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煉獄のバラッド -九曜伝-  作者: 宮崎
運命は夜明けを待つ
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#02 上級生・南雲波流

 翌日、颯太が登校すると、クラス中がいつもよりもざわめいていた。


「あっ、蓮見くん!やっと来たわね、待ってたのよ!」


 教室に一歩踏み込んだまま目を丸くしている颯太を、響子が目ざとく見つけた。

 待っていた、と言われても、響子に登校を心待ちにされる覚えなど颯太にはまるでない。面倒ごとか、と思わず首に巻きつけていたグレーのマフラーの端を握り締め、響子の突撃に備える。


「昨日の放課後、話をしてたって本当?」

「はっ?……いったい何?」

「だから、下駄箱の前で話をしたんでしょ?」


 響子の勢いにのまれながらも、颯太は脳裏に浮かんだ顔から、その人物の名を挙げた。


「倉間さんのこと?転校生の」


 合っているか確認するように、響子の顔を窺う。

 しかし、どうやら違っていたようだ。響子の頬が、木の実を詰め込み過ぎたリスの頬袋のように膨らんだ。


「そっちじゃない!イケメンのほう!!」

「イケ……」


 ああ、と颯太は独りごちる。

 そういえば、と、昨日あの場で遭遇したもう一人、美しく整った容姿の少年を思い浮かべた。


 響子が『イケメン』と言う、その表現には少し違和感がある。確かに綺麗な顔立ちをしていたが、男性的なそれではない。引き締まった表情の中にも、中性的でどこか気品のある色香を感じさせた。加えて、落ち着いた物腰、理知的な振る舞い。


 あれを正しくカテゴライズするならば、間違いなく『美少年』の括りだ。なにせ、下駄箱でゴタゴタしていたせいで深く考えていなかったが、あの倉間結月と並んでもその容姿になんら遜色はなかったのだ。


 どうやら響子は――彼女の後ろに控え、目をキラキラさせている取り巻きも含めて――その美少年の情報を知りたいらしかった。まあ、そのミーハーな乙女心もわからないではない。あれクラスの美形には滅多にお目にかかれるものではない。


「その人とは話をしたっていうか、聞いたっていうか。初めて会った人だから名前は知らないよ」


 颯太の答えに残念がるかと思いきや、響子はそれを聞いても気落ちする様子はなかった。


「名前は知ってる。南雲(なぐも)波流(はる)先輩。転校生なんだから知らなくて当然だよ」

「え、そうなの?」

「そうよ。昨日、3-3に転入してきたんだって。三年校舎で朝、すごい騒ぎになってたみたい。だけど三年生は受験本番真っ只中だし、先生たちに怒られて騒ぎは一瞬だったって」


 そこまで情報を得ておきながら、今更何を颯太に聞きたいのかわからない。が、ともかく響子はイケメン転校生・南雲波流の昨日の騒動について熱く語る。その熱弁たるや、昨日の西村を彷彿とさせるほどだ。

 颯太のそんな心情に気づいたのか、響子の後ろにいた取り巻きの一人が説明するように一歩前に出た。

 

「波流先輩がね、今朝、倉間さんと一緒に登校してきたのよ」

「へえ……」

「へえって……、それだけ?気になるでしょ!倉間さんと波流先輩との関係が!!」


 生返事をした颯太に、響子が信じられないという目を向けた。


「聞けば昨日の下校も一緒だったって言うじゃない。目撃者がいるのよ。蓮見くんもそこに居たって聞いたから、何か知ってると思ったんだけど」

「いや、別にそんなに知らないよ。でも確かに一緒に帰っていったと思う。先輩が迎えに来てたし」

「む、迎えに!?」


 響子の声に、何故か西村の悲愴な声がシンクロした。

 見れば、ショックを受けているのは女子に留まらない。昨日、西村とともに美少女祭りを開催していた同志たちが、一箇所に固まって悲痛な呻きをあげている。


「てことは付き合ってるのか、二人は!?」

「俺の倉間さんがああぁ!!」

「お前だけのじゃねーよ!!」


 悲嘆に暮れる一角に対し、女子軍団を率いる響子は何とか衝撃を抑え込んでいた。


「ま、まだわからないわ。本人たちに聞いてみないと」

「そ、そうだよね!蓮見くんの記憶違いかもしれないし」


 そこまでして否定したいのか、と思わないでもなかったが、颯太はそれ以上は何も言わないことにした。物珍しいとはいえ美形なばかりにここまで騒がれる転校生に同情する。と言うか、心配になる。昨日以上の興味関心に晒された倉間結月が、今日は早々に爆発するんじゃないかと思えて。


