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黒魔術師と3つのルール  作者: 寺町朱穂
番外のルール
36/77

35話 夏祭り―ナンシーの場合―


「本当に疲れちゃった――、でもやっぱり、お祭りっていいよね!」



良くないですよ!!

と、言う言葉を飲み込みます。

まぁ……確かに好きですけどね、好きですけどね!今回の夏祭りは楽しめませんでしたよ。

色々とツッコみどころがありすぎて。



でも、そんなことを面と向かって言えるわけがなく―――



「えぇ。とっても楽しかったです」



と、返す。

すると、案の定というべきか。カナコ様は枕に頬をつけて、ニッコリと微笑みました。

どうやら、私のことを本当に友達だと思っているみたいです。



「よかった、ナンシーちゃんも楽しんでくれたんだ!」



……ははは、あれで楽しいと思えるなんて、どうかしていますって。

生き地獄でしたよ、私からしたら。

カナコ様は、要所要所で腕を組んでくるのですから、取り巻きの方々の視線が痛いこと痛いこと。私、いつあの方々の夜討ちにあっても、不思議ではありませんよ。むしろ、何回か刺されそうでしたし―――。

あれですか、新手の嫌がらせでしょうか?まぁ……仕事ですし、我慢しますよ。



「それでは、私はこれで―――お休みなさい、カナコ様」

「ねぇ、ナンシーちゃんは、どうして敬語なの?私達、友達だよね?」



何度言えばいいのか。



「しかし――私は使用人ですので」



それでは、と逃げる様に部屋から出ます。

今日の仕事、ここからが本番です。私はパンパンっと頬を叩くと、あの場所へと急ぎます。

カナコ様の部屋の周りに昼間の男共が集まり始めていますが、気にしませんよ。どうせ、夜這いでも仕掛けるつもりでしょう。先程まで厄介者わたしがいたから、特攻を仕掛けられなかったんですね。

どうぞ、貴方たちは貴方たちでお楽しみくださいませ。



「さてと……あれ?」



その時です。

夜の闇に半透明の鳥が浮かんでいるように思えました。……たまに、見かけるんですよね。

あれ、なんなのでしょうか?

少し、いや結構気になっていますが……侍女仲間は誰も見えないみたいなので、質問しようとは思いません。

さて半透明の鳥は、大きな翼を羽ばたかせながら、ゆっくりと城上空を旋回しています。

そして、ゆるやかに滑空し、すぅっと開け放たれた窓に吸い込まれるように入り込んで―――


「って、あの部屋は!!」



私は目を丸くさせてしまいます。

何故なら、その部屋こそ、今から私が尋ねようとしている部屋なのです。

私は歩く速度を速めました。

今日こそ、あの不思議な鳥の正体がつかめるかもしれません!

ゴクリと唾を飲み込み、私は部屋へと急ぎます。

時間も夜なので、侍女が出歩く時間ではありませんし、見張りの衛士の立ち位置も頭の中にしっかりと入っています。なので、この警戒網の間を縫っていくことなど朝飯前なのです。



「よし……失礼します」



目的の部屋の扉を、決められたリズムで叩きます。

すると、中から入室を許可する声が聞こえてきました。なので、私は扉を開けます。



「来ましたね、ナンシー」

「はい、報告に参りました―――アーニャ様」



窓辺に腰を掛けていた本当の主人―――アーニャ様は、ゆっくりと微笑みを浮かべました。

その破壊力は、女の私であっても見惚れてしまいそうです。城仕え歴10年、いままで様々な美男美女を仕事の片手間で鑑賞してきましたが、明らかに上位に位置するでしょう。

例えるなら、初春の氷が張った湖面のように、触れれば壊れてしまいそうな儚く脆い美しさ。

アーニャ様の命令を受け、メイドとしてお仕えしているカナコ様や、アーニャ様の弟君であられるアルフレッド様からは大輪の薔薇のごときの美しさを感じます。それとは、まさに正反対の危うさを感じるのです。月光に濡れた金砂の髪を、小枝のような指で払い、しずしずと私に歩み寄ってきました。



「今日のカナコ様は、どのように過ごしていましたか?」

「は、はい!本日は夏祭りへとお出かけになられました。

……アルフレッド王子様、ブルース次期宰相様、チェイン伯爵様に加え、城に来訪中のエドネスの王子とカタリナ皇太子と一緒に、それはもう―――本人は楽しく遊ばれていました」



……思い出すだけでも、腹が立ってきます。

本人たちだけの幸せ時空に、歯ぎしりしましたよ。しかも、その幸せの花園を自分たちだけでやっていればいいのに、私にまで広げようとするのです。仕事じゃなかったら、さっさと人混みに逃げていましたよ。……いや、逃げた所で、すぐに見つけ出されていた気がしますけど。

