!」
「お、お、」
「おおおおお!!おおおおお!!?おおお―――!?」
「可愛い…、男、です…」
「やったあああああああああああああ!!!」
あ、ああ!、ああああっ!!!
今は亡くなった下半身さまもあの世で感激しているはず!
「こ、怖い…」
俺の隣でルリが怖がる表情をした。うん。そだな、今の俺は濃度が高い変態だから。でも、安心しろ。俺はロリコンではない。
「で、でででで、ハンディさん!俺のどの部分が男らしいですか!?ねえ!ねえ!?」
顔が真っ赤になったハンディさんに質問攻めをした。
ハンディさんの真っ赤な顔を見るとあの時アリサの恥ずかしい顔が思い出したのでもっと興奮する。よし!今日のご飯は赤飯だ!
ハンディさんは両手で顔を隠しながら、
「胸が…、ぜんぜん…、ないですから――――――――」
あ。
「…―――――――・・・―――」
全世界中の女性の方々へ。
すみません。
今、貴女達の気持ち…、ようやく分かりました。こんな気持ちだったんですね…。
俺は自分の両胸を触った。そしてモミモミすると。
うん。真っ直ぐな平原がそこにあった。
あら、なんで涙が…、止まらない…、何故…。え?あ、そうだ。俺って、胸…も、死んだよね。
「エ、エリシ、ア、泣くと…、悲しい…」
「くっ、くふっ!ル、ル、ルリちゃぁん――!!」
泣いている俺を見てルリも泣き始めた。
俺とルリは互いを抱きしめながら嗚咽した。そのせいか周囲の冒険者や就業人達、会館にいるすべての人が俺達が泣いている姿を見始めた。
「ル、ルリは成長したら俺よりもっと大きくなってくれ!!」
「うん!ルリは大きくなる。凄く大きな子になる!ふっ、ふぐっ!、だから、泣かないで…」
ああ、お兄さんはルリちゃんの将来を信じている。
今はこんな小さくて可愛いけど、きっとばいんばいんなお姉さん系になるのを信じているからな!
やがて、周囲から騒ぎ音が聞こえた。
「あれ見て、就業人が兄妹を泣かしている」
「本当―、可哀そう!」
「くふっ!妹を考える兄の気持ち!俺の目にたしかに刻んだ!今日稼いだ金は全部お前達にあげる!」
「ふっ、亡くなった私の娘とそっくり、これも食べて」
「世の中はまだ綺麗だったのじゃ!」
なんだか知らないが急に周りの人たちに同情を受けていた。
そしてハンディさんは…
「君、ちょっといいか?」
「えええええええっ!?」
何故か警備員達に捕まってしまった
そしてハンディさんが帰ったのは2時間後だった。
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《とあるお屋敷》
屋敷のある部屋に三人がそろっている。
メイドに見える女性がテーブルの上にあるコップにお茶を入れる。その姿に一切の揺るぎは無かった。長年この屋敷でメイドの仕事をした彼女は今は冒険者になったある少女の専属メイドでもある。
仕えた少女が拉致された時、彼女は単騎で敵の陣営に攻め込み、敵を容赦なく倒した。いや、屠殺した。自分が仕える少女を汚い手で拉致した。その罪は死で払うべし。命乞いをする相手もあったが全部抹消した。拉致された少女本人は今もその事件を単なる誘拐だと思っている。けど、単なる誘拐じゃなかった。
相手は上級貴族。国内でも名高い貴族だった。騎士達全員が上級クラスの実力で、配下には上級冒険者達もいた。
たが、
全員が屠殺された。騎士達も、冒険者達も、その貴族さえも。
翌日、あの屋敷はなくなった。
メイドとして彼女の実力は一品だ。
少女のために料理を学び、作った料理で少女に褒められる。彼女にとって一番の幸せだ。
その少女は冒険者になって屋敷にはもうないが、心だけは何時も少女の側にいる。そして少女がいない間に少女の家族を守る。これも全部少女のためだ。
彼女は自分が作った料理を食べる二人の夫婦を見た。
男の方は背が高いし、髭も短く整理されている。口だけ黙っているとまさに貴族の標本だ。今は現役ではないが、体はどの冒険者よりも鍛練されている。上級貴族だが、本人はそんなの気にしない。なによりも家族大事だ。たぶん、この男は自分の家族のためなら国家を相手にする反乱も憚らないだろう。実際に娘の縁談を全部無視した。ついに王宮からも縁談がきたが、自分の娘を冒険者にさせてまで王宮からの縁談を逸らした。なんて恐ろしい男だ。
でも、もし王宮が無理やりに縁談を進み、この男がそれに反旗をしたら自分は迷わずにこの男をたすける。なぜならこの人たちは自分の家族だからだ。
「うん。美味しいよ、アリサ」
「はい、今日はいつもと違って蜜を入れてみました」
「へえ、だからこんな甘い香りがするんだ…」
女性は肉をナイフで斬った。
食べる姿さえ美い。肉を口にするとき見える幸せな笑顔はそれを見る人まで幸福にする。
今はこうやって食事中の美人だが、一度本気を出すととんでもない事を起こす。たぶん本気を出す彼女を止めるにはこっちも本気を出すしかない。でも、そんなことはあんまりない。
「今朝、お嬢様からの手紙が届きました」
「あら、エリシアから?」
「おおっ、我が娘の手紙!早く読みたい!」
メイドは手紙を読み始めた。
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お母様、元気ですか? 様も元気ですよね?