 そしてその予感は見事に当たった。


 案の定、倉間結月は二時間目の休み時間には爆発したらしい。

 南雲波流はただのイトコで幼馴染で小さい頃から自分を護るためだけにそばにいて転校先にまでついてきた――という新たな情報(ネタ)を提供しつつ。


 男子の間では『幼馴染が常にそばにいて守らないといけないほど可愛い、それが倉間結月』となり、女子の間では『一緒に転校するほど心配して守ってくれる、顔も心もイケメン、それが波流先輩』となった。

 まったくもって平和だ。





 放課後、颯太は昨日のあれこれでうっかり行きそびれた本屋に寄り、漫画を一冊買うと店を出た。把握しそびれていた新刊を思いもかけず手に入れて、ウキウキと帰路に着く。


 駅に向かうため、横断歩道の前に立った。信号が青に変わるのを待つ。何気なくあたりを見渡すと、反対側の歩道に人目を引く二人組を見つけた。


(――あれ、転校生の)


 倉間結月と南雲波流だ。昨日の波流の言葉通り、今日も一緒に下校しているらしい。


 観念したのか、結月は昨日のように逃げる素振りはない。二人は、何か話をしながら歩いている。結月が口を開き、波流が答える。結月はすたすたと歩き、波流はその隣ではなく半歩後ろを歩いている。それが当然の距離のようだったが、どこか違和感を感じた。


 結月を心配して一緒に転校するほど仲の良い幼馴染、のはずだが、談笑しているような場面はない。かといって険悪な雰囲気でもない。昨日のやり取りを思い出しても、互いに気を遣わずに接していることは確かだ。


 ふと、波流が足を止めた。颯太が信号待ちをしている横断歩道に視線をやり、中ほどの一点を見つめる。

 颯太も視線の先を追う。が、そこには何もない。いたって普通の横断歩道があるだけだ。


 波流の視線が、ツッと鋭くなった。同時に、周囲の空気が張り詰める。結月の手首を掴むと、波流は自分の後ろに引き寄せた。僅かに口を開き、何事かを呟く。

 それはほんの一瞬のようにも、幾らかの間をかけたようにも感じた。――暫し。


 一点へと突き刺さっていた射抜くような視線が、ふっと緩んだ。同時に、張り詰めていた空気も緩む。

 そこで初めて、颯太は自分が呼吸をすることを忘れていたことに気づいた。そろそろと息を吐くと、周囲の雑音が戻ってくる。手がにわかに汗ばんでいた。


(な、なんだったんだ、今の)


 颯太には、何も見えていなかった。

 だが、()()()起きていた。そんな気がする。


 呆然とした面持ちで、横断歩道の反対側にいる二人を見やる。

 波流が後ろ手に掴んでいた結月の手首を離すところだった。拗ね顔の結月が顔を出し、横断歩道を眺めている。


 ――南雲波流は倉間結月を守っている。


 その話は、どうやら本当らしい。

 ただ、問題は、何から守っているのだろうか、ということだ。


(もしかすると、横断歩道にはさっき()()がいて)

(その()()から、守られていたんじゃないのか――?)


 そんなことを漠然と考えている颯太の気も知らず、二人は横断歩道に背を向けて歩き出した。


 なぜか、颯太の足が一歩前に出ていた。

 どうしてかはわからない。二歩、三歩。颯太の周りの人たちがざわつく気配がした。

 だが、それよりも二人のあとを追う。そんな気持ちに駆られていた。


 颯太の背後から、誰かの声がした。「あぶない!」

 ハッと我に返る。その瞬間、身体の側面にものすごい衝撃が走った。複数の女性の悲鳴。

 何が起きたのか、またわからない。目の前が真っ白になる。ただ、上も下も右も左もわからないまま、不思議な浮遊感に包まれた。


 颯太の意識はそこで途切れた。

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