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1話


 「きゃあ!お嬢様!今日も可愛いです!」

 「ああ、あの綺麗なお肌!一度でも良いから触ってみたい!」

 「私はあのフワフワな髪がうらやましい」

 

 …―――――。


 はあ、今日も疲れた。

 メイドたちの騒ぎを後ろにして部屋に入った。

 今住んでいるところは大きな邸宅でその分それを管理する雇用員達も多い。

 大きな邸宅。いつでも食られるご馳走。不便を感じない生活。これらすべてが昔から望んだモノたち。それが日常になった。


が、


 一つだけ除いて。


 「本当に、綺麗だね」


 テーブルの椅子に座って隣の鏡を見る。

 綺麗な少女と視線が合った。


 「私だよね…、あれ」

 

 俺、いや、私だ。

 今でも信じがたい事実。だが今まで経験した事全てがそれを現実だと証明する。

 生まれたばかりの赤ちゃんを触る感じがする肌。長くて黒い色の髪。そして一度見ると恋に落ちそうな目。キスを招く薄いピンク色の唇。それが私だ。うむ、自分の顔だが綺麗な顔だ。

 そして体形は高級人形を思い出す。母よりは小さいがそこそこ大きな胸。そして後ろの姿を魅力的にするお尻。体のすべてが以前とは全然違う。


 そりゃそうだ。


 「女だからな…」


 確かに以前の人生とはぜんぜん違う人生が欲しい。とは言ったが、性別が女になるとは思わなかった。生まれながら以前の記憶を持って生活をした。

 この世界の言語は元の世界とは違う。でも、全然不便はない。むしろこの世界で使う言語が母国語になった。

 時間が経つにつれ、女として生活することに慣れてきた。一応、考える主観を【俺】から【私】に変えた。実際、この体は女だ。現実を受ける必要がある。

 体の性別もそうだが、生活も変わった。

 今の私は貴族の令嬢らしい。調べたところには結構名高い貴族だ。だから私はそれに相応しい礼儀や作法を身に学んだ。食事の方法。お話をする方法。歩き方。手振りや足振りまで全てを学び、勉強した。その結果として私は、


 この世界で言う令嬢中の令嬢になってしまった。


 生活には満足だ。文句などない。

 貴族としての礼儀と作法など豊かな生活に比べるとなんでもない。

 だが、一つ満足できない事がある。


 「……」


 性欲の発散が出来ない。


 いや、せっかくの転生だろう!さらに貴族の子なのに……、

 女だ。つまり『あれ』がない。凛々しい象の鼻がないのだ。


 こちらの世界から生まれ、15歳になった。

 その時間の間、色んな事があった。そして色んな事をした。とくに、


 自慰とか、自慰とか、自慰とか、自慰とか、自慰とか、

 あと自慰とか……、


 そう見るな…、男が女の体になったんだ。我慢できない事くらい皆も…、まあ、ここまでとして。


 そして一つ分かった事がある。

 昔の感覚がない。何回しても懐かしい感覚を取り戻す事は出来なかった。


 「お嬢様。ご主人様のお呼びです」

 「うん。ありがとう」


 ドアの向こうの声に返事する。

 私には専属のメイドがいる。私より年上で何も出来るメイドだ。料理や洗濯の家事全般を超えて武術やそれに関する全てを行う物凄いなメイドだ。

 メイドから伝言を聞いて部屋から出た。

 ウエーブが入ったボブカット。フリルのメイド服。目を閉じて頭を半分下げているその姿にはメイドしての儀品が感じる。

 いつ見てもバランス良い体だ。たぶん私が男で転生したら確実に夜這いした。

 

 「アリサはいつも美しいね」

 「いえ…、この世界で一番美しいのはお嬢様です。私はお嬢様のメイドに過ぎません」

 「ううん、アリサは私の大切な存在よ。ただのメイドではなく」

 「は、はい…」


 彼女の名前はアリサ。

 私が幼い頃にメイドして採用された。そしていつも私の側で私を守ってくれる頼りになるメイド。

 私が危機に落ちるといつも赤い髪を風になびかせながら助けにくれた。

 もっと気楽に居て欲しいと言ってもアリサはメイドの役割だと言いながらいつもメイドモード中だ。


 「あっ、アリサ少し頭を下げてみて」

 「はい」


 私はアリサの前髪を少し横にして、


 「うん。やはりアリサにはこれが似合う」

 「――――――――――!!」


 アリサの頭を撫でる。

 いや~、本当に心地良いな。


 うむうむ。アリサは妙に私がプレーしたゲームのキャラと似ているからな。ああ、顔赤いアリサって本当に良いな。今でも全力で抱きしめたい!!おいでおいで~ が、私は貴族のお嬢様。そんな行動は出来ない。


 「うん?どうかしたの?顔真っ赤だよ。アリサ」

 「い、いえ、何でも…あり、ま、せん―――――――」


 きゃぁぁぁぁぁああああ! 可愛い!可愛い!可愛い!はあはあはあっ!

