第7話
きれいな顔の御堂に思わずキスしてしまった。
浩一は、ベッドにごろごろしながら昨夜のことを思い出す。
「ああいうときって どういえばいいのかな」
確かに、女の子と飲みにいって その日のうちにキスなんて普通にあることだ。しかし、男で きれいでも友達で、キスしてーって思ったことも信じられないが、そのキスを思わず堪能してしまった自分にかなり自己嫌悪に陥っていた。
やわらかい唇に、きっと御堂も驚いたのだろう、あっけにとられてなすがままだったけれど。でも 半開きの唇に少し舌を差し込んだとき 御堂も答えるように少し差しだしたように思ったが・・・
「彼女、みつけたほうがいいよ」
といったきり御堂は真っ赤になって俯いた。
正直、その言葉に 胸が痛くなった。
なんか、失恋した・・・って感じの・・。
そのあとこっちのことを察知したのかすぐ吉田がやってきて
「今日は バイトのみっちゃんとやっちゃんがいるからいいんだよん」となんとかその場を取り繕ってくれたけれど、御堂は先ほどの話には一切触れず無視もしないけれど、打ち解けた感じではなかった。
ただ、あの優しげな笑顔を向けてはくれていたから、嫌われてはいなかったけれど。
「そういえば、メガネは付き合っている人いるんだっけ」
片手に二人の奢りのジンフィズを持って吉田が御堂に尋ねた。
「いないよ。今は」
「へえー。そうなんだ。んで、高野は?」
「俺は、当分いらないかな。彼女は」
「へえー。美人さんとイケメンなのに、お互いお付き合いする人がいないの」
吉田は、まじまじと二人の顔を窺うが、御堂は顔を下に向け、高野は御堂の行動に目を取られている。
「んじゃ、二人とも付き合っちゃえば?」
酒が入っているからだろうか、胸がズンと重くなる。
「吉田。言っていいことと悪いことがある」
そういったのは御堂だ。声音でかなりうろたえていることがわかる。
「えー。だってさあ。お互い 誰も付き合ってないんだろ。ま。お友達ってことではじめは」
お友達って・・
「あのさ。吉田。俺と御堂は、もうずっと昔っからお友達なの。な。そうだろ?」
そうだ。友達として 好きなんだ。
浩一はそう思った。中学の時のことを少し思い出したが、黒縁めがねと自分は同じものを見てきれいだと感じれた。そしてあの桜も。
これって 感性が同じってことなんだから。
なーっと御堂にグラスを向けると彼は、ちらっと浩一を見ていった。
しかし肯定も否定もなかった。
そして・・・気が付いたら、浩一は家で寝てた。
「あー!!!俺って馬鹿!いくら欲求不満でもなんでやっちまったんだよ!」
枕を抱えながらあっちへごろごろこっちへごろごろとするが、頭の中にはあの驚きと唖然とした御堂の顔しか浮かばない。
「ちょっとエロすぎだし!馬鹿みたいにきれいだし!!」
なんなんだよ。あいつ!いや。俺がやっちまったんだっけ。こういうときどうやって謝るわけ?
そんでもって
「彼女、みつけたほうがいいよ」
御堂の言葉が胸に突き刺さって離さない。
ズキズキと胸が痛む。
「なんか変態って思われてるんじゃないか?俺って・・・」
そう思って携帯を見るが、御堂からのメールは来ていない。
来てるのは、吉田のものだけだ・・・。
「よしだ~~~。てめえのメールはいらねえんだよ!」と携帯をベッドわきのソファーに投げ捨てた。
それからずっと朝食も 昼食も食べないで・・・4時。
「 バイト・・・休めないよな」
ようやくベッドから起き上がり バイトに行く準備に取り掛かる。本当なら休みたいんだけれど、今日は、どこかの会社の新入社員の歓迎会が入っていると聞いていた。
シャワーを浴び、準備をすべて整えると携帯が鳴った。
吉田か?さもなくばアルバイト先の長谷川か?もしかすると美奈?
浩一は無造作にそれを取るとそれは無音だった。
「は?もしもし、誰?」
どうせ電話をかけてくるのは、吉田か美奈かだと思っていたから強い口調で尋ねる。
「もしもし。御堂です」
「あ・・・御堂?」
思わぬ人からの声に浩一の声が裏返った。
「うん。浩一、大丈夫かなって思って。昨日しこたまお酒飲んでたし」
やさしいテノールに 胸のつかえが癒されていく感じがする。
「いや。大丈夫・・・俺、酒に強いし」
「でもかなり飲んでたよ。帰りも、吉田が送っていったでしょ」
そうだったっけ・・・覚えがない。
ごめん。忘れてるというと電話の向こうでくすくすと笑い声がした。
「忘れっぽいよね。浩一ってさ」
「そうかな」
「そうだよ」
部屋から出て、駅に行く道すがら、浩一は 御堂とたわいのない話を続ける。
「今どこ?」
「駅に向かってるとこ。バイトだよ」
「そうなんだ。僕も家庭教師のバイト」
「なんか御堂っぽい」
普通の会話も、なんか、いいな・・と浩一は思う。生活のことを普通に話して、そして笑ったりふざけたりするって。
駅に着いたことを伝えると御堂も「僕もそろそろ乗るから」というと「また電話するね」と浩一は答えて 携帯を切る。
御堂からの電話に「これは明らかに友情復活だ!」とガッツポーズをする。
しかし、駅構内ではあきらかに奇妙な行動で周囲の人は奇異な行動をとる人だという視線を浴びせていたのだが、何だかわからない幸せにひたる浩一にはそれも幸せの光にしか感じていない。
そして、向かいの駅のホームには浩一との会話を終了し、安堵の息をついた御堂が携帯電話を手に立っていた。