プロローグ
【質問】
人間は簡単に変わる事ができますか?
【回答】
出来ます。
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前が見えないほどにゴミがたまってる部屋。
部屋の隅っこで男は今日もゲームをする。
何日間経ったんだろう。もう数えるのも面倒だ。今も目の前にある画面だけ集中し、ボタンを押す。まるでゲーム廃人だ。
今日も特に何の事もない。いつもと同じ日常で、いつもと同じ今日だ。そしていつもと同じままの俺がいる。
外の時間は止まらずに続く。俺が何日、何月、何年を引き篭っても時間は止まらない。それが現実で正論だ。
「あ、死んだ」
画面のゲームキャラが死んだ。
でも、何の感想はない。そりゃそうだろうな、どうせゲームだ。現実ではだれも死んでない。
ゲームのキャラが死ねばまたロードすれば良い。
そしてそのゲームキャラが飽きたら新しいキャラを作れば良い。
本当に便利だ。ゲームは。だが、
現実世界は出来ない。
一度死んだら終わりだ。
そういうシステムだ。現実と言うモノは。
昨日までだったお菓子を食べた。
一日くらい食べても問題ない。
「ああ、暖かいご飯が食べたいな」
いつもラーメンや菓子、インスタント食品ばかり食った。
まともなご馳走を食べた事が確か…―――、うむ。忘れた。
もう何日間シャワーは勿論、顔もちゃんと洗ってない。体中から不愉快な匂いが出た。いくら引き篭り生活とはいえ、酷い匂いだ。このままでは何日後は多分燃えない人間ゴミになる。
はあ、
「シャワーするか」
ゴミを踏みながら部屋を歩いた。踏み所どころか、床も見えない部屋を出て浴室に向かう。
正直に浴室に行く事すら面倒だった。自分の部屋は2階だったので浴室に行く為には階段を下りる必要がある。そう思って階段を下りる瞬間、
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何だか騒がしい。
「―――――――――」
はあ?
「――――――――――」
聞こえない。
「―――――――――――!!」
うるさい。
「―――――・・・―――――――――――・・・―――!!」
ああもう!!
「うるさいんだよ馬鹿が―――――!!」
「はい!おめでとう!君を歓迎するよう!」
「は?」
周囲を見るとそこは家ではなかった。
なんていうか周囲のすべてが全部白だ。そして先から俺を意気揚々見てる人物が一人。
「さあ、名前、新木ハルト君。君はくたばりました!そしてここは死後の世界!」
「は?」
くたばれ?いや、待て。それはつまり死んだ?先からこいつは何を言ってるんだ。っていうか何で笑っているんだよ。
「うむ、君は死んだ。これが結論で、その結論は変わらない。これで納得できたかな?」
結論?俺の死が?納得?俺の死を?ふ、ふざけんじゃない。
先までゲームをしてたのに急に【あなたは死にました】なんて納得できるか!俺はまだやりたい事があるんだ。新作アニメや、しなかったゲームもいっぱいあるんだ!何よりも!何よりも!
「うむうむ。16歳の高校生。うわあ、なのに登校拒否して引き篭り?ある意味凄いね。えっと・・・―――― あ、童貞か…」
ぷっ。
そうだ。童貞だ。童貞なんだよ。
女と手を掴んだのも小学校3年までだし、バレンタインだって貰ったのは義理チョコだけなんだ!それが悪い?俺が女とイチャイチャすると世界が滅亡でもするのか?そんなに罪深いことか?俺だって俺だって!
「俺だって女とイチャイチャしたいんだよ!ちくしょぉぉぉぉぉ―――!!」
「いや…、そんなに泣かなくても…、ごめん。何だか知らないけど誤るから泣くな」
いきなり泣く始めた俺を可哀そうな目で見た。
そんな目で見られると余計に落ち込むけど…。
「で?お前は?」
「あ、そうね。自己紹介がまだだったね。僕はユマ!そうね、一応、神です!」
「はい?」
このガキは今なんて言ってるんだ?神だと?
無論俺が今いるここは現実とは離れている場所だって事くらいは分かる。でも目の前にいる小学生くらいにしか見えない子供が神だ何ておかしいだろ。
ニコニコ笑っているあの顔と神の単語はどう考えても合わない。
「あ、信じないんだ?でも大丈夫。僕が神で、君は死んで僕が管理する所に来た。これは現実よ。新木ハルト君」
そうだ。記憶はあいまいだが俺が最後に見たのは血まみれになった床。そして目を覚ますとここの白い空間だ。そしてこいつ、自称神様がいる。それは変わらない事実だ。
だったらここが死後の世界ってことも納得できる。
「で?」
「うん?」
「俺はこの後どうなる?」
「へえ、いきなり本論を言い出すんだ。君みたいな人は始めてだよ~、良いね?」
自称神、ユマはニコニコした。
その笑顔には悪意と善意などない。ただこの状況を楽しんでいるのだ。
神のことは知らないが、あの表情は分かる。
俺がゲームを楽しんでる表情だ。そして感じた。
「これはお前のゲームか?」
ニコ。
ユマの表情を見ると正解らしい。
ユマは俺の周りを歩き始めた。
言葉には説明できない圧迫感。いや、違う。
操られる感覚。
つまりこの空間ではあいつがゲームプレーヤーで俺はゲームチャラだ。体には力が入らない。座っているままだ。それはプレーヤーの命令を待つキャラみたいだった。
「やはり君は他のみんなと違う。そう、ある意味この空間は俺のゲーム舞台。そして君はそれを見る観客。もしくは―――――――――」
「キャラ」
ふふ。
ユマが俺の言葉に笑みを浮かべた。
「理解が早いね。うんうん、もっと気に入った。なら始めよ新木ハルト君」
ユマの言葉が終わると同時に真っ白だった空間が変わる。
色んな画面が現れた。
俺がいた世界。漫画からよく見た世界。中世ヨーロッパを思い出す世界まで、色々画面が目に見えた。
「さあ、君は死んだ。けどそんな君に神である僕がプレゼントしよう。この場で見える世界に転生する機会をね」
「転生?」
何?転生?つまりあれだよなこの流れは…。
いきなり死んで目を覚めたら転生しました。って状況なのか?
