わたしがいた世界
「……っ、」
起きると、白が視界を支配した。
それに少女は一瞬呆け――しかしやがて、ここが病院であることを理解する。
何故なら少女の目の前に、消毒薬の匂いを香水代わりに身に纏った白衣の壮年男性が現れたからだ。
少女は、状況を把握する為に視線をめぐらせた。
そうして自分のいる、気がおかしくなりそうなほど白い部屋の中に3人の人影があるのを認めた。
一人は先ほどの、壮年男性。恐らく医師だろう。そうしてその医師と話しているのが一人のやつれた女性だ。年の頃は恐らく44、5といったところだろう。もしかしたら瞳に浮かぶ疲労の色が、実年齢より老けて見えさせていたかもしれない。そして医師の隣でひっそりと佇むのは恐らく看護師。
少女は視覚から与えられる情報が少ない為に困惑し、やがて声を上げてみた。
しかし医師も、向き合う女性もこちらには一瞥もくれずになにやら熱心に話し合っている。時には女性の方は瞳に涙を滲ませていた。
「……」
耳に入ってくるのは、何故か不自然なほど上滑りのする言葉ばかり。内容はちっとも頭に入ってこない。
やがて、連続してノイズ音のようなものが耳朶を打った。女性はノイズ音を口から発しながら、大袈裟に泣き崩れる。
「……」
少女はだんだんその光景が不愉快になってきて、再び目を閉じた――