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黒魔術師と3つのルール  作者: 寺町朱穂
3つ目のルール
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40話 ドッペルゲンガー?

※今回は香奈子視点でお送りします。




「疲れたよ~」



半分泣きそうになりながら、私は机に突っ伏した。

夏祭りが終わってから数日。ずっと休む間もなく『白魔術』の勉強をしている。

勉強は苦手ではないけど、嫌い。

だって、『勉強が好き』っていうと、みんな嫌な眼をするんだもの。

澪ちゃんなんて



『それ、皮肉に聞こえるからやめて』



と、何度も何度も繰り返し言うから……嫌になっちゃった。



「でも、私が『建国の儀』に出るなんて―――無理だよぅ」



腕に顔を埋め、私は唸った。


『建国の儀』というのは、グランエンド王国の建国を祝う祭り。

毎年、王族主催で盛大に開かれる祭は、アーニャ様の『白魔術』が喝采を浴びているみたい。

でも、アーニャ様は病態が悪く今回は欠席。その代わりに、私が舞台に上がることになったんだ。

ブルースさんの話だと、アーニャ様が3歳の時から任されていた大役。身体の弱いアーニャ様だけど、1度も代役を使ったことがなかったらしい。

―――なんで今回は、休んでしまうのだろう?

きっと、私と澪ちゃんを利用しようとしたから、天罰が下ったんだ。

そんな感じがした。



「天女サン!」



そんな私に、にこやかな笑みを向けて来てくれるチェイン君。

深緑の髪を、ポニーテールにしているチェイン君は、喧嘩をしているところを視たことがない。いつも笑顔を浮かべて、私を励ましてくれる。

アルフレッドさんやブルースさんたちと比べると、ちょっと軽い気がする。でも――優しい人だって、私は知っているんだ。



「どうしたの、チェイン君?」

「疲れたと思うから、休憩がてら庭でも散策しない?」

「え?あ…あっ!」



チェイン君は、私の返事を待たずに腕をつかんできた。

そして、庭の方へと歩き出す。私も引っ張られるようにチェイン君に続いた。こうして手を引かれるなんて、滅多にない。少し顔に熱が集まってきた。



「どうした、天女サン?手がアツいよ。もしかして、緊張してる?」



そう言いながら、悪戯っぽい笑顔を浮かべてくる。

私は首をふるふると振って、否定した。とんでもない、手をつながれただけで緊張しているだなんて―――恥ずかしくて言えるわけがないよ。



「べ、別に緊張だなんて……それに、1人で歩けるから……」



戸惑いながらも、私は握りしめられた手を外そうとする。でも、外そうとすればするほど――チェイン君は腕を強く握ってくる。まるで、決して離すまいと誓ったかのように。



「グランエンドの伯爵!カナコ姐さんから離れるッス!!」



痛みで顔をしかめる私を救うように、颯爽と現れる人影。

風でたなびくバンダナに、小さな背に程よくついた筋肉。そう、彼は――



「デ、ディンゴ君!?」

「僕がいるからには、カナコ姐さんはもう安心っスよ!」



にぃっと笑ったディンゴ君は、力任せにチェイン君を引き離した。

チェイン君は、明らかに不機嫌そうに口を歪める。……なんだか、珍しい表情を見てしまった。いつも明るくて調子物で、元気いっぱいのチェイン君が、こんな顔をするなんて……そんなに、手をつないでいたかったのかな?



「いったい、何を企んでいたんッスか?ことと場合によったら、僕がカナコ姐さんの代わりに正義の鉄槌を――」

「誤解だよ、ディンゴ君!」

「誤解?」

「うん、ただ一緒に庭園を散歩しようとしただけなの。

そうだ!よかったら、ディンゴ君も一緒に庭園散策する?」



私が誘うと、チェイン君が嫌そうな顔を浮かべた気がした。

でも、それは本当に一瞬。私が目をこすると、いつも通りの笑顔を浮かべたチェイン君がいる。

ディンゴ君は、嫌そうな表情に気が付いたのだろうか?

すぅっと目を細めて、ディンゴ君を睨みつけている。



「御一緒させてもらいたいッス!