そして俺はその状況を選択する途中に…。
それはまるで――――。
「ゲー」
「ゲームでしょう?」
そう。ゲームだ。
俺は俺という今までのキャラが【死】という意味で消された。
この場で俺はキャラだ。
ユマという神はつまりこう言っているんだ。
消されたキャラの変わりに新しいキャラを作ってあげる、だと。
「うん?ひょっとして元の世界で生きたい?」
「いや…」
「うんうん。ならば異世界だね!知らない世界に行って新しい生を得る!実にすばらしい!」
「もしできるなら…」
「なに?」
「俺の個人的な希望を追加しても良いか?」
今の状況をすべて理解したわけではない。
けど、もし異世界に転生が可能なら願いたい。自称神様だから頼めば出来るはずだ。
「俺は最近部屋に引き篭って駄目人生一筋だった!それを変えたい!なんでも良い!今まで俺とぜんぜん違うモノになりたい!俺は…、俺は――・・・!」
そう。ゲームで言えばカスタマイジングだ。自分が気にならない部分を変えるとかをする事。
転生するのなら引き篭りの生活ではない、新しい生活がしたい。少しでも良いから世間で言うリア充生活をしたい。それより、それよりも!
「性行為がしたい―――――――!!」
・・・
・・・・
「う、うん。き、君の気持ちは分かるから…、泣くな……」
童貞の叫びは神様を動いた。
「君の要求は分かった。そろそろ転生する世界を選んで欲しい。君が住んでいた元の世界でも関係ないよ。選ぶのは君次第だから」
元の世界に転生するのも可能か。でもせっかくの転生だから異世界感じがするところに転生したい。そう、まるでゲームぽっいな世界に
そんな考えをする俺にある画面が見えた。
画面には色んな人がモンスターを退治する姿が見える。
仲間と一緒にパーティーを組んでボスに挑む姿。ゲームとは全然違う現実感。感想はただ一つ。
行きたい。
格好良い装備を着て、強い仲間と一緒にモンスターを倒す。ゲームでしか出来なかった事。すなわち幻。でも、転生するとその幻が現実となる。その気持ちが、その期待感が俺の体を支配した。
「決まったようだね」
「ああ。俺はあの世界で生きたい!」
「うん、君ならこの世界を選ぶと考えた」
ユマが先とはぜんぜん違う笑顔をした。
やはり、君はプレーヤーだったのか。
「なら、神ユマの名でここに宣言する。君、新木ハルトの死を書き直し今までとは全てが異なる世界で生きる事を許す」
あら…
何か、ねむ…
「うん。君の精神を消さずに転生させるんだ。目を覚ますとそこは確かな異世界。安心して」
あ、そうか。
俺が頼んだ事は?
「神に二言はない。君の願いは必ず受けてあげるから」
よし。ついに女とイチャイチャを!ありがとう神様!いや、ユマ様!
「うんうん。では、またお会いにしよう」
・
・・
・・・
その日、【俺】は死んだ。
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「だ、だんな様!う、う、生まれました!」
あれ?何か綺麗な人が俺を抱いている…
「おおっ!リナは!リナと子は無事か!?」
なんだ、この美男は?ちっ、リア充なのか?良いな、美人と結婚して子供まで生むなんて。
「どれどれ!おおっ!この子か!?」
あれ?なんで俺をじろじろ見ているんだ?
「リ、リナ!俺達の子だ!君と俺の」
え?なに?
あの…、その子ってもしかして……、俺?
いやいやいやいやいや待って!あら?声が出ない。
『うえん――――うえん!!』
あ、そうか転生だったのか。
だとしたら俺の目の前にいる男が俺の父で、俺を抱きしめている美人の女が母か。
いや~、美男美女の子に生まれるなんて、もしかして俺はすごい――――
「はい。本当に可愛い女の子ですね」
イケメンになる―――,え?
はい?
「ああ!君と同じ凄いな美人になる事に違いない」
えええええっ――――
なんだその話は!女の子!?
確かに今までとはぜんぜん違う人生をお願いしたんだが、これはある意味全然違うじゃねえか!
おい!ユマ!出て来い!これじゃ、これじゃ…………
イチャイチャできないだろう――――!!
「おお――、リナ、今の聞いたのか?この子が俺にパパだと言ったんだ!」
「ふふっ、あなた。この子はまだ生まれたばかりですよ。本当に可愛いですね」
「ああ、君そっくりの可愛いお姫様だ」
ちっくしょぉぉぉぉぉぉおおお―――――――――――――――!!
この日、【私】は生まれた。