 アリサちゃん可愛いよ!もう!その顔をメチャメチャにしたい!あ、なんだか泣きそうな顔も見たい。ヤバイ!これ超ぉぉぉヤバイ!


 「お、お嬢様!お嬢様の顔から物凄い熱が!大丈夫ですか!?何か食事に問題でも…」


 あはは…、アリサのせいです。

 デヘッ。


 「う、ううん、大丈夫よアリサ。行きましょう。お父様がまってるから」

 「はい」


 ドラマでしか出ない大きなお屋敷。廊下には高そうな美術品がある。そして多いのメイドたちが私に頭を下げる。そして私は彼女達に


 「ありがとう。皆は元気?」


 自然な作り笑顔を送る。

 そうするとメイド達の顔は幸せそうな表情になる。本当に効果的だ。

 俺が住む部屋の周辺は女しかない。

 念のために言っとくが私がユリなわけでもない。単なるこのお屋敷の主人であるお父さんがそうしただけだ。この世界のお父さんは本当に娘馬鹿なので、他の見知らない男が私に手を出す事を許さない。実際に私が幼い時、街で不良人が手を出そうとした。そして翌日からその人たちの姿が見えなくなった。

 一体何をやっちまったんだろう…。


 トッ、トッ、トッ。


 目の前のドアを軽く叩くと中から声が聞こえた。


 「入れ」


 貴族雰囲気が感じる声。

 私はこの声を分かっている。

 そしてドアを開けて部屋に入る。


 「エリシア!我がお宝!我が愛しい娘!元気だったか!?」

 「はい、お父様。おかげでいつも元気です」

 

 部屋のドアが閉じると貴族的な声は消え、娘馬鹿に戻る。


 「娘よ、そんな固くしなくても良い。いつも通りパパだとよんでもいい、いや、呼べ!」

 「……」


 この人は相当な娘馬鹿だ。家族のために頑張る姿は格好良いと思うが…、時々うざい。

 まあ、こんなに綺麗な娘がいると私もあの人みたいになったはずだ。元男として理解できる。

 しかし今の私は貴族の令愛。学んだ礼儀を守るべきの貴族の令愛だ。


 「お父様ったら、本当に面白いですね。でも私はもう15歳ですから、昔のようにはなりませんよ」


 うむ。完璧だ。

 どう見ても男らしいさが感じない。

 ある意味悲しいけどな。


 「くふっ!昔はパパだと言ってくれたのに。パパと結婚する!と言ってくれたのに。ああ、パパは!パパは悲しいぞ!我が娘よ!」

 「あははは…、記憶にないですけど―――」


 本当うざいだな私のお父様は。


 「うむ。まあ、冗談はここまでとして、娘よ」

 「はい?」


 急にお父様の顔が変わった。

 あれは真面目な話をするときの顔。

 何時も家族思い一筋であるあの男は貴族という風習に関わらない。実際に貴族としての礼儀や作法は私が欲しくて学んだだけだ。

 だからって家族に愛情がないわけでもない。私がこの世界で5歳だった頃に拉致された時がある。その時あの男は持ってる兵士全てを動員して拉致犯とそれに関するすべての者を壊滅させた。

 そう、貴族としての地位より家族優先な男だ。

 だがその男でも無視できない事がある。


 「実はエリシア、お前に縁談がきた」

 「え?」

 「相手は王国の第2王子、ライム王子だ。貴族らの縁談申請なら無視するが、今度の相手は王族。何の理由もなく断るのは無理だ」

 「それって…、縁談に参加するしか…」

 「ああ」


 今までの縁談は全部お父様が無視した。

 理由はただ一つ、娘をあげたくない!

 だが、今度の相手は王族。下手に断ると危ない。今回だけは無理だ。

 なにより…、

 なにより…!私が嫌だ!

 男と縁談!?冗談するな!なんで男と縁談なんかを!もし縁談が上手くなってそのまま勢いで結婚までしちゃうと終わりだ。そうなるもんか!

 

 「お父様。その縁談の話ですが―――――」

 「うむ!娘よ、何も言わなくても良い。お家を考え、したくもない縁談をするなんて、パパは感激した」

 「はい?」


 なに一人で感激するんだ。この馬鹿は?

