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無題  作者: チャーハン
act/01 きっと、当たり前の日常は
3/15

2話

 目が覚めたら、知らないベッドにいた。


「ああ、やっと起きたか。ずいぶん遅かったね」


 隣の椅子に座っている女の子が声をかけてきた。


 歳は10才くらい、長く伸びる銀髪を頭の後ろでまとめている。

 ポニーテール?だろうか。瞳が緑色だ。


 とりあえず、体を起こしてあたりを見渡す。

 そして、違和感。


「・・・・・ここ、どこ?」


 さっきまで歩道にいたはずなのに


 なぜか僕は今、知らない部屋の知らないベッドに寝かされている。




 ■ ■ ■ ■ ■




 とりあえずこっちにおいで、と部屋の外へ連れていかれた。

 白い壁の廊下を歩いていると、窓から日差しに照らされた何本もの木が見えた。蝉のような声がするから、夏だろうか。


「あのさ、君はだれ? お母さんか、お父さんは?」


 先を歩く女の子に聞いてみても、


「その質問は、リビングについてからね」


 と、はぐらかされてしまう。


 少しして、女の子が一つのドアの前で立ち止まった。


「ここだよ」


 女の子がドアノブを開くと、そこには


「・・・・・・わぁ」


 美少女が、いた


 金色の髪は腰まで伸び、窓から吹いてくる風に柔らかく揺れている。

 瞳の色は透き通る蒼色。すっと通った鼻梁と薄桃色のくちびるは、まさに「お人形のよう」だった。

 背丈は160㎝くらいで、真っ白なネグリジェを身にまとっている。


「久しぶりね・・・・信也」


 鈴のように美しいその声は、どことなく美香ちゃんに似ていて、


「・・・・・っ、美香ちゃん!?」


 ていうか、美香ちゃんの声だった。


 よくよく見ると、顔立ちも美香ちゃんっぽいし、髪の長さだって同じくらいだ。

 でも美香ちゃんは金髪じゃないし金眼でもない。いやでも、声は美香ちゃんそのものだし・・・・

 ・・・・・あれ? どゆこと??

 混乱した僕が頭を悩ませていると


「ふふっ、大分混乱しているようだね」


 後ろにいた女の子がおかしそうに笑った。


「あら、まだ話していなかったの、ランド」


「だってこっちのほうが面白そうだろう? シンヤ君の反応を僕は楽しみにしていたんだよ」


「いい趣味してるわね、あなた」


「ありがとう、いろんな人にそう言われるよ」


 二人の会話についていけない僕は、一人ドアの前に立ち尽くす。

 まて。まて。落ち着くんだ僕。状況を整理しよう。

 まず、ここはどこだ?

 おそらく、銀髪の女の子の家。どこかの森の中にある。

 2つ目、目の前の美少女は誰だ?

 たぶん美香ちゃん。なぜか髪と目の色が違うけど、声と顔は完全に美香ちゃんのもの。

 3つ目。

 なんで僕らは生きてる?

 確か、トラックにはねられたはずだ。そこからの記憶はないけど、そこで死んだはずじゃないのか? 

 奇跡的に生き残ったとしても、目覚めるなら普通病院とかだろうし。


「あれ? あれ?」


 ぼく は こんらん している !!


「・・・・ランド、そろそろ説明してあげて。信也の目がぐるぐるになってる」


「おっと、そうだね。信也君、こっちにおいで」


 促され、美香ちゃん(仮)の隣の、木製の椅子に座る。見た目は質素だったけど、案外つくりはしっかりしているようで、僕が座ってもびくともしなかった。

 同じく木製のテーブルの上には、黄色い花を一本生けたガラスのビンがある。左の窓からは、少し蒸し暑いような、気持ちのいい風が吹いてくる。


「改めて自己紹介といこうか。ボクの名前はランド・アストルド。魔術師をやっているよ」


 向かい側の椅子に座った女の子が喋り始める。


「君たちは、僕が召喚したんだ」


 ・・・・・はい?


「召喚?」


「そう、召喚。異世界召喚。やったね」


 異世界召喚?


「それって、つまり――」


「そう。ボクが君たちを、この世界に召喚したんだ」


 しばし呆然とする。

 異世界召喚?

