小さな鍵と血色の青年
「……鍵……?」
近寄って拾ってみると、それは銀色の小さな鍵だった。
大きさとしては3センチほど。扉などの施錠に使うとは思えないサイズだ。
「何だろ……グレイスの落し物かな……?」
少女がそう呟いた時、
「そうだねぇ、それは確かに彼の落し物だ」
はっと前を向けば、見知らぬ青年が微笑んでいた。
腰まで届く血が滲んだような赤い髪。そして同じ色を宿す左眼。グレイスと同じように右目を仮面のようなもので隠しているその青年は、右手でトランプらしきものを弄びながら近付いてきた。
「……誰?」
どこか壊れたような笑みを浮かべている青年を見て、少女は本能的に恐怖心を感じた。無意識に後退り、距離をおく。
「俺? 俺は、グレイスの腐れ縁」
腐れ縁、ということはグレイスと仲がいいのだろうか。
少女が瞬きを繰り返し困惑していると、青年は少しつまらなそうな表情になり、
「そんなに怖がらないでよ。確かに「コワイヒト」だけどさ」
「「コワイヒト」……?」
少女が訊ねると、青年は頷く。
「でもさぁ。見た目的な問題、グレイスよりは怖くないじゃない? ほら、怖いものとか一つも持ってないし。鞭とかナイフとか、ヤバそうなもの持ってないでしょ?」
確かに、それはそうだ。
彼は凶器の類を持っているようには見受けられない。しかし笑みがどこか狂気じみていて、雰囲気が尖っていた。
少女が顔を強張らせたまま硬直していると、彼は薄く微笑む。
「君、グレイスが言ってた子でしょ? ……可哀相だねぇ」
突然そう言われて、少女は目を見開く。
可哀相? それは、死にかけているから?
「こんな所に来なきゃいけないなんて、嫌でしょ? 残念。可哀相に」
可哀相、可哀相と言う割に、その表情は笑みを含んでいる。どこか面白がっているような印象を受けた。
「あなた、誰なの」
少し先ほどより強い口調で問うと、青年はケラケラと笑った。
「俺? 俺は、ファントム」
返り血を浴びたような青年は、楽しそうにそう告げたのだった。