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無題  作者: チャーハン
act/01 きっと、当たり前の日常は
1/15

1話

「伸也!早くしなさい、なにぐずぐずしてんのよ!」

 

 彼女の美しい黒髪が風になびく。

 日々の手入れをかなりマメに行っているであろうそれは、20メートルほど離れたここからでも甘いかおりがただよってきそうだ。

 

 「ごめん美香ちゃん、今行くね~」

 

 そう言って僕はあわてて上履きと外ぐつをはきかえ、駆け足で彼女のもとへ急いだ。

 なんだかんだ言って待っていてくれるのだから、やっぱり彼女は優しい。

 横に並ぶ。

 

「ごめんね、遅くなって。先生の話が遅くってさ」

「あんたまたなんかやったの?」

「うん。ちょっとほめられてて」

「それは良かったわね・・・」


 彼女はあきれたような顔で言う。


「ホント、あんたって頭いいのに馬鹿よね・・・」

「そうかなぁ」まあ、彼女が言うならそうなんだろうなぁ。


 学校の授業が終わって、放課後。

 今日はいつもの科学部がないので(顧問の先生が健康診断に引っかかったかららしい)、いつもよりも帰る時間が早い。

 先生の目の届かないのを見計らって、彼女が言う。


「よし、そろそろいいわね」

「今日も聴くの?たまにはおしゃべりしようよ」

「あんたと話すのよりは有益な時間が過ごせると思うわ」

「うぅぅ・・・」


 それなら、と僕は横にひっさげた学生鞄の中へ手を突っ込み、昼休みに図書室で借りた文庫本を取り出した。カサリと広げて、読みながら歩く。


 二人して黙々と道を進む。


 借りてきた本が意外と面白かったので、ついのめりこんでしまっていた。

 そのせいで、彼女の声に気付けなかった。

 

 ・・・・

「ちょっと伸也」

 ・・・・

「ちょっと」

 ・・・・

「おい!」ガスッ

「・・・・・・・っは!!」

「気付くの遅いわよ!!!」


 彼女が珍しく自分から僕に話しかけていたのに、何たる不覚!


「ごめん、集中してて聞こえなかった!えっと、何かな?」

「そろそろ信号よ。ちゃんと止まらないと危ないわ」


 わざわざ片方のイヤホンを外してまで僕に忠告してくれた彼女。やっぱり優しいよね。


「君のそういう優しいところが僕は大好きなんだよね~」

「あんたのそういうのを平然と本人の前で言い放てる無神経が私は嫌よ・・・」


 怒りからか、渋い顔をしている彼女。頭に血が上って頬が少し赤い。


「それにしても、あんたが本にのめりこむなんて珍しいわね」

「ん?そうかな?」


 僕は本自体あまり読まないので、言われてみればそうかもしれない。


「どんな本なの?」

「う~んそうだなぁ・・・・」


 僕は説明するのが苦手なので、身振り手振りを交えて説明する。


「え~と、小さいころから英才教育を受けて若くして医師になった主人公とかが、こう、悪い医師とか悪の組織とか町の不良とかをどっかーんばっきゃーん倒していく話。色々やって」

「さっぱり要領つかめないわよ・・・。ちょっと私にも見せて」


 彼女が僕の本をのぞこうと背伸びしてくる。

 彼女は160.25cmなので、174.3cmの僕とは約14cmの身長差がある。

 可愛すぎる・・・・

 僕は彼女の負担が減るように、本を少し下げた。

 一緒に読む。


 彼女と読む。とても幸せだった。

 こんな少しのことで幸せな僕は、本物の幸せ者だろう。




 だから、僕は油断していた。



 気が付けないのだって、仕方がなかった。








 「危なああああああああいいい!!!」

 

 対向車線の親切なおばさんが絶叫



 直後、あり得ないほどのクラクション音




 ふと音のした右側に顔をあげてみると
























 ――――――――猛スピードで大型トラックが突っ込んできている最中だった

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