……その男が、姐さんに手をだしてくるかもしれないッスからね」

「嫌だな。ちょっかいなんて、出さないよ。

俺は庭園探索のついでに、そろそろ到着する『ヴェーダ帝国使節団』を一緒に覗こうと思っただけ」

「使節団?」



つい、声が色めき立ってしまう。

ヴェーダ帝国といえば、この世界に平和同盟に加入していない最後の国。

使節団ってことは、ついに参加を決めたってことかもしれない!

ここの生活を離れるのは……せっかくできた友達と別れるのは辛いけど、そろそろ元の世界が恋しい。

特に、お米や御味噌が食べたい。

この世界って、和風っぽい世界観があるのに―――食文化だけ西洋っぽいんだよね。

でも、食事のためだけに元の世界に帰るだなんて―――この世界に悪い気もする。



「同盟に加入するってこと?」

「いや、それは未定みたいだよ」



チェイン君が首を横に振るう。



「参加するには、ヴェーダ国民の反発が大きいらしい。

だから、国民の反発が収まってから参加するんだって」

「うーん、そっか……」



国が成り立つためには、国民が第一。

反発が大きいなら、仕方がないかも。反発が収まるように、私も喜んで手をかさなければ。



「なるほどッスね。今回は、『建国の儀』だけ参加して、グランエンドに対するイメージを高めるってことッスか」



なんとなく釈然としない感じみたいだけど……それを振り払うようにディンゴ君は笑った。



「よし、観に行くッス!そろそろ到着する頃ッスから!

―――あっ、ほら!あれッスね!」



ディンゴ君は、窓の外を指さす。

覗き込んでみると、門の前に騎馬が連なっていた。

編み笠を被った女性を先頭に、牛にひかれた金の車を護るように囲んでいた。



「ねぇ、もっと近くに行ってみない?」



私は、彼らの返答を待たずに走り出す。

ひらひらと長いドレスは、転びそうになる。だけど、ドレスの端をつまみ駆け下りた。



「ようこそ、グランエンド城へ」


アルフレッドさんの声が、聞こえてくる。

たぶん、使節団を出迎えているのだろう。



「丁寧な御出迎えに、感謝します」



何処かで聞いたような声。

私はその声に郷愁を覚えながら、城門へと急いだ。



「それでは、中へ――」

「待って!」



やっとの思いで辿り着く。

アルフレッドさんは、驚いたように私を振り返った。



「カナコ!?白魔術の練習は――」

「今、休憩中なの。それで、彼女が―――使節団の方ですか?」



聞き覚えのある声、だけど――グランエンドにいるはずのない人の声。

それでいて、私が1会いたいようで会いたくない人。

私は期待を込めて、編み笠の彼女を見つめた。編み笠の彼女は、優しげな笑みを浮かべると笠を外す。

すると、ふわりと見事なまでの茶髪が顔を覗かせた。



「はい、ヴェーダ帝国使節団副護衛長、ミールと申します。

よろしくお願いします。えっと……」



どちら様ですか?と言いたげに表情を曇らせる。

澪ちゃんじゃない……でも、ミールさんは、どことなく澪ちゃんにそっくりで……

髪の色と名前が違うけど、目元とか、口元とか、雰囲気が―――。

なんだか、懐かしい気持ちになってきた。

もしかしたら、この世界に来てから2人目の女友達になってくれるかもしれない。

そんな予感が胸を横切った。だから私は、精いっぱいの笑顔で挨拶をする。



「私、香奈子と言います。よろしくお願いします、ミールさん!」

「はい、カナコ様。こちらこそ、よろしくお願いします。

―――それでは、そろそろ城へ入城してもよろしいでしょうか?」



アルフレッドさんに了承を得て、城へと進み始めるミールさん達。

背筋をピシッと伸ばしたミールさん達は、どことなく凛と引き締まっていてカッコいい。

あんな真剣そうな姿、私――この世界に来てから初めて目にしたかもしれない。

私は彼女たちの背中を、惚れ惚れと眺めるのだった。



















だから、気が付かなかった。

先頭を進むミールさんが、勝ち誇ったような笑みを浮かべたことに。





※9月25日:誤字訂正


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