悪魔の笑顔
高校一年生の桐山アリアは、今日もあの日の夢をみる。
あの日――誕生日に考古学者のお父さんからプレゼントされた、海外の骨董市で見つけたという、なにやら曰く付きの指輪をポケットに忍ばせて――何故か身体から離せなくて――激しい雨の中、小学校からの帰り道を私は走っていた。
「傘を持って行きなさい」
と言うお母さんの言葉を聞いておけばよかったと後悔しながら、私は近道で帰ろうと進路変更する。
そして十字路で激しい衝撃に襲われ目の前が急に暗くなる。
……大丈夫、大丈夫。なにも心配はいらない……
暗闇に包まれている私の不安を和らげるように語りかける声。その声に私は、何故か安堵するのだった。そして、だんだん光が見え始め、目の前には見慣れない天井が見える。
そこは病室だった。
そんな過去の夢をよく見るのだった。
お父さん、お母さんから聞いた話では、交通事故で病院に運ばれた私は、緊急手術を受けるが手術後医者からは「手を尽くしましたが、覚悟されたほうがよろしいでしょう」と伝えられたと言う。
だが、私は助かった。
医者は、こんな事は有り得ないと言ったそうだ。
それはそうだ。だって私を助けてくれたのは、父からプレゼントされた指輪から召喚された、悪魔なのだから。
「主よ。なにを難しいお顔をされて……?」
寝起きの私に執事の出で立ちの若者が尋ねてくる。
手術中に私に語りかけてきた存在――ソロモンの指輪から召喚された悪魔だ。
あれからずっと一緒にいる。
「ははぁ……解りましたぞ主よ。好きな異性でも出来ましたか」
「違うよっ!」
「では黒魔術で相手の好意を独り占めしてしまいましょう。あと、おまけで主の恋路の邪魔者にはもれなくをプレゼントを……」
「話しを勝手に進めないでっ!ってか、プレゼントってなに?」
「はははっ!主よ!!こういう場合のプレゼントと言ったら不幸に決まっているではありませんか!!!」
「ちょっと辞めてよね……本気で言ってるの?」
「ははは!!!主は心優しいですな」
「なによその言い方。そういうの嫌いだよ。
優しいっつうか、普通だってば。
てか、恋って上手くいこうがダメだろうが相手あっての事なんだからね。相手を傷つけたらダメなんだからね?解った?」
「ははは!!よく解りましたぞ主よ。相手が居てこその恋という事ですな。やはり主は心優しい方なのです」
そう言って、悪魔公爵メルルフェリウムはニコニコと笑うのだった。
メルルフェリウムは私が大好きな紅茶とお菓子を用意してくれる。そしてまた、たわいもない話しが続く――
そんな毎日があるのもメルルフェリウムのお陰だった。
私は神様は信じられないけど、この悪魔は信じる。
そう想う、高校一年生の冬であった。
終わり