アリサも元気?
私は元気です。
今は冒険者会館で可愛い妹と一緒に住んでいます。
あ、そうだ。
最近、初心者の狩場に行ってスライムを退治しました。初めてのモンスター退治は本当にドキドキします。これも全部お母様とアリサから教えてもらったお陰です。
今でもお母様とアリサに会いたい気持ちは満々ですが、私の成長を期待するお母様とアリサのため、もうすこし耐えて見せます。
お母様、アリサ、そして 様。
次に会う日を心から待っています。
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ああ、手紙にお嬢様の香りと体温が…、
一瞬、手紙を舐めたい衝動に駆られたが軽く抑える。
お嬢様のメイドたるモノ、いつも平常心を維持しなきゃ駄目だ。
「おい、アリサよ。その手紙、なんかおかしくないのか?」
「あら、あなた。どうかしたんですか?」
「いや、何故、どうして!俺の名前がないんだ!お父様とか、父様とか、パパとか!パパ様とか!何で俺は見えない空白なんだよ!しかも内容には一切ない!ああ、娘よ!何があった!パパは、パパは悲しいぞ!」
絶望して床に平伏するルアス。
彼は家族一筋の馬鹿だ。そして自分の妻と娘に手を出そうとした奴はすべて容赦なく叩き潰す、ある意味鬼だ。
アリサは手紙をもう一度見た。そして…
「だんな様。お嬢様からだんな様へのお言葉が…」
「おおっ!そうだな!エリシアがこの俺を忘れるわけがない!さあ!大きな声で呼んでみろ!」
いや、これは……、どうしよう。
「だんな様。これはだんな様が一人で見るほうがお心に良いかと…」
「ふっ、もしや、俺への愛情が凄いだから読めないのか!大丈夫だ!俺が許す!」
「…はい。どうか、お気を引き締めて…」
「うむ!」
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追伸: お父様には3ヶ月間送りません。
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「ウオオオオオオオオオオオォォォォォォッ――――――――!!」
「あ、あなた!お、落ち着いて――――――」
やはり、こうなった。
今は貴族生活のせいで現役だった頃の実力はもうない。けど、違和感だけは変わらなかった。
「陰謀だ!エリシアは今、悪い奴らに捕まれてこんな内容の手紙を無理やりに書くことを強要されているのに間違いない!」
「あなた!考えがし過ぎよ!」
「王宮か!おのれ王族め―!!我が愛しいエリシアにこ、このような手紙を書くようにするとは!戦争だ!直ちに王宮との戦争を始め!」
「あっ、ま、待って! ア、アリサもこの人を止めて!」
「はっ。分かりました」
アリサは早速ルアスの目の前に一つの紙を見せた。
手紙の後ろ面だった。
「あ」
ルアスがいつも通りに戻った。
「あはは、そうか、そうなのか!エリシアよ!パパは嬉しいぞ!はははは」
一人で喜ぶルアス。
一瞬でも遅かったらこの部屋自体が消滅するところだった。
実際に部屋の壁がなくなり、物はほとんど壊れた。でもこんな騒ぎを起こした本人は手紙を見て幸せそうに笑っている。
その手紙の一番したには、
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あ、でも大好きです。お父様
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その文章だけがあった。
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【質問】
冒険者になりました!一番最初に何をすれば良いですか?
【回答】
親への感謝の手紙を書きなさい。