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漆黒の世界

「……眼、覚めた?」


 ぽつんと、小さく囁かれたのは、そんな言葉だった。


 はっとして見渡すと、辺り一面漆黒の世界が少女を飲み込んでいた。


「……あ、れ? わた、し……」

「気分は、どう?」


 耳元でそう言葉を紡がれ、少女は飛び上がる。慌てて振り返ると、背後では漆黒の髪を高く結い上げた青年がくすくすと笑っていた。


「……あなた……だれ?」

「僕? 僕はグレイス」


 青年は穏やかな笑みを浮かべたまま少女を見つめた。


「ぐれ、いす?」

「そう。君は、何て名前?」

「……なま、え……」


 少女は名前を思い出そうとして、何も思い出せないことに気付いた。


「……わからないの?」


 それを察したのか、青年は少女が口を開くよりも早くそう問うた。

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