 隣の美香ちゃん(仮)のほうに首を向けると「・・・・・・何見てんのよ・・・・・・」にらまれたので前を向き直す。



「いや、いやいやいやいやいや。おかしいでしょ。異世界って」


「あはっ、兄妹って面白いね! まったく同じ反応をするなんて。やっぱり生育環境によるものなのかな?」


「異世界って何? どっかの国?」


「異世界は、異世界だよ。異なる世界。君たちが生まれ育ったのとは全く別の世界。」


 おかしい。

 僕らは普通の兄妹だったはずだ。


「そういうことよ、信也」


 隣の美香ちゃん(仮)が言う。

 さっきからニコニコと笑っているランドが、その小さな手を組みながら話し始める。




 ■ ■ ■ ■ ■




「君たち、一回死んだんだよ」


 ランドはそう切り出した。


「この話は、もうキクモトミカにはしてある。彼女は、君よりも1日早く目覚めたんだ」


 ああ、やっぱりな、と思った。


「君は、もう気付いていたのかい? ずいぶんと落ち着いているようだけど」


「まあ、予想はしてたよ。死んだ記憶はないけど、死んだんだろうな、とは思ってた」


「ふむ、そうかい」


 ランドは顎に指をあてながら


「じゃあ、なんでここにいるかはわかるかい?」


「それは、君が召喚したんだろ? どうやったのかはわからないけど」


「いやいやそうじゃなく。何の目的で召喚されたかはわかっているのか、と聞いたんだ」


「それはわからない」


 さすがにそこまではわからない。僕の脳味噌が、異世界に人を召喚する理由なんて思いつくはずもない。

 そういう内容の本なり映画を見たことがあるなら予想ぐらいつくんだろうけれど、あいにく僕はあまり本を読まないのだ。


「そうかそうか。まあ、そりゃそうだよ。まだ話してないんだし。キクモトミカにさえまだ話してないんだ」


「そうなの?」


「ええ。この銀髪ロリ、『キクモトシンヤが来てから話すよ』とか言って教えてくれなかったの」


「二人一緒に聞いてほしいからね。まあ、それは置いといて。君たちの召喚の方法だけど、とても簡単なんだよ」


「・・・・・というと?」


「なんて言えばいいのかな? 召喚、というか。転生、のほうが正しいのかな? こっちで新しい肉体を用意して、それに君たちの魂を入れたんだよ。こう、ずずっと」


 魂、と申すか。


「魂って、あれか? 怪談とかでよく出てくる、あれ?」


「そう、あれあれ。大体あんな形をした、いわば生命の核みたいなもの。それを君たちの死体から取り出して持ち帰り、新しい肉体に入れたんだよ」


「・・・・へ~」


「でもって、魂が新しい肉体になじむまで君たちを寝かせていたんだ」


「つまり、僕のこの体は、もう新しいってことか?」


「そういうこと」


 新しい体・・・・

 試しに手を握ったり開いたりしてみても、違和感は無い。


「まあ、今までの肉体を参考に作ったからね。違和感がないのは当然さ」


「はぁ」


「ああそれと、肉体の培養は室内で行ったんだ。日光が無いものだから、全身のメラニン色素はかなり薄くなった。保護呪文はかけてあるから、日差しの心配はないよ」


 ほらご覧、と差し出された鏡には、髪は真っ白、瞳は赤茶という、奇妙なカラーリングが施された僕がいた。うっわ気味悪っ。

 肉体を培養、つまりこの体は、完全に作られたものなのか。この子が、自分で。

 しかし、本当にこんな小さな子が作ったのか?


「あとここはボクの家。一人で暮らしてるよ」


「え? 親とかは?」


「ボク、一応これでも650才なんだよ」


「ろっ、ろっぴゃくごじゅう!!」


「ふふっ、どうだい? 異世界のアンチエイジングはこんなに進んでるんだぜ?」


 なんと。650歳とは。人間の平均年齢の軽く8倍じゃないか。

 アンチエイジングというより、まさに「魔法」という感じだ。


「ランド、あなたさっき750才って言ってなかった? 何鯖読んでんのよ」


「あうっ、キクモトミカ、そういうことは黙っといてくれよ! もう、空気読めない奴め!!」


「・・・・・何この理不尽すぎる怒り。殴りたいこいつ」


 鯖読むなよ、とは思ったが、流石に口には出さなかった。

 にしても、魔法使いってすごいな。みんなこんな感じなんだろうか。


「・・・・・そろそろ本題に入ろうか」


 呆然とする僕の前で、少し機嫌を損ねている様子のランドが指を組む。


「君たちを召喚した理由なんだけどね・・・・・・・・・・・・・・・」


 ・・・・・・・・

 ・・・・・・・・・・・

 ・・・・・・・・・・・・・・


「もったいぶらないで早く話してよこの銀髪ロリ」


「ちょ、ムードぶち壊さないでよキクモトミカ。ほんときみKYだな。友達とかいなかったろう?」


「余計なお世話よ」


「はいはい・・・・で、理由なんだけど」





「君たちには、ボクの手駒になってもらう」


 にっこりと笑うランド。

 それに対する、僕と美香ちゃんは


「「・・・・・・はい?」」


 聞き返すしかなかったのだった。

久しぶりの投稿です


これからはなるべく週一で投稿したい(希望的観測)

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