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無題  作者: チャーハン
act/01 きっと、当たり前の日常は
4/15

3話

「ボクの手駒になってもらう」





 ランドの言葉は、僕には理解できなかった。

 手駒?


「まあ、今は特に仕事はないけれど、もう少ししたら働いてもらうよ?」


 仕事? 働く?


「仕事の内容は何?」


 手駒と仕事。

 どうにもつながらない単語だ。


「内容としては、敵の手駒の殲滅」


 殲滅?


 というか、敵って何? 誰?


 顔を青くした美香ちゃんが、驚きを隠せないように言う。


「殲滅って、つまり――――」


「そうだよ、キクモトミカ。殺してほしい。敵全員を」


「こ、殺す?」


 殺す? 僕と、美香ちゃんで?

 人を、殺す?


「私たちに、人を殺せと?」


「そうだよ」


「僕ら、普通の学生だよ? 殺し屋とかじゃなくて」


「ああ」


 ランドは顔色一つ変えていない。こんな話をしているのに。

 人を殺す、なんて。おかしいだろ。


「―――――――冗談じゃないわ」


 向かい側にいるランドは、なぜかニコニコと笑っている。

 正気じゃ、ない。


「―――――――――冗談じゃないわよ、ランド。私たちにはそんなことできない」


 僕も同感だ。

 学生の僕らは、殺人術も知らない、精々首を切ったり絞めたりすればいいことぐらいしか知らない、ただのど素人だ。

 人なんて殺せないし、殺したくもない。

 ましてや殲滅なんて単語、テレビの中で言ってるのしか聞いたことがない、現実的じゃない単語だ。


「そうかい」


 ランドが立ち上がる。


「もし、君たちがボクのために働いてくれないなら、君たちをもう一回溶かす」


「え」


「君たちにもう一回、死んでもらうって言ったんだ」


 もう一回死ぬ? 僕と、美香ちゃんが?

 溶かす?


「当然だろう? そもそも生き返らせてあげたのはボクだ。君たちの生殺与奪権は僕にある」


「そ、それは」


 うろたえる美香ちゃん。


「君たち、やることないだろ? いいじゃないか、暇つぶしと思えば。知り合いを殺せなんて言ってないんだからさ」


 ランドは、完全に脅迫してきた。笑顔で。


「そんなの・・・・」


 美香ちゃんが、くちびるを震わせる。


「そんなの、おかしいわよっ!」


 机に手を強く叩きつけて、花瓶が倒れる。

 ガチャン、という音とともに水がこぼれて、一緒に花も流れる。

 床が濡れた。


「おかしい、そうだね。でも、仕方がないんだ」


「なんで? なんで、その『敵』を殺さなきゃいけないの? ほかに方法は? 何もないの?」


 ほかに方法があるんじゃないか。和解したり、とか。


「そもそも、どうして僕たちなんだ? それ専門の仕事の人を雇えばいいだろ?」


「それはできないんだよ、キクモトシンヤ」


「なぜ?」


「僕らの間で、決めたことなんだよ。これは、ゲームを進行するための重要なルールなんだ」


「僕ら?」


「そう。世界中の魔法使いの間で、決めたことなんだ」


「魔法使いの間で・・・?」


 よく理解できないんだけど。魔法使いの間で?


「まあまあ、キクモトミカも座ってくれよ。君のお兄ちゃんはこんなに落ち着いてるぜ?」


 いや、別に落ち着いてるわけじゃないけど・・・・


「・・・・・・・・」


 美香ちゃんは僕のほうを一瞬見た後、「ふんっ」と言いながら座りなおした。


「さて、じゃあ説明してあげよう。なんで君たちなのか。なんで君たちに、この仕事を任せなくちゃいけないのか」


 美香ちゃんと、ランドの話に聞き入る。

 空気がなんとなく張りつめているのを感じる。


「そもそも、この世界に魔法使いが全部で何人いるか知っているかい?」


 美香ちゃんが答える。


「そんなのわからないでしょ。魔法使いは職業なんだから、何人もいるわよ」


 それを聞いたランドは、やっぱりな、といった風に言う。


「まずその認識からして間違っているよ。ボクらの世界で魔法使いは職業じゃない」


「・・・・じゃあ、なに?」


「種族だよ」


「種族ってどういうこと? 人間じゃないの?」


「ああ。普通の人間は魔法なんて使えない。永遠の命だって無い。精々100年かそこらで死ぬ」


「で、でも」


「まあ、『種族』と言っても、あくまでくくりでしかない。ボクらと彼らの容姿は同じだし、体のつくりだって大体同じさ。違うのは、魔法が使えるかどうかと、寿命の長さ。それだけ」


「じゃあ、同じ種族じゃないの?」


「違うよ。ボクらは永遠に生きる。彼らとは、似て非なる存在だ」


「・・・・言い回しが痛々しいわね」


「い、いいだろう!? このセリフ一回言ってみたかったんだから!!」


「はいはい厨二乙厨二乙」


「うあああああああああああああ」


 そうなのか。

 ランドは人間じゃないのか。

 まあ、だからどうしたって話なんだけど。永遠の命は少しうらやましい。


「で、ボクたち魔法使いの数なんだけど、世界中に今13人いるんだ」


「13人って・・・ ずいぶん少ないわね」


 そもそも、僕らの世界には魔法使い的なファンタジーの住人はいなかったはずだけど、美香ちゃんは何を基準に「少ない」と言ったのかな?

