2/35
漆黒の世界
「……眼、覚めた?」
ぽつんと、小さく囁かれたのは、そんな言葉だった。
はっとして見渡すと、辺り一面漆黒の世界が少女を飲み込んでいた。
「……あ、れ? わた、し……」
「気分は、どう?」
耳元でそう言葉を紡がれ、少女は飛び上がる。慌てて振り返ると、背後では漆黒の髪を高く結い上げた青年がくすくすと笑っていた。
「……あなた……だれ?」
「僕? 僕はグレイス」
青年は穏やかな笑みを浮かべたまま少女を見つめた。
「ぐれ、いす?」
「そう。君は、何て名前?」
「……なま、え……」
少女は名前を思い出そうとして、何も思い出せないことに気付いた。
「……わからないの?」
それを察したのか、青年は少女が口を開くよりも早くそう問うた。