闇を宿す青年
「……うん。何も、わかんない……」
「あぁ、やっぱりそうなんだ?」
さして驚いた風もなく。
いや、どちらかといえばそうだろうと確信していたかのように、平然と青年はそう言った。
「やっぱ、り?」
「だって、ここに普通の人間が来るわけないもの。言っても判るわけないと思うけど、ここって、君のいた世界じゃないんだ。ここは『夢』」
「ゆ、め? ……眠った後に見る、あの?」
「そう。でも今の君にその言葉は相応しくないね。君は見ているんじゃなくて、夢に訪れているんだ。……何故って、君は殆ど死にかけているんだからね」
「……!?」
あまりに突然な言葉に、少女は息を呑んだ。
死にかけている、とはあまりに穏やかではない。冗談なら質が悪すぎる。少女は何も覚えていないのだから、何を言われても疑い様がないのだ。
「……あの……」
「嘘だって思ってる? 僕は嘘なんて言わないよ。……なんて言葉、信じるかどうかは君次第だけどね」
そう言うと青年――グレイスは艶やかに笑った。
少女は改めてグレイスを見つめた。
漆黒の腰まで届く艶やかな髪。闇を宿したような底の知れぬ漆黒の瞳。右目を仮面のようなもので隠しているのは怪我でもしたのだろうか。
漆黒の着物、漆黒の羽織、そして……
「……ッ」
少女はそれを見て、声にならない悲鳴をあげた。