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僕はどうしようもなく子供だった。
正しい判断だと思い込んで他人を巻き込んだ後、死にたくなるほどの後悔を何度も味わった。味わっておいてなお一切の成長はなく、またすぐに同じことを繰り返す。そんな人間だった。今も根本的なことは何一つ変わっていないけれど、それでも自分を取り繕って、必死に日常になじんでいた。
言い方は悪いが、美香ちゃんはガキだった。
間違った判断だとわかっていてなお自分の意地を通し、周りに被害をもたらしても謝らず、許してもらえるまで口をつぐむ。しかし、美香ちゃんの場合は僕とは違い、明確な成長があった。日に日に自分を変えてゆき、しかし根っこの部分は昔のまま、大人への階段を上っていた。
僕としては、心底美香ちゃんが羨ましかった。妬んでいたといってもいい。自分は泥にまみれたままその上にペンキを塗りたくって、外からの見栄えを良くしているだけなのに対し、少しずつではあるが確実にゆっくりと、自分から泥を洗い流してゆく美香ちゃんの姿は、僕には眩しすぎた。
一時は憧れ、美香ちゃんの真似をしようと思ったこともあった。でも遅かった。もう僕の泥はペンキと混ざって固まって、どうやっても剥がれそうになかった。
嘘だけで自分を守った僕は、真実も嘘も混ざって見分けがつかなくなってしまったんだ。
だから僕はあきらめて、ありのままでいることを選択した。自分に対してこれ以上を求めるのをやめた。ありていに言ってしまえば、疲れたのだ。美香ちゃんの真似をするのに。
だから僕は、代わりに美香ちゃんを助けることにした。変われない、変わらない自分に見切りをつけて、美香ちゃんの為に努力をすることにした。
それが、中一の夏。
もともと僕は美香ちゃんに少なからず好意を持っていたから、その気持ちが恋慕にすり替わるのは早かった。
それが、中二の冬。
僕は美香ちゃんが好きだ。この気持ちには、一片の嘘のかけらも混ざっていない。なぜ断言できるのかはわからないが、とりあえず、言い切ることはできる。単なる見栄かもしれない。実は嘘で、何か打算的な考えを読まれたくないからって、自分さえだましてしまったのかもしれない。でも、断言することぐらいはできる。
僕は彼女が好きだ。
■ ■ ■ ■ ■
こういう恥ずかしい文章を、いつだかノートに書いたことがあった。
いわゆる、黒歴史。
でも、このころの僕の持つ美香ちゃんに対する想いは、純粋で綺麗だった。たぶん。
今の僕は、違う。この感情は、恋心とか恋慕とか、そういう綺麗な言葉じゃなくて、もっとずっしりして汚い、とても人様には見せられないような物に育った。僕の胸の中で、むくむく、むくむくと。
もう取り除くことは不可能で、死ぬまで付き合っていかないとならない。
たぶんこれは。
依存だ。