 漫画とかゲームとか、そこらへんの知識だろうか。美香ちゃんの認識では「魔法使い=職業」のようだ。そういえば美香ちゃん、中学の頃あんなに『魔法使いになりたい!!』とか言ってたもんな・・・。あの頃もかわいかったなぁ・・・。

 でもこの前(前の世界で)「美香ちゃん中学の頃さぁ・・・」と今の話をしたら、うつむきながら首から上真っ赤にして「黒歴史黒歴史黒歴史・・・・・」とか言いながらめっちゃはずかしがってたな。

 恥ずかしがり方もかわいい。さすが僕の妹。


「そう。で、その13人で組織を作ったんだ。なんとなく寄せ集まって、一番偉い人を決めた」


「へー」そうなのか。


「その人が僕らのリーダーとして、みんなにあれこれ命令して、世直しを始めたんだ。本人は『世直しだ!!』って言ってたけどね」


「ふむふむ。組織的なやつなんだね」


「だけど何年か前に、その人がいきなり『飽きたからやめるわ』とか言って消えたんだよねぇ・・・」


「消えたってどこに? 死んだの?」


「いや、死んではいないと思うよ。そもそも魔法使いは死にたくても死ねないんだから」


「あ、そうか」


 そういえばなんか言ってたっけ。永遠の命とか。


「でね、そのリーダーの代わりを決めなきゃいけなくなったんだよ。残りの12人の間で、やっぱりリーダーは必要だって話になったんだ。いろいろ話し合った結果、それぞれに手駒を用意して、それを使って殺し合いをすることになった」


「発想がひどいわね・・・」


「まあ、魔法使いだしね。変人ばっかなのは仕方ないのさ」


「・・・それで?」


「その手駒は、もちろん人間。この世界の住人じゃなく、異世界の住人を使わなくちゃいけない」


「なんで? こっちの世界から選べばいいじゃん」


 というか、なんで異世界なんだ。こっちからしてみれば大きな迷惑だろうが。


「やっぱり、自分たちの世界の人間を使うのは何かと気が引けるんだよねぇ。ほら、倫理的にどうかなって」


「新しく人間作ってる時点で倫理も何もないでしょうが」


 美香ちゃんの鋭いツッコミ。確かにその通り。


「いやぁ、そうなんだけどね。でもまあ、異世界人だからセーフってことで」


「アウトでしょ」


「いいんだよ! セーフなの!」


「そ、そうですか・・・」


 なんかすごい大声で怒られた。

 あんまり怖くない。本人かなりのご高齢らしいけど、見た目が見た目だしなぁ・・。

 どうしても、小さい女の子が騒いでるようにしか見えないし。


「なんかナメた顔してるけど・・・ 溶かすよ?」


「ごめんなさいなめてました」


 この人目がマジだよ。


「でもって、その異世界人の選び方にもいろいろ制限があってさ。大きい魂は持ってこれないから、なるべく若い人間を。あと、わざわざ殺すのはかわいそうだから、偶然死んだ人間の魂を使うことになった」


「魂に大きさなんてあるの?」


「うん。人間は年を追うごとに、一回りずつ魂が大きくなるんだよ。あんまり大きいと持ってこれない」


「へー」


「で、君たちが死んでた。だから連れてきた」


「偶然?」


「そう。まったくの偶然」


 偶然らしい。なんというか、どうにも拍子抜けだ。もうちょっと理由があったと思ったんだけど。


「でねでね、ここからが本題なんだよ」


 ランドがテーブルに両手をついて、僕らのほうに顔をぐっと近づけてきた。なんか楽しそうだ。


「流石に生身の人間を戦わせるだけじゃ、どうにも面白くない。だからね、一つだけ『能力』をつけていいことになったんだ」


「能力? どんなものよ?」


 能力の単語に美香ちゃんが反応する。心なしか目がいつもより輝いてるし、琴線に触れる部分があるのだろうか。

 ランドが、ふふふっ、と笑う。


「そうだね、気になるよね。キクモトシンヤも気になるかい?」


「うん、まあ」


 どんな能力かは、当然気になる。

 すると、勢いよく立ち上がったランドが言った。


「よろしい、見せてあげよう! これが君たちの『能力』だ!!」


「―――っっ!!」


 急に大声を上げるので、思わず身構えてしまい身体がこわばる。

 1秒。

 2秒。

 3秒。

 ・

 ・

 ・

 ・



 10秒ぐらい待っても、一向に何も起きる気配はない。

 沈黙が訪れる。

 ・・・・

 ・・・・・・



「・・・・・あの、ランド、何も起きないんだけ――――」


「今だっっ!!!!」


 そういってランドが指を鳴らした、次の瞬間。


「――――へっ??」


 まず、すごいきれいな景色が広がった。

 空にいる。

 というか、


「――――――おおおおおおおおおお落ちてるううううううううううう」


 すごい落ちてる!

 空から!



「きゃあああああああああああ」


 横では美香ちゃんが悲鳴を上げる。

 上のほうからランドの声がする。


「二人とも、びっくりしたー!?」


「うがあああああああああ!!」


「きゃあああああああああ!!」


 でも、それに応える余裕はない。 


 というか、これ。


「これ、ぜったい、死ぬううううううう」


「そうだよ!」


 上から再びランドの声。


「でも、大丈夫! 死ぬけど、死なないから!!」


「お、お前、頭沸いてんじゃねえのおお!!!」


「・・・・」


 少し下を行く美香ちゃんを見ると、どうやら気絶してしまったらしく、目をつぶっていた。もしかしたらあきらめただけか。


 そうこうしている間にも、確実に地面が近づいてくる。


 必死に手足でもがいても、むなしくくうを切るだけ。


 そして、地面が目前に迫り。


 首があり得ない角度にまがった美香ちゃんが視界に映り。




「あ、これ死んだな」




 僕、菊本信也は。


 2度目の死を迎えた。

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