……なんで、香奈子さんは私に構ってくるのでしょうか。もしかして、男の人より女の人を愛する性癖の持ち主なのかもしれません。それにしては、イケメン陣をはべらせてポゥっとしている時もあるので……両方来い!って人なのでしょう。

……生憎と、私は女性には興味がありません。眩いばかりの男性陣も、観賞用として見ているだけで十分なのです。



「大変でしたね、ナンシー。お疲れ様です」

「でも、これも仕事ですから……あ、そうです。アーニャ様にお尋ねしたいことがあるのですが」



ふと、先程まで報告ついでに尋ねたかったことを聞いてみることにします。



「先程、この部屋に不思議な鳥が入ってきたように見えたのですが……」



でも、不思議なことに半透明の鳥は見当たりません。

アーニャ様は驚いたように、眼を見開きました。



「まぁ、ナンシーはアレが視えたのですね」

「え、じゃあ……あれは、私の見間違えじゃなかったんですか!?」



少し驚きます。

夢にしては現実感がある存在を、今まで私以外――誰も認識していなかったのに――

アーニャ様は、あれの存在を知っていられたのです。



「あれは、私個人の伝令ですよ。少々、特殊な伝令でしてね……視える人が限られるのです」

「視える人?」



一瞬、黒魔術の存在が浮かび上がります。

確か……半透明の幽霊を伝令として扱うっていう技術が、黒魔術の中にあるって聞いたことがあります。でも、それは御伽噺のようなものですし……というか、アーニャ様の髪の毛は生まれた時から金髪のはずです。実際に、今も金髪ですし―――



「私は、髪を染めていませんよ。そんなことをしてしまったら、女神さまからの天罰が下ります」



どうやら、私の思考を看破したようです。

相変わらず鋭いお方です……。この人の前では、隠し事が出来ません。



「生まれた時から、父王譲りの金髪です。なので、私の扱う魔術は―――」

「白魔術でしたよね。すみません……疑ってしまいまして……」



光を専門に扱う特別神聖な魔術、それが『白魔術』です。

この魔術の使い手は、世界に数人しかいません。その中でも強大な魔術を誇る方が、いまだに病床に伏しているグランエンド国王様、国王代行のアルフレッド王子様に、カナコ様。そして、アーニャ様なのです。

体調を崩しがちなアーニャ様は、あまり白魔術をお披露目されないのですが―――

それでも、建国の祭りで毎年披露される光魔術は、誰もが惚れる儚さと暖かさを帯びています。

伊達に、カナコ様が来るまで『グランエンド王国:守ってあげたい女性No.1』ではないのです。



……きっと、私の知らない……黒魔術の伝令と似たような術が存在するのでしょう。



「そういえば、ナンシーに話しておきたいことがあります」



改まった口調で、アーニャ様は私に問いかけます。

私は姿勢を整えると、考えるのを辞めました。アーニャ様の命令であれば、私は何だってやってのけます。アーニャ様は仕える主であるということ以上に、私にないモノを沢山持った――理想の女性であり、憧れであり、崇拝対象なのですから。



「はい」

「あれは、ヴェーダ帝国からの伝令ですよ。――グランエンド国の癌を取り出す用意が出来たと」



国の癌――それは、カナコ様と、彼女を中心とした取り巻き陣。

それを取り出すために、海の向こうのヴェーダ帝国と手を結んでいたなんて――さすが、アーニャ様です。



「しかし、その治療道具の受け入れは……どうすればいいのです?」

「その手引きを、ナンシーにやって貰おうと考えているのです」



ふんわりと微笑みを浮かべるアーニャ様。

だけど、その微笑みの中には、冷やかな色が混ざっています。

数年前に病で危篤状態に陥ってから、何かを悟ったのでしょう。たまに、こういった瞳になる時があります。

冷徹でありながらも、不思議と柔らかさを交えたお方―――ただ、男共に姿を見せただけで虜にするカナコ様と違います。

引きつけられる魅力という点では、一緒でしょうが――――――もっと深い、何かを感じ取るのです。



「分かりました。それで、手引きの方法はいかがいたしましょう?」

「それはですね―――」



アーニャ様の口から飛び出された言葉に、私は耳を傾けます。


これで、また一歩―――堕落したアルフレッド王子に変わって、アーニャ様が国を支配する日が近づいたようです。

そう思うと、無性にうれしくなって――微笑みながら作戦を聴き入りました。


アーニャ様にしか考え突かない、不思議な作戦を。



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