『スーパーな店員さん』の完ペキな一日
人の思いと言うものは、離れていても通じるよなぁ~と考えながら、書きました。
貴子は、スーパーのスーパーな店員さん。
スーパーマーケット「大丸」に勤めて、3年目だ。
「いらっしゃいませー!」
貴子の元気な声が、店内に響く。
「324円」ピッ!「116円」ピッ!「225円」ピッ!「648円」ピッ!
貴子は、一つの商品のバーコードを読み取り、袋に入れるまで、1秒とかからない。
テキパキと、袋詰めした後、
「ありがとうございましたぁー!」
愛を込めて、客を送る。
「さすがね、貴子。今日は、早めにあがるんでしょー?」
同僚が、声をかける。
「ありがと、あとはよろしくー」
貴子は、家路を急いだ。
今日は、恋人の俊也が、貴子のアパートを訪れる日だ。
「ただいまー」
貴子は、俊也のために、特製のクリームシチューをつくろうと、キッチンに立った。
「コト、コト、コト、コト」
一人暮らしの貴子の部屋には、テレビは無い。情報ツールは、もっぱら、パソコンとスマホだ。
「5時だ」貴子が、時計を見て、つぶやく。
「ピンポーン」
「いらっしゃーい!俊也、時間通り、ピッタシだねぇ」
「おっ、イイにおい、貴子の得意なシチューだな」
「おかわりあるからね❤ちょっと待ってて、ハーブティーも今入れてるから」
俊也は、この日、貴子のアパートに泊まった。
貴子は、Sexを週に2回と決めている。
24歳という年齢の割には、少なめだが、貴子いわく、週3回以上Sexをすると、色ボケするとのこと。
経験知だろうか。
貴子のつくる料理は、カロリーも一々計算されていた。
睡眠時間も、一晩6時間と決めている。
毎日の生活リズムを守り続け、まさに、一日一日が、「完ぺキな一日」だった。
ある日、「大丸」に、初老の男性が訪れた。
「いらっしゃいませー!」
男性は、タバコを手にし、貴子に差し出した。
「岩下…貴子さん?」
「え…は…はい。そうですが。失礼ですが、どこかでお会いしたでしょうか?」
「何、私は、占い師。何、君の名札を見ただけだよ」
「あ…(なーんだー)そうだったんですかぁ」
初老の男性は、怪しく、貴子の顔の前に手をゆらして、
「君、明日は、外に出ないほうが良い。特に東の方向で、良くないことが起こる」
「え…」
「傘をね…傘を手放さんことだ…忘れずにね」
初老の男性は、そう言って、「大丸」から、出て行った。
アパートに帰った貴子は、俊也を迎えて、その話をした。
「お前とやりたいんじゃないの?その男」
「そんなんじゃなかったけど、明日の休みは、ライブに行く予定なのに、
縁起が悪いわ」
「ライブ会場って…東だよな…信じる?」
「ちょっと待って、明日の天気予報見てみる。……降水確率50%……」
次の日。朝は、すっかり晴れていた。
ライブに行く準備をした貴子は、ふと、傘を手にした。
会場では、貴子は、俊也達仲間と、思いっきり楽しんだ。
ライブも終盤にさしかかった時、突然、雨雲が現れた。
「雨だ」
貴子は、持ってきていた折りたたみ傘をさした。
会場をあとにし、仲間たちとも別れ、一人で、駅に向かう貴子の頭上で、
突然、
「ズカーンッ!」
爆発音が聞こえた。と、思うと、ガラスの破片が、「ボト!ボト!」と、
貴子の傘の上に落ちてきた。
貴子の目の前のビルの上の階で、火災が発生したのだ。
傘をさしていなかったら、怪我をしていただろう。
「(助かった。おじさん、ありがとう)」
貴子は、初老の男性に、感謝した。
その日、ネットの情報で、火災による死傷者が、いなかったことを知った。
数日たち、「大丸」に再び、初老の男性がやってきて、
貴子に、タバコを差し出した。
「あ、おじさん、この間は、ありがとうございました。おじさんの占い、すごかったです。
当たりました」
「そうか…もう一つ占おう。ムムム…」
「君の彼氏は、良い恋人のようだ。二人は幸せになる。大事にな」
貴子は、少し気持ちが高ぶり、
「あ…ありがとうございました」
と、ペコリと、頭を下げた。
貴子がアパートに帰ると、貴子の母が、訪れていた。
貴子と、貴子の母は、とりとめのない、生活上の話などをした。
すると、ふと、貴子の母は、一枚の写真を取り出して、貴子に見せた。
「この方、亡くなったのよ」
「誰…?」
「アメリカに行った、貴子の叔父さん。ロサンゼルスのビルの爆発に巻き込まれて、
一週間前に」
「え…?」
「あ…おじさんだ!」
そこには、「大丸」を訪れたあの初老の男性が写っていた。
「貴子が小さいころ、アメリカに行っちゃったから、貴子は覚えてないだろうけど、
最近は、貴子に会いたい、会いたいって、何度も話していたらしいよ。」
「ううん…会ったよ。私…助けてもらったよ」
貴子は、霊になってまで、会いに来てくれた叔父を想うと、胸が熱くなった。
「ありがとう…おじさん…ありがとう」
貴子は、いつまでも、いつまでも、感謝した。