 おい!娘の話は最後まで聞けよ!


 「王族とはいえ、好きでもない相手と結婚なんて…、辛いだろうな」

 「お、お父様!?」


 いえいえいえいえ!これは縁談の話!

 結婚はまだだから!まだだから!

 俺、いや、私はこの世界でもまだ童貞だから!いや、処女だから!おい!!馬鹿親父!馬鹿だがいつも凛々しいお父さんの姿はどこに行っちまった!


 「お父様。私はその縁談…」

 「安心せい娘よ!お前は俺のお宝!リナと同じ俺のすべてだ!なのにどこの馬の骨だかわからない奴にその宝物をくれるものか!」

 

 いや、相手は王国の王子さまですけど…、


 「よって、俺は一つ結論を出した!本当に辛かった。涙も出た。だがこれらすべては我が娘のため!」

 「はい?」

 「エリシアよ!たったいま家から出て行け!」

 


 ・・・?


 「冒険者になるのだ!あんな馬の骨みたいな奴にくれるものならこちらの方が百倍ましだ!」

 「お、お父様、な、なんの話を…」

 「くふっ!娘よ!これは獣から娘を守るためだ。今からお前はエリシア・ハウンズ・ヘブンハイムではなく、ただの冒険者エリシアとして生きるんだ」



 え?

 ええ?

 ええええええええええええええええええええええっ!?

 


 「アリサよ!早速準備を整え!」

 「はっ!」

 「あの…、お父様?アリサ?」

 

 いきなりアリサが私の服を脱がせた。

 なんか、途中でアリサの顔がすごく興奮したように見えたが、今はそんなの気にする場合じゃない。

 貴族服を抜かされた私はゲームで良く見た初心者の冒険者たちがよく着る服を着た。まるで私は初心者ですへへっ。と、証明するような格好になったのだ。


 「アリサよ!見事な働きぶりだ!」

 「はっ!」


 おい。

 あんたら…、家族を家から追い出せる事をなに楽しんでいるんだ?

 正直言え、楽しんでいるんだな?泣くそうな表情をして実は楽しんでいるんだな!?


 「だが、アリサ!お前は大きなミスをした!」

 「と、仰ると?」


 当惑するありさ。


 「見るが良い!あれを!」

 「くっ!!」


 え?なに?もしもし?

 お父様は私の胸を示した。

 

 「あの愛しい胸を!いくら初心者の装備を着たとはいえ、あの美しさを隠さなきゃ水の泡ではないか!」

 「くううううううっ!!申し訳ありません!!私の実力でお嬢様の美しさをすべて隠す事は無理でした!!」


 ひざまずいて本気で泣いているアリサ。

 駄目だ。

 こいつら、早く何とかしないと…。


 「だが安心するが良い!このネックレスを見よ!これを着けると―――――」

 「え、お父様?急に何を―――― うん?」


 ネックレスを着ける瞬間。

 私の胸が…

 縮まった。


 「これでどう見ても貧乳だ!どう見てもただの髪が長いだけの美少年冒険者だ!」

 「くふっ!だんな様のご慧眼!感服いたしました!」

 「うむ!我が娘、エリシア!これで準備は整った!今から広がる世界で色んな人と出会い、成長もするはず!」


 おい、いきなりポ●モンのオー●ド博士みたいな事言うな。

 っていうか、私の胸は!?貧乳だと!?私のそこそこ豊かな乳が!貧乳だと!?

 男としての【あれ】もなくなったのに女としての【あれ】もない!?

 おい!自分の娘に何て事するんだ!


 「あなた!アリサ!一体どんな事するのよ!」

 

 現実から絶望する時、もう一つの声が聞こえた。

 その声は。


 「リ、リナ!」

 「お、奥様!」


 完全密室犯罪現場を作ろうとした二人をある美しい女性が襲ってきた。

 リナ。

 この世界では私の母だ。

 本当に豊かな乳と子を持った女性とは見えない体。顔は私が幼かった頃と大分変わらない。そして母はこの屋敷の中で唯一な常識人


 「家を出るのにこんな装備だけなんて!ほら、エリシア、少ないけど金貨を入れた皮袋よ。ふっ…、エリシア、母は、母は、エリシアみたいな娘を産んで幸せだった」


 ではなかった。

 お母様。娘は悲しいです。

 こうやって私は、


 男しての【あれ】も女としての【あれ】も失い、

 急に冒険者になりました。



====================================



 【質問】

 最近、息子が冒険者になるって家出をしようとしています。息子を止める方法を教えてください。

  

 【回答】

 すみません。親から追